メルマガ:少女の性シリーズ
タイトル:少女の性 646  2024/12/15


少女の性 第六百四十六部

「はい、のれそれってご存じですか?」
「えっ、のれそれ?本当ですか?」
「ご存じなんですね」
「一度だけ食べたことがあるけど、でもそれって・・・・・」
「そうです。のれそれです」
「失礼ですが、こういう店でのれそれなんて・・・・・きっと、凄く高いですよね?」
「そうなんです。だから店の者にも呆れ返られて、当然ですけど。でも、どうしても少しだけ仕入れてみたくて・・・・もしかしたら今日、お客さんがいらっしゃるって予感がしたのかも知れませんね」

そう言うと店長は朗らかに笑った。もちろん、この時点で宏一はまだ注文はしていないのだが、既に二人の間では注文成立という感じだった。

「それで、どんな風に出してくださるんですか?」
「はい、産地の高知では踊りで出すんですが、さすがに活けで仕入れたわけじゃないので、刺身を三杯酢にするのと、握りでいかがでしょうか?」
「はい、お願いします。いいですねぇ。以前私が食べたのも握りだったんです」
「お値段なんですが、実は・・・・・」
「刺身と握りの二つで1万円ちょっとって感じかな?」
「はい、そこまではしませんが、そんな感じです。ご注文いただければ仕入れた分、全部お出ししますので、お好きに召し上がっていただきたいと思います。さすがですね。よく知っていらっしゃる。どこで召し上がったんですか?」
「成田空港」
「あら、それで・・・・・。それじゃ、準備に入りますので、また参ります」
「あ、それなら、お刺身もオススメでお願いします。それと焼き魚と天ぷらも」
「かしこまりました。のれそれも一緒に刺身に盛り付けますね」
「それじゃ、先ず生を一つと簡単なつまみをお任せで」
「かしこまりました」

女性店長は高額な仕入れがはけたので、ニコニコ顔で厨房に戻っていった。宏一も驚いていた。ここは居酒屋でチェーン店らしいが有名チェーンではない。だからメニューは数百円のものばかりで、一品で数千円もするものなどどこを見てもない。だが、よく見ると壁に貼ったポップの中に、確かに『店長のオススメ、超珍味、高知名物 のれそれ』と言うのがあった。ただ、値段は『時価』としか書いてない。それはそうだろう。例えば5千円と書いたって、ここはリーズナブルな居酒屋なので頼む人が居るとは思えない。

すると店員が生とお急ぎメニュー2品と突き出しを持ってきた。お急ぎメニューは梅きゅうと板わさ、突き出しはブリ大根だった。
宏一が生で喉を潤してつまみをつついていると、やがて店長が刺し盛りを持ってきた。

「お待たせしました。お話を聞かせていただいていいですか?」
「はい、構いませんよ」

見ると、刺身は豆アジを開いたものとなめろう、コウイカの刺身にマグロと小さなカップに入ったウニが綺麗に盛られており、のれそれは中央にすだれに乗せてあった。ベースは大根のつまがワカメと一緒に綺麗に盛り付けられていた。宏一は『これだけの刺し盛りならのれそれ抜きで三千円、いや、もう少しかな』と思った。これだけ盛り込んであるのでさすがに見た目から豪華だ。宏一は上機嫌で生ビールをあおりながら鰺から食べ始めた。

わざわざ豆アジとなめろうの二種類を盛り込んであると言うことは自信があるのだろうと思っていたが、確かに味は美味しかった。東京ではなかなかお目にかかれない鮮度だ。

すると女性店長が顔を出した。

「いかがですか?」
「この豆アジとなめろう、美味しいですね」
「そうですよね。これだけ新鮮なのはなかなか。これ、私が指で開いたんですよ」
「そうでした。豆アジを開くときは親指で開くんでしたね」
「ま、そんなことまでご存じなんて。その通りです。私は指が少し細いので豆鰺を開くのが少し下手なんですが、今日は上手くいきました」
「本当に美味しいです。鮮度は豆アジが一番ですね。なめろうも味付けが良いので美味しいです」
「そっちは味噌がポイントなんです。私の地元から仕入れてるんですよ。大豆の味がしっかりしてるので。店の者も大好きです」
「へぇ~、凄いですね。拘ってるなぁ」
「また来ます」

それだけ言うと、女性店長はさっと引っ込んだ。宏一は『よし、それじゃ、のれそれを食べてみるか』とのれそれの刺身を食べてみた。のれそれは味自体はほとんど無くて微かに甘みがある程度だが、歯ごたえがとても独特だ。『うん、美味しい』と宏一は一気に楽しくなった。居酒屋だと無理に生で出して臭う刺身を出す店もあるが、ここはちゃんとしているようだ。

本当にお世辞抜きで豆アジとなめろうは特別に美味しかったし、コウイカとマグロだって美味しかった。宏一は追加で更に何品か注文して、冷酒を頼んだ。するとまた女性店長が出てきた。

「冷酒とのことですが、お好みはありますか?」
「高知の気分を楽しみたいので、あの辺りのお酒があれば。無ければ似た感じのものをお願いします」
「ありがとうございます」

女性店長はそれだけで引っ込んでしまった。

すると、高知の酔鯨が出てきた。よく冷えていて爽やかな酸味がのれそれとよく合う。宏一はのれそれを大切に食べながら冷酒を楽しんだ。その間に焼き魚はイナダの酒塩焼き、のれそれの三杯酢、そして天ぷらの盛り合わせが出てきた。
宏一はもう上機嫌で鮮魚を楽しんだ。冷酒も2度お替わりしたが、まだいけそうな雰囲気だ。するとまた女性店長が出てきた。手に皿を持っている。

「のれそれが少し余ったので天ぷらと茶碗蒸しにしてみました」

そう言ってのれそれの酢の物と天ぷらと茶碗蒸し、それと小皿の軍艦巻きを置いた。もちろん、どれものれそれのものだ。

「酢の物ですね。美味しそうだ。天ぷらは分かりますが、わざわざ茶碗蒸しにしてくれたんですか?ありがとうございます。手間でしたね」
「せっかくののれそれですから。出汁も引いてあります」
「出汁を引き直したんですか?仕込みのじゃ無くて?」
「仕込みの時の出汁は、いろいろなものに合うように少し味が濃いんです。でも、のれぞれはほとんど味が無いので出汁の味しかしないなんて勿体無いじゃないですか」
「わざわざありがとうございます。心していただきますね」

宏一は直ぐに酢の物を食べてみた。この独特のクニュクニュとした食感は、たぶん他の食材では出会えない。

「うん、美味しいです。よくできてますね。高知なので三杯酢ですね」
「はい、そうです」
「でも、橙じゃ無いですね。スダチか何かですか?」
「よくお分かりですね。今日はぶしゅかん(仏手柑)を使ってみました。ご存じですか?」
「いや、知らないです。高知はいろいろな柑橘があるんでしたね。初めて聞きます」
「ちょうどぶしゅかんが残っていたものですから」
「のれそれと言い、ぶしゅかんと言い、ここは高知の食材を推してるんですか?」
「いえ、先週まで高知フェアをやってたので残ってたんです。それで今日、時季外れののれそれを見つけたもので、つい仕入れてしまいました」
「高知から運んできた割には鮮度が良いですね」
「いえ、これは茨城ののれそれです」
「茨城で取れるんですか?知らなかった」
「でも確か、成田空港で召し上がったっておっしゃいましたよね?だからご存じなのだと・・・・・・」
「知りませんでした。海外から帰ってきたときに、久しぶりの日本だったので思い切って高そうなお鮨屋さんに入ったんです。それで食べたんですよ」
「そうだったんですか」
「でも、そのお鮨屋さんでも、その時一度だけしか見なかったです。それから何度か立ち寄ろうと入り口で聞いてみたんですけど、仕入れてないって言われました。今から考えると、時季外れだったのかも知れませんね」
「そうですか。それなら今日、時季外れのが入ったので久しぶりに出会えて良かったですね」
「はい、人生二度目にして、こんなにいろんな料理で楽しめるなんて、ラッキーです」

宏一はそれから女性店長としばらく話をしながら酒を飲んだ。ちょうど客の切れ目だったのか店長も話に付き合ってくれた。やがて店長が厨房に戻り、宏一はそれからも何品か楽しんで十分に満足してから店を出た。店を出てから暖簾を見ると、リーズナブルなはずの居酒屋が高級割烹に見えるから不思議だ。宏一は上機嫌で帰途に就いた。

帰りに近くのコンビニに寄って少し買い物をしていると、なんと目の前に先程まで話していた女性店長がいた。

「あれ?さっきの・・・・」
「こんばんは。たのしんでいただけましたか?」
「はい、それはもう。おかげさまで」
「それは良かったです。それではまたのお越しをお待ちしております」
「はい、ありがとうございます。今度からもっと寄りますね」
「ありがとうございます。あ、それと、一つお聞きしたいことがあるんですけど、よろしいですか?」
「はい、なんでしょう?」
「今日はのれそれの料理で、刺身、お寿司、酢の物、茶碗蒸し、天ぷらとお出ししましたが、どれが一番おいしいと思われましたか?」
「はい、一番はお刺身、次が酢の物、同じくらいで天ぷら、そして茶碗蒸しって感じですかね?」
「そうですか。お刺身は一番としても、酢の物と同じくらいで天ぷらなんですね」
「はい、それには理由があって・・・・、あ、すみません、コンビニの中での立ち話も何なので、そこで一杯お付き合い願えませんか?ちゃんと話したいので」
宏一が露骨に誘うと、店長は一度ため息をついてから改めて答えた。
「はい・・・・・良いですよ。一杯だけ。そこのお店で良いですか?」
「はい、もちろん」
「それでは出ましょう」

宏一は店長のあとについて店を出ると、『そこのお店』と言うには少し遠かったが、小さなバーに入った。バーテンと挨拶したところを見ると常連のようだ。そして直ぐに店長はマルガリータを頼み、宏一はマティーニを頼んだ。

「それで、きちんとって、どういうことなんですか?」
「それは、先ず酢の物から言うと、のれそれって味がほとんど無いじゃないですか。だから三杯酢にどっぷり漬かってるとのれそれの味を邪魔しちゃうんで刺身より下というのが二番の理由です。だから、三杯酢は別添えにして仏手柑でしたっけ?あれをかけて食べるようにした方が良いと思いました」
「確かにそうですね。酢に浸かってると色も変わるし、その方が美味しく食べられますね」

二人はできあがったカクテルをそれぞれに飲み始めた。

「私は生しか食べたことは無かったんですけど、今日初めて火の通ったのれそれを食べました。あの独特の食感が無くなった代わりに、あっさりとした淡い良い味を楽しめたのは予想外の嬉しさでした。だから、全体の調和の中での具の一つになる茶碗蒸しよりも上にして、これだけ美味しければ酢の物に近いと思ったんです」
「そう言うことですか。確かに、のれそれを仕入れても刺身で出なかったときくらいしか火を通したものをお出ししないから、今日みたいに新鮮なものは滅多に天ぷらにしませんから」
「そうだと思います。これからも仕入れる予定はありますか?」
「いえ、今日はたまたま見つけましたけど、夏には滅多に無いんです。本当に偶然です。私がちょっと好奇心を起こしただけなんですよ」
「でも、お宅は一応、何て言ったら失礼ですがチェーン店ですよね?仕入れって自由にできるんですか?」
「店長の裁量で何品かは仕入れていいことになってるんです。だからいつも河岸には行くようにしてます」
「そうなんですか。それじゃ、これからも寄りますからね」
「はい、お待ちしております」
「それじゃ、今日はありがとうございました」

そう言うと宏一はバーテンに二人分の勘定を頼んだ。

「あれ、もうお帰りですか?」

店長は意外という感じだ。

「はい、一杯だけの約束ですからね。しつこくして嫌われたくないですから」

宏一はさっき店長がため息をついて一杯に同意したことを思い出していた。

「そんなことは・・・・・」
「こちらは店長さんの行きつけですか?」
「はい、実はそうなんです。雰囲気が良いので静かに飲みたいときに来るんですよ」
「そうですか。大切なお店に連れてきていただき、ありがとうございました」

宏一が帰る姿勢を崩さないので、店長は名刺を取り出した。そして、その中から一枚を取り出して宏一に渡した。

「高橋美咲って言います。今後もよろしくお願い致します」
「はい、三谷宏一です。よろしくお願いします。あれ?ラインのQRコードが付いてますが、いいんですか?お店の?」
「いえ、私のです。お店の連絡先のと個人用のと名刺を2種類持ってるので、三谷さんには個人用の名刺をお渡ししました」
「凄い。これはラッキーです。今夜は楽しく帰れそうです」
「はい、また是非、機会があればご一緒させてください」
「はい、ありがとうございました。それでは失礼させていただきます。高橋さんはもう少し飲んで行かれるんですよね。おやすみなさい」

宏一はそう言って店を出ると、名刺の情報を直ぐに登録した。すると、ラインはすぐに帰ってきた。どうやら先が楽しみだ。
翌日、宏一が昨日さとみに出したメールの返事が来ていた。やはり時間を作るのは無理そうだ。それはそうだろう。まだ部屋が完全に片付いてないのだ。それでも、金曜日は外での食事に誘って欲しいと書いてあった。だから宏一は金曜日を楽しみにしていると変身しておいた。

実はさとみは、心の中のどこに宏一を置くべきか迷っていたのだ。恋人なら週に二度や三度は会っても不思議はないのだが、明らかに宏一はそういう存在では無い。だから週に一度くらいにするべきだと思っていたのだ。そして、どうやらまだ元カレと暮らしていた頃の名残を引きずっていると気が付いて気が重かった。
その日の仕事は順調に進んだし、宏一はずっとさとみと会議室に居たが、さとみは全然宏一を見ようとしなかった。


つづく

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