メルマガ:少女の性シリーズ
タイトル:少女の性 633  2024/09/15


少女の性 第六百三十三部


さとみは今日、宏一を部屋に誘うことにしているので、それを何度も確認しているようだ。

「でもさ、それじゃ、夕食はどうするの?外で済ますなら店を探さないといけないし、夕食から部屋で過ごすなら食料の買い物が要るし、どっちにしても動物園のあとに行かなきゃ」
「外食は嫌。部屋に戻ってからバタバタしたくないもの」
「それじゃ、買い物が必要だね」
「じゃーん、それが必要ありません。どうしてでしょう?」
「え?要らない?それは・・・・・・・・」
「ふふふふふ、わかるかな?」
「・・・・・・・・もしかして、宅配?」
「大正解。6時半に来るの。お楽しみに」

さとみはとても楽しそうだ。会社では全然楽しそうではないのだが、プライベードではこんなにもリラックスした笑顔のさとみに会える。宏一は笑顔のさとみを見ながら、こんな素敵な子を手放すなんて、そんな男の気が知れなかった。

二人が楽しく話していると、前菜とビールが届いた。

「昼からビールなんて、なんかいけないことをしている気分」
「そうだね。いけないことをしている俺たちに乾杯」

「かんぱーい」

二人はあっという間にビールを飲み干してお代わりした。やはり夏は喉が渇く。すると炒め物が出てから北京ダックが出てきた。

「うわぁ、美味しそう。久しぶり」
「この店の北京ダックは肉も一緒にスライスするんだね。コースの中に一品だからかな?」
「ちょっと聞いてみる」

さとみは店員を呼び止めて聞いてみた。すると、やはりコースの場合は一人四分の一羽なので肉もスライスして出しているという。

「それじゃ、美味しかったら一羽追加しようか?」
「食べられる?コースの他のもあるのよ」
「そうだね。まぁ、楽しみながら考えよう。ビールも美味しいし」
「こんな明るいうちからビールを飲んじゃうのって、楽しい」
「うん、そうだね」

女性の場合は昼に飲むと、汗で化粧が崩れるのを気にして飲まない人も多いようだが、さとみは気にしないらしい。もともと化粧が薄いのと、今日は部屋に泊まっていくという気楽さからなのだろう。
コース料理自体は北京ダック以外は一般的な中華のコースだが、丁寧に料理してあるのが伝わってきて薄味で美味しかった。二人は少しだけ紹興酒も飲んだ。

「宏一さんは中国にも行ったことあるのよね?」
「うん、しばらくだけどね」
「中国の食事って、こんな感じだったの?」
「基本的には大皿料理だけどね、中国は。ほら、クルクル回るテーブルだから」
「あれって、誰が回すの?」
「料理を持ってきた店の人が回すのが普通だけど、自動で回ってるのも結構あるよ。なぜかほとんど右回りなんだ。もちろん、自分たちで回すことも多いよ。一人や二人なら普通のテーブルだしね」
「大皿から取るのって、なんか考えちゃう」
「女の人はそうだろうね。今は感染防止で、取るための箸やレンゲが付いてるけど、気にしないで自分の箸で取る人も多いし、もともと、中国の文化では、隣の人に自分の箸で取ってあげるのがおもてなしだからね。日本では考えられないけど、そう言う文化なんだ」
「いやじゃなかった?」
「え?」
「だって、中国で中国人と中華料理なんて・・・・」
「中国なんだから当たり前だけど、どうして?」
「だって・・・・・・・」

どうやらさとみは中国に対するイメージ自体が良くないらしい。

「何か中国とか中国人で問題があったの?」
「そう言う訳じゃないけど、ほら、うるさいし、自分勝手ってイメージがあるじゃない?」
「そうか、爆買いとか、マナーが悪いとか、そう言うことかな?」
「うん、なんとなくだけど・・・・」
「みんなで丸いテーブルに座るけど、例えば席順はすごく厳密に考えられてて、日本の宴会以上に席の並びには気を遣うんだよ。誰と誰を隣にして、誰と話をしてもらって、それを誰と誰に助けてもらってって。中国の沿海では、食事の内容よりもどんな話をするかが大切だからね。それと、お酒はみんなで飲むものなので、必ず誰かと乾杯しなきゃ飲んじゃいけないとか独特のルールがあるし。自分の目の前のグラスのお酒を自分でグイッと飲んじゃいけないなんて、面白いよね」
「なにそれ?」
「日本だと、食事の時のお酒は料理と一緒に楽しむもので、お酒は料理にくっついてるけど、中国ではお酒は友好や交流を確認するためにお互いに祝って飲むものだから、料理がどうこうじゃなくて、誰と飲むからこのお酒、って決めるんだ。だから、慣れるととても気持ち良く宴会が進むよ。まぁ、日本人は慣れるまでが大変だけどね」

「でも、いくら中国だって、お酒の弱い人だって居るでしょう?」
「そうだね。今の中国の経営陣には飲まない人も多いからね。そう言う人は、乾杯先生って言って、社長の代わりに乾杯で飲む人を別に用意して置いて、社長は乾杯だけして乾杯先生が社長の代わりに飲むんだ。そう言う人はとてつもなくお酒が強いよ」
「へんなの」
「確かにね、でも、それだけ乾杯で飲むお酒と飲む相手を重視してるってことだよ。日本では最初に乾杯するだけだし、一人で勝手に飲むし、飲まない人も多いけど、中国の宴会では何度も何度も、いろんな事に乾杯するんだ。飲むための口実をたくさん考えられる人が優秀な人だよ」
「ふぅーん、よく分かんないけど、それはそれで楽しいのかも知れないわね」
「そうだね。文化って面白いよね」

「宏一さんて、あちこちの国に行ってて、いろんな事知ってるのね」
「派遣の仕事の良いところは、仕事を選べるって事だからね。外国絡みの仕事をよくやってきたからね」
「私なんて、ずっとこの会社だもの」
「一応満足してる?」
「満足って言うか、仕事だから」
「特に重大な問題がある会社って訳でもなさそうだしね。まぁ、小さな問題は色々あるだろうけど」
「小さい問題かどうかは別にして、ごく当たり前の会社なのかも知れないわね」
「でも、業績が伸びているのは良いことだよね。こういう所で二人で話すことじゃないかも知れないけど、きちんと給料だってボーナスだって出てるみたいだし」

「宏一さんはボーナスあるの?」
「無いよ。派遣だからね。その分、契約の時点で給料が高いからね」
「いつまでなの?」
「一年契約を更新してるから、実際の所は分かんないけど、まぁ、あと1年ちょっとかな?引っ越しが全部終わって少しすれば完成だから」
「そう・・・・・・・」
「どうしたの?」
「ううん、その後はどうなるんだろうって・・・・・」
「まぁ、それはその時になってみないと分からないよ。この会社にもネットワークを強化するいろんな構想はあるみたいだし。さぁ、仕事の話はこれくらいにしようよ。さとみさんのことを聞かせてよ。俺はスーツを着たさとみさんじゃなくて、そのスーツの中に興味があるんだから」
「イヤー、いきなり下ネタ?」
「そうかな?ま、そうかもしれない。ごめんなさい、正直に言っちゃったよ」
「ううん、良いの。言っただけ。私は引っ越しが終わって、やっと一息って所。あとは知ってるでしょ?」
「そうか」
「私のこと、全部知ってるくせに」

そう言ってさとみは宏一を見つめた。

「だから、宏一さんのこと、もっと知りたいの」
「そう思ってくれるのはすごく嬉しいよ。俺だってさとみさんのこと、もっと知りたいからね」
「もっと知ったって、きっとがっかりするだけだと思うけど」
「人ってそういうものなんじゃないの?だって、誰だって人には最初に自分の良いところを見せるんだから、知れば知るほどそうじゃない場所を知ることになるんだし、だから、ある意味がっかりするのは当たり前だし」
「ふうん、結構哲学的なんだ。確かにそうかも。でも、私はもっと宏一さんを知りたいな。例えがっかりしても。それじゃ、そろそろ出ましょうか」

話に夢中になっている間に、二人は全て料理を平らげていた。だからほろ酔い気分で店を出ると、動物園の方に向かって歩き始めた。
レストランを出れば直ぐに西郷さんの銅像が目の前だが、そこから公園に入ったあとが結構長い道のりだ。二人は日陰を選びながら動物園の入り口まで15分ほど歩き、そして入場券を買って中に入った。

「さとみさん、今日は何を見たいの?」

宏一はマップを見ながら聞いた。さすがに広いのが良く分かる。

「特には考えてないけど・・・・・・あちこち・・かな?」
「そう、それじゃ、順に見ていこうか、結構時間、掛かりそうだから、その次の予定も考えて出る時間を決めておこうよ」
「そうね。夕食は届くから準備は要らないし、飲み物は一通り用意してあるけど、宏一さん、ワインとか日本酒とか、何か好みのものがあるようなら買っていきましょうか」
「そうだね。ワイン屋さんとか近くにある?この前さとみさんとワインを飲んで楽しかったからさ」
「お店は近くに無いから、どこかに寄って行かないと。それじゃ、その時間と、食事が届く前にシャワーの時間を考えて、と。部屋に着くのが6時なら、ワイン屋さんに行くのは5時半だから、ここからだと4時には出ないとね。余裕を見て3時半かな?」

時間を素早く計算できるのはさとみの仕事のおかげかも知れない。

「え?でも、もう2時だよ」
「誰かさんが遅れてきたから・・・・・」
「遅れてって、ほんの数秒・・・・」
「遅れたわよね?」
さとみは、宏一を見てはっきりと念を押した。
「さとみさんて、結構、根に持つタイプなんだね」
宏一が済まなそうに言うと、さとみは破顔して言った。
「うそうそ、気にしないで。でも、3時半になったら出ましょう。ね?機嫌を直して」

そう言うとさとみはわざとらしく宏一の腕を取って入って行った。上野動物園は入場料が安いので小さな子供連れの家族が多い。次々に公営の施設が民営化する中で、上野動物園は今もきっちり公営のままだ。

この日も小学生以下の子供ばかりで、他には学生のカップルがチラホラ見えた。だから宏一たちのような社会人カップルは少ない、と言うか、稀だ。
二人は象の住む森からライオンやゴリラを順番に見て、バードハウスの中を通り抜けてからホッキョクグマとアザラシの海へと回っていったが、余りゆっくり見たわけでもないのに既に時間は2時半を回ってしまった。

「まだ五分の一も見てないのに、あと1時間になっちゃった」
「本当にゆっくり見るなら3時間か4時間は掛かりそうだね。どうする?早足で全部回る?それとも、好きなものを重点的に見る?」
「急いで回ったって疲れるだけ。気に入ったものだけ見ましょう」
「そうだね。それじゃ、どこに行く?」

宏一がマップを見せると、さとみはしばらくジーッと眺めてから言った。

「バイソンを見てから、ペンギンとフラミンゴに行きましょう。それで時間が余ったら、また考えれば良いと思うの」
「そうだね。良いアイデアだと思うよ」
そう言うと宏一は一番近いバイソンを見に行った。
「へぇー、これがバイソンなんだ」
「うん、初めて?」
「そう、動物園は好きだけど、なかなかバイソンなんていないもの」
「バッファローは見たことある?」
「無い。名前だけ。テレビでは見たことあるけど。やっぱり格好良いな」
「バイソンとバッファローって、よく似てるでしょ?」
「うーん、そうかなぁ・・・・・・やっぱりわかんない」
「アメリカ人はバイソンのことをバッファローって呼ぶんだけど、実際のバッファローって水牛のことだから、角がすごく大きい牛でバイソンとは全然違ってて牛の一種なんだ。それでバイソンはこんな風に毛の生えてる場所が狭いんだ。国で呼び方が違うって変だよね」
「ふうぅん、でもバイソンて格好いいな」

「北米には昔、開拓時代にはとてつもない数のバイソンがいたらしいけど、みんな撃ち殺しちゃって、いま残ってるのはごく僅か、今は僅かな数が国立公園や保護区にいるだけなんだ」
「食べちゃったの?」
「ううん、レジャーで単に撃ち殺しただけ」
「それって酷くない?」
「今から考えるとね。でも当時は撃ち殺して遊ぶって言うのが普通だったんだ。列車の窓からみんな銃を構えて、列車が走るのに合わせて線路沿いにいるバイソンを全部撃ち殺してスッキリしてたみたい」
「それで、今は全然いないの?」
「もともと性格が大人しいからね」
「なんか、かわいそう」
「本当だね。でも日本だってトキやアホウドリなんかを全部殺してしまったんだから、どこの国でも昔はそんなものだったんじゃないのかな?当時の人は自然を保護しなければいけないなんて、夢にも思わなかったと思うよ。まだ人口も少なくて、人が自然の隅っこにいた時代だからね。今の考え方で昔を判断するのは変だよ」
「そうかも知れないわね。それじゃ、次、ペンギンに行きましょう」

そうさとみは言うと、宏一を引っ張るようにペンギンに向かって歩き出した。しかし、東園から西園の奥まで行かなくてはいけないので、意外に時間が掛かる。

「距離はともかく、遠回りしてこんなに時間が掛かるなんて。これじゃ、ペンギンを見たら帰らないと。全然ゆっくり見てられなかったわ」
さとみはチラッと時計を見て言った。
「そうか、宅配の時間が決まってるからね」
「遅らせられないか、聞いてみようか?」

そう言うとさとみは遺産で電話をかけたが、しばらくしてがっかりして電話を切った。

「夕方は時間が混んでるから、早くすることはできるかも知れないけど、遅くするのはずーっと遅くするしかないんだって」
「ま、動物園はまた来れば良いさ。ね?」
「宏一さん、また一緒に来てくれる?」
「もちろん。毎週土曜日は上野動物園、とかね?」
「へぇ、それ、素敵ねぇ。そんな素敵なこと言ってその気にさせちゃうと、本当に誘っちゃうわよ?」
「それじゃ、来週も来る?」
「来たいけど・・・・・・・きっと何か起こりそうな予感がするから、水曜日辺りにどうするか決めましょう」
「わかったよ」


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