メルマガ:少女の性シリーズ
タイトル:少女の性 527  2022/08/21


少女の性 夏休み特別規格 2倍増量2

「それじゃ、このまま出かけよう。どう?疲れはどれくらい?簡単に済ませたほうが良い?」
「ううん、ちゃんと連れてってください。すっきりしたから、これから再スタート可能です」
「お腹は?」
「空いてはいないけど、特に問題ないみたい」
「それじゃ、博多名物と行きますか。この時間だと、えっと、ちょっと待ってね」

宏一は飛行機がゲートに入るまでの間にネット予約可能な店の中から知っているところをいくつか探し出した。

「もつ鍋と皮焼きとどっちが良い?」
「どっちも」
「おっと、そう来たか。分かった。それじゃ、先ずはかわ焼きから行こう」

二人は飛行機を降りると、タクシーで宏一のお気に入りの鶏皮焼きの店に向かった。着いたときには時間も遅かったので人気の店だったが無事に入ることができた。

「焼き鳥盛り合わせとかわ焼き20本と生二つ、それとしぎ焼き2本とトマトとピーマン」

宏一の注文にさとみは不思議そうな顔をした。

「そんなに頼んで大丈夫なんですか?」
「たぶんね。まぁ、楽しめれば良いから」

宏一の答えに不思議そうな顔をしていたさとみも、かわ焼きが来て一口食べてから納得した。

「うわ、モチモチして美味しい。こんなの初めて」
「東京にはほとんど無いからね」
「ほとんどってことは少しはあるんですか?」
「うん、この店も上野広小路に一軒出してるし、他にもかわ焼きの店を出してるところがいくつかあるよ」
「絶対東京の店に行きます。最初は三谷さんが連れてってくださいね」
「うん、もちろん」

宏一は軽く答えたが、さとみが急に親しく話をするようになったことに驚いた。二件目なのにさとみは既にビールからチューハイに移っている。それも調子よく減っていた。

「こんなこと急に言って驚きました?」
「まさか、嬉しいことに細かいことは言わない主義でね」
「福岡まで連れてきてくれたから話しますね。私、今日、彼に振られたんです」
「フラれた?彼に?喧嘩か何か?」
「そう言えばそうなんだけど、ずっとどうするかはっきりしてって私が言ってて、あ、一緒に暮らしてる彼に。それで今日、結婚式場に申し込みに行くことになってたんです。それから記念に食事をすることになってて」
「それで今日は少しおしゃれしてきたんだ」
「まぁ、そう。でも、ドタキャンを食らっちゃって」
「それって、でも、本当にどうしようもないキャンセルだったのかも知れないじゃ無い」
「ううん、それは無い。絶対。だって、この日を決めるのに何ヶ月もかかって、それで式場もこれ以上は待てないってなってて、だから今日は絶対に出張や急な仕事は入らないって決めた日だから。それに昨日も確認したし・・・・」
「まだあるんだ」
「昨日から彼の様子が変で。なんかよそよそしくなって、ここ数日話もしなくなったし、とにかくこの話題を避けてた感じで」
「それで、ドタキャンの連絡か」
「それも、『行けなくなった。キャンセルしといて』だけ。理由もごめんなさいも何も無し。それって絶対私とのことをキャンセルってことでしょ?」
「・・・・・・・そうだね・・・そこまで状況ができててなら・・・たぶん・・・・・」

さとみは、もしかしたら宏一が全く違う意見でこの考えを打ち消してくれるかも知れないと微かに期待していたが、宏一が同意したことで自分の考えに間違いが無いことを確信した。

「それで、ちょっと立ち入ったことを聞いても良い?二人は婚約とかしてたの?」
「ううん、正式にはしてない。そう言うのは全部決まってからにしたいって彼が・・・、もう彼じゃ無いか、そう言ったから」
「そうなんだ。確かにそう言う考え方もあるとは思うね」
「そう?でも普通、先ず婚約が先じゃ無いの?」
「それは本人たち次第だから。今はあんまり結婚前に正式に両家が集まって婚約ってしないみたいだから、指輪を買うだけにしたりも多いみたいだし、それだと婚約って言えるのかも分からないしね」
「でも、二人が婚約したって思えば婚約でしょ?」
「そうだけど、実際にはその証明する人や何かが無いとね。事実上の婚約と、人を立てて両家が集まる婚約とは法律上も違うみたいだよ」
「なんとなくわかってたけど・・・・・・」
「さとみさんの件は残念ながら今日はもう何も変わらないね。ま、せっかく福岡まで来たんだ。美味しいものを思いっきり食べて飲もうよ」
「当然です。そのつもりで来ました」
「うん、それじゃ、乾杯」
「なにに?」
「人生の節目で新しい道を迎えて福岡まで来たことに」

その微妙な言い方にさとみはちょっと引っかかったが、宏一には何の責任もないのだから当然だ。さとみは思いきってジョッキを持った。

「乾杯っ」

二人はグイッとビールを飲んだ。

「今日は後はホテルに行って寝るだけだから、余計な心配なんかしないで飲もうね」
「もちろんですっ。彼に・・・また間違えた、同居人にはもう連絡もしないっ。勝手に思いっきり飲みます」
「うん、その調子」
「三谷さん、ホテルには何時に入らなきゃいけないの?」
「12時って連絡してあるけど、何時でも良いみたいだよ」
「それで、部屋はどんな部屋なの?」
「部屋って・・・・・普通のシングルルームって言うか、ツインのシングルユースだけど。二人共」
「シングルユースで二人共ってことは、別々の部屋ってこと?」
「そりゃそうだろう。一緒って訳にはいかないんだから」
「どうして別々なの?それって変。私に一人で寝ろってこと?一人になって落ち込んで泣けってこと?三谷さん、どうなの?」
「そんなに絡まないの。一緒に寝て欲しければどっちかの部屋に入れば良いだけでしょ。ベッドは二つあるんだから」
「三谷さんの部屋に行くっ」
「来ても良いけど・・・・・」
「手を出さないつもりなんでしょ」
「そりゃそう・・・・・・・。いや、そんなに睨まないの。手を出して欲しいの?」
「そんなこと言ってない。三谷さんはどういうつもりなの?って言ってるの」
「そりゃ、さとみさんみたいに可愛い人なら・・・・・・・」
「可愛い人なら?その次は?」
「二人でお互い好きになれれば良いなって思うけどね」
「『思うけどね』?それって、本当はそうじゃないってことでしょ?」
「そりゃそうだよ。心の空き巣みたいなことはできないよ。でも、言っておくけどその気は十分以上にあるよ。たぶん、さとみさんが想像してる以上に」
「心の空き巣・・・・・・・か・・・・・そうかもね」

さとみは宏一の一言にちょっと凹んだ。しかし、それも少しだけで、今度は宏一の心遣いが嬉しくなってきた。要するに自分次第で決められるのだ。

「そうだろ?もしかして今日、このまま二人の関係が深くなったら、明日の朝には後悔するかも知れないよ」
「ううん、後悔することは無い。今日は断言できる。同居人が変わらない限りそれは無い。絶対。それに、同居人は変わる気ないし、もし今変わってももう遅い。だから後悔は無い」
「凄いね。さとみさん、俺に今日は一緒に寝て欲しいの?」
「そんなつもりは無いけど、そうなると良いかもしれないとは思う」
「寂しくて泣いたりしないで良いから?」
「そう。悪い?」
さとみはギロッと宏一を睨み付けた。慌てて宏一がフォローする。
「悪か無いよ。絡まないの。誰だってそう言うときはあるんだから」
「ふうん、それじゃ、私に手を出すかも知れないんだ」
「かも知れないね。って言うか、さっきも言ったとおりその気は十分以上だから」
「嘘つき。そんなつもり全然無いくせに」
「そう?それじゃ、ホテルに着いたら試してみる?」
「試すってどうやって?」
「さとみさんを部屋に呼んでみるってどう?もしさとみさんが俺の部屋の中に入れば、そのまま朝まで一緒だよ。お茶だけ飲んで帰るなんて無し。その時は返さない。もちろん同じベッドを覚悟して来て貰うよ。いい?ホテルに入るときに聞くからね?」
「それだと私が部屋に行けば・・・・・ってこと?」

さとみは寂しさを紛らすために部屋に行くのはダメだとはっきり言われたのに気づいた。

「もちろん。気持ちの全てをさとみさんに確認して貰うよ。もし部屋に入ったらもう逃がさない。それが俺の気持ち。ちゃんと言うべき事は言ったからね。でも、もちろんさとみさんの気持ちが一番だし、できるだけ気持ちに寄り添うのが一番大事だと思ってるよ。でも、部屋に入るなら覚悟だけはしてってこと。」

さとみは宏一の言葉が何故か清々しく聞こえた。

「ふうん、三谷さんて、意気地無しじゃないんだ。ちょっと見直した。ちゃんと逃げずに女の子に寄り添う気持ちを持ってるんだ」
「寄り添うのは気持ちだけじゃ無くて、肌もね」
「下ネタなんてどうでも良いの。でも、そう言ってくれるのは嬉しい。気持ちが楽になるから。じっと一人で悩まなくて良いもの」

二人はかなりエキサイトして話し込んでいたので、気が付いたときには食べ物は全て無くなっていた。飲み物は何度かお代わりしたが、もう数は覚えていない。

「それじゃ、次に行きましょ。もつ鍋?」
「うん、良いけど、まだ食べられるの?」
「そんなのは問題じゃ無いの。早く行きましょ」
「分かった。行こう。でも、中州に寄っていかない?歩いてみれば楽しいかもよ。もつ鍋だってあるだろうし」
「中州、行くっ」

さとみは元気に立ち上がった。宏一がお会計を済ませて出てくると、さとみは元気に歩き出した。

「さとみさん、歩いて行ける?ここからだと30分は絶対かかるよ。次までの酔い覚ましにちょうど良いかと思って。でもタクシーで行っても良いよ」
「大丈夫。歩きましょう。それくらいならいつも歩いてるから。駅から部屋だって20分かかるんだもの。それくらい」

二人は並んで歩き始めた。さとみは周りをキョロキョロしながら歩いている。

「あーあ、今日は三谷さんが連れ出してくれて良かった。今、自分が福岡の街を歩いてるなんて信じられない。ここは福岡なのよね」
「そう。ほら、看板とか見ると、なんとなく東京とは違うって分かるだろ?」
「ふぅーん、う〜ん、確かになんか雰囲気とか看板の色使いとか東京とは違うかも・・・・赤が多いかな・・・・」

さとみは福岡の町並みを珍しそうに眺めながらさっさと歩いて行った。足取りからはそれほど酔っている感じはないが、今日、さとみが飲んだ量は宏一ほどでは無いが、小柄なさとみにはかなりの量のはずだ。

宏一はさとみが歩けなくなったらタクシーでホテルに行こうと思った。そして、さとみの後を歩きながらホテルの予約をビジネスホテルからシティホテルに変更した。それは、味も素っ気も無いビジネスホテルの部屋ではさとみが気の毒だと思ったからだ。明日になればイヤでも現実に向き合わなくてはいけないのだから、せめて今日くらいは現実逃避してもいいだろうと思ったのだ。そして二人は中州に着いた。

「ここが中州?」

「そうだよ。ほら、あちこち屋台が並んでるだろ?まだ賑やかだね。もうすぐ真夜中だよ。東京の飲み屋街は早く閉まる店が多いのにね」
「ここが中州かぁ、なんか、楽しそう」

さとみはそう言うと、今度は宏一に寄り添って歩き始めた。

「大丈夫?まだお酒飲める?」
「まだ飲めます。ちょっと冷めたみたい。さっきはかなり飲んだって感じだったけど、歩いてたらすっきりとしてきた」
「そう、さっきは酔ってたの、自分でも分かってたんだ。ま、あれだけ威勢良く絡めば分かるよね、自分でも」
「三谷さん、まだ名字で呼んでるけど、さっきはありがとう。嬉しかった」
「なにが?」
「私の気持ちも言葉も、全部真正面から受け止めてくれたでしょ?逃げようとしなかったし、誤魔化そうともしなかった。だから思い切り吐き出せた」
「うん、良かった」
「私、もう決めた。別れる」
「え?本人と話してからで無くて良いの?」
「話しても何も変わらないから。一応けじめだから話すけど、たぶん予想通りだから。あの同居人との未来は無い」

そう言ったさとみの心にズキッと痛みが走った。

「あ、ここで良い?もつ鍋もあるみたいだよ」
「そうね」

二人はちょうど二人分の空きがあった屋台に入った。

「これが中州の屋台なのね」

さとみは気分転換に小さな店の中を見渡した。

「お店みたいにドアはあるけど、さすがにクーラーは無しか」
「屋台だからね」

宏一は生ビールとチューハイともつ鍋と鯨刺しを頼んだ。

「熱くて無理だと思ったら、帰れば良いからね。後はクーラーの効いた部屋が待ってるから」
「その話は後で。今は屋台に集中したいの」
「うん」

さとみはもつ鍋が来るまでに短い間に会社のことを話し始めた。

「私、会社は二つ目で中途なの」
「そうなの?てっきり新卒で入ったのかと思ってた」
「最初が1年ちょっとだったから。ちょっと職場の雰囲気に合わなくて替わったの」
「そうなんだ」
「新卒みたいな顔してるけど、知ってる人は知ってるから」
「そう言う情報って女の人は詳しいんだろ?」
「正確に言うと、詳しい人がいるから必要なときはそこから教えて貰うって感じ。たぶん、それはどの会社も同じ」
「データベースみたいなものだね」
「そう、人間データベース。だから、こんなこと会社では絶対話せない」
「そうか、うっかり漏れると大変だものね」
「そう、あちこちで少しずつ聞かれるでしょ?そうすると、それが全部データベースに集まってきて、足りない部分を足されて完全なストーリーになるの。それが知りたい人に伝わったら・・・・・・・」
「恐ろしいことになるね」
「本人も知らないうちに違うストーリーができあがってみんな知ってるの。想像できる?それで社内恋愛に失敗して会社を辞めた人だって何人もいるの」
「恋愛なんて絶対に社内じゃ話せないね」
「そう、社内に漏らすときは会社を辞める覚悟が必要かも。寿退社なら良いけど、結局社内で共働きは無理だし」
「寿退社とは古風な言葉だね」
「そう?何でも良いけど、そう言うこと」
「さとみさんは、いつもは大学の友達とかと話すの?短大時代のとか?」
「そう、短大時代の。でも、友達だって忙しいし」
「そう、それじゃ、今日は友達の都合が付かなかったんだ」
「真っ先に連絡したの。でも無理だった。東京にいなかったの」
「あーあ」
「でも、こうやって今は博多で飲んでるんだから、その気になれば出張先まで押しかけてっても良かったんだ。今気が付いた。三谷さんに教えて貰ったからね」
もつ鍋が来ると、さとみは普通に箸を付け始めた。
「美味しい。もつ鍋ってこう言う味だったんだ」

さとみは博多の味が気に入ったようだ。しかし、その時さとみの携帯が鳴った。この時間にかけてくる相手とは誰だか宏一にも想像が付いたが、さとみは一瞥すると切ってしまった。心配そうな宏一の表情を見たさとみはきっぱり言った。
「同居人から。でも、もうたくさん。どうせ、もう一度話し合おうってなって、煮え切らない相手を説き伏せて新しい予定を決めて、その日が来るとまたドタキャンされて・・・。その繰り返し。もうわかりきってる。もうその手には乗りませんよ。私は今、博多で新しい一歩を踏み出したんだから。こんな美味しいもつ鍋食べてるんだから」

そう言うと、静かにさとみの前で包丁を握っていた大将に言った。

「大将、チューハイお代わり。こんな美味しいの初めて」
「ありがとうございます」
「私、元気が出た。最高っ」
「それではお手すきの方、こちら様の新しい一歩に乾杯をお願いします。はい、かんぱーい」

どうやら大将は静かにさとみの話を聞いていたようだ。もちろんさとみは全然気にしていない。それどころか、何人かが乾杯してくれたことを大喜びしている。

「かんぱーい」
さとみはグイッとチューハイを飲んだ。
「私、新しい一歩を踏み出しまーす」

さとみが調子に乗って宣言すると、何人かの客が応援した。

「おー、いいぞー、がんばれーーー」

パチパチと拍手まで付いてきた。

「私、博多に住もうかなぁ。こんなに素敵なところなら引っ越しても良いかも」
「是非おいで下さい。常連さんが増えるのは大歓迎ですよ」

大将の言葉にさとみはケタケタ笑った。さとみは上機嫌でチューハイを飲んでいたが、さすがにだいぶ回っていると見え、量は少なかった。それでも小一時間屋台でもつ鍋を楽しみ、宏一の鯨も一口だけ食べてみた。

「不思議な味。美味しくも不味くも無い」
と言うのがさとみの感想だった。宏一はその他にもつまみを少し食べたが、さとみはお腹いっぱいみたいだった。
「そろそろ行きましょう」

だいぶ目の前が空いた頃を見計らってさとみから切り出した。

「うん、そうだね」

宏一はカードでお勘定を済ませると、タクシーを拾いに大通りに向かって歩き始めた。

「屋台って、クレジットカードも使えるんだ」
「もちろん、今はスマホ払いも何でもできる店が多いらしいよ」
「ふうん、そうなんだ。博多の屋台って凄いんだ。何でもあるし」
「確かに、屋台の大きさからあれだけメニューがあるとは想像できないよね。博多の屋台って、会社の接待に使ったりもするからね。昔から支払いについては何でもありだったよ。領収証だってしっかり出るし」
「街の一部なんだ・・・・凄いぞ博多の屋台」

大通りの手前でさとみは横道に入った。

「あれ?どうしたの?」
「ううん、ちょっとこっちを歩きたいだけ」
そう言ってさとみは大通りの手前を曲がって路地に入った。そして小さな駐車場に入るとくるっと宏一の方を向いた。
「三谷さん」
「なんだっ・・・・え?」

さとみは宏一に身体を寄せてきた。しかしそれだけだ。

「このまま部屋に連れてって。もう少しこのままで居たいの。一人になりたくない。落ち着いて考えようとか言わないで。一緒に居て。東京に帰るまでずっと」

宏一はさとみの言葉に驚いたが、今更後には引けない。

「うん、そうしよう」

さとみは宏一の胸に頭をくっつけていった。

「月曜とか考えないで。今はこの時間が一番大事なの。気を抜いたら落っこちそうな気がして怖い」
「大丈夫。安心して。東京に帰るまでずっと一緒に居るから」
「返るまでしっかり掴んでてね。落ちちゃわないように」
「大丈夫だよ。安心して良いよ。絶対に」

二人はタクシーを拾うと、宏一の予約したホテルに向かった。途中、ホテルの直ぐ近くのコンビニで降りて二人で下着の替えやら少しの飲み物とつまみを買い込んだ。さとみは女子用の上下がきちんとあることに喜び、さらに宏一とお揃いのシャツを買った。そしてホテルに着いた。

「これがビジネスホテル?これが?」

さとみはタクシーを降りるときに驚いてそう言った。

「ううん、さっき予約を変えたんだ。かわ焼きの店を出てから」
「あぁ、これをしてたんだ。それにしても、こんなホテルなんて・・・・」
「ごめん、なるべく駅に近いホテルが良いと思って。気後れするかも知れないけど、ごめんね。ここなら空港も近いし」
「確かに駅の目の前だけど・・・・・このまま入るのよね・・・・・」

さとみは完全なシティホテルにコンビニ袋だけ持って入ることに気後れしていたが、宏一がチェックインするまで静かにロビーで待っていた。宏一がさとみの所に戻ると、二人でエレベーターに乗り、二人だけだったこともあってさとみは宏一にぴったりと身体を寄せてきた。

「部屋は二つ?」
「ううん、今ひとつにしてきた」
「そうね」
「ホテルの外観ほど立派な部屋じゃ無いと思うけど、一応ダブルベッドだよ」

宏一に言われても、もうさとみは何も言わなかった。そして部屋に入って小さな買い物袋を置くとさとみが言った。

「先にシャワーを浴びて。良いでしょ?」
「うん、ありがとう」

宏一は部屋着を持ってシャワーを浴び、入れ替わりにさとみが入った。宏一は買ってきたものを並べ、更に部屋の照明を落とした。さとみは少し時間が掛かったが、やがて部屋着姿で宏一の前に現れた。

「さとみさん、もう少し話したければお酒の用意もあるよ」
「宏一さん、まだ飲みたいなら付き合うけど」

宏一はいきなり下の名前で呼ばれて驚いたが、それがさとみの気持ちだと知って腹が据わった。

「それじゃ、膝の上においで」

宏一の言葉にさとみは一瞬怯んだが、直ぐに笑顔に戻った。

「膝の上なんて子供みたい」

さとみは笑いながら宏一の膝の上にそっと横座りに座ってきた。明らかにまだ宏一の膝の上には慣れていない感じがありありと分かる。さとみは小柄なので、宏一の膝の上に座っても顔の位置はほんの少し宏一より高いだけだ。さとみは宏一の首に手を回してきた。

「どうすればいいの?」
「どうもしなくていいよ」

そう言うと宏一はさとみの頭を肩にもたれかけさせた。

「さとみさん、ありがとう。一緒に来てくれて」

宏一は軽くさとみの髪や肩をそっと撫でた。

「私こそ。こんなに素敵な旅行に連れてきて貰って」
「こうなっても良いって、思ってた?」
「正直に言えば、今日までは全然思ってなかった。同居人がいたから。でも、もう決めたの。いったん離れてみるって。さっきそう言ったから」
「電話したの?電話が来た?」
「私から電話した。さっき宏一さんがシャワーを浴びてるとき。向こうは何も言わなかったわ。分かったってだけ」
「そう。それで、さとみさんの同居人の件と、俺とこうやっているのは別件だよね。俺で良いの?」
「私だって相手くらい考えるわ。でも、三谷さんなら甘えても良いって思う。私のこと、ちゃんと受け止めてくれたでしょ?逃げたりしなかったから。それと、こうやっても会社ではいつも通りにやっていけるって思えるから」
「良かった」
「安心した?」
「うん、さとみさんをこうやって膝の上に乗っけてても良いんだって思えたよ」
「うん、今なら何でも言えそう。何か聞きたいこと、有る?」
「ううん、そっちこそ。ほら、斉藤さんのこととか、良いの?」
「そんなの聞きたくない。宏一さんの気持ちを確かめただけ。でも・・・・・・」
「ん?」
「斉藤さんが惹かれたのも分かる気がする。今の私もきっとそうだから」
「斉藤さんと同じってこと?」
「何となくそんな気がするの。ほら、宿り木ってあるじゃない?鳥が疲れたときに留まって休む枝のこと。あんな感じなのかも知れないなって・・・・・・」
「うん、そう思ってくれるなら嬉しいな。だって、最初の出会いとしては理想的だもの」
「そうね」

そこまで話した二人は、そのまま自然と唇を合わせた。もうこれ以上話すことはないと二人が納得した証しだった。最初は簡単に唇を合わせただけだが、少しずつお互いを探るような濃厚なキスになっていく。同時に宏一の左手はさとみの背中を支え、右手はさとみの胸へと伸びていった。すると、さとみは部屋着の下にブラジャーを付けていないことに気が付いた。

「んん・・・んんん・・・・ん・・んん・・」

さとみは宏一の方に身体を預けてきたので、宏一はそっと仰向けの体勢に入っていく。さとみは早くベッドに行きたかったが、最初なので宏一に任せてみることにした。

宏一はキスを止めてさとみの身体を仰向けにすると、部屋着の上から胸の膨らみをそっと撫でて確認し始めた。膨らみは当たり前だが由美や洋恵よりはずっと柔らかい。

「ここでするの?」
さとみが目をつぶったまま言った。
「うん、部屋着は要らないから。良いだろ?」
「これを脱がしたら、私パンツだけよ」
「うん、わかった」
「もう・・・・・・ううん、いいわ」

さとみはいきなり身体を確かめられるのはちょっと嫌だったが、ここで余り主張しすぎるのもわがままみたいでいやだなと思った。
宏一は右手の指先でさとみの項や耳の下を丁寧に愛撫する。

「ふふ、くすぐったい」
「うん、笑顔が素敵だよ」
「まぁ、そんなこと言って」

さとみは目をつぶったまま微笑んだ。もう一度キスをした。今度はさとみの呼吸が少し速くなっていた。宏一はキスを終えると、更に部屋着の上からさとみの乳房を愛撫した。さとみは全然焦らない宏一のやり方に安心した。そして、頭の中でさっき電話で話した相手と比べている自分に気が付いたが、『もう遅いの。このまま朝まで』と思った。

「やっぱりベッドに行きたい。だめ?」

さとみは比べていた自分をちょっと恥じると、宏一に言った。この中途半端な体勢より、はっきりと宏一を受け入れている自分を確認したかったのだ。実は、この時でもまださとみは宏一と夜を一緒に過ごしているという実感が薄かった。どこか、会社での宏一と一緒に居るような気がしていたのだ。だから、本当に自分は彼から離れたのだという実感が欲しかった。そうしないと中途半端な自分のまま東京に戻って引きずってしまいそうな気がしたのだ。

「うん、わかった」

宏一はそう言うと、膝の上のさとみを軽く抱き上げてそのままベッドに運んでそっと横たえた。

「電気を消して」
「完全に消すと真っ暗で危ないから、少しだけ灯りを残しておくね」

宏一はそう言うと、ベッドサイドのスイッチを調整して部屋を暗くした。いつもなら相手が誰であろうと灯りは消さないのが宏一の主義だったが、今日だけはさとみの言うことを聞くことにした。
静かにベッドに横たわったさとみは、見かけとは裏腹にドキドキしていた。そして『今ならまだ間に合う、本当に良いの?これで良いの?』と自分に問いかけていた。


つづく

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