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155章 遊ぼう。人生、即、無条件な遊び。つまり、芸術なのだ。 2020年、1月12日の日曜日、午前10時ころ。 冬らしく 最高気温も10度ほど。空は 晴れていて、ときどき 雲がかかる。 ・・・この世界って、不思議なほど、うまくできているのは、 やっぱり、音楽や絵とかのいろいろな芸術を楽しめるようにと、 この自然界もできているわけで、人間はそんな世界のなかで、 元気に 楽しく 生きて行ければ、そこに 幸せもあるんだろうなあ・・・ 川口信也は、 そんなことを思いながら、 リビングの こたつテーブルで、パソコンを見たり、本をめくっている。 『おおらかに遊ぼう。真剣に、命がけで。まさに人生、即、無条件な遊び。つまり、芸術なのだ。』 岡本 太郎の本『美しく怒(おこ)れ』の129ページには、そんな言葉があって、 どこか、ニーチェの言いそうな文句でもあり、簡略明快で、信也の好きな言葉だ。 信也の、ハイム代沢は、東京の下北沢にある。 リビングとキッチンと、バスルームに洗面所、南側にはベランダの、1Kの間取りだ。 駐車場はないマンションだけど、信也のクルマは、歩いて2分、 妹たち 美結と利奈が暮らすマンション・レスト下北沢の 駐車場を使っている。 信也は、1990年、2月23日生まれ、もうすぐ 30歳だ。 早瀬田大学 商学部 卒業後、下北沢にある 株式会社モリカワで 課長をしている。 株式会社モリカワは、ライブハウスなどの 多角化も図りながら、 全国展開をしている 外食産業の大手。 信也は、大学卒業後は、一度は 山梨に帰っていた。 しかし、大学からのバンド仲間で、ドラムを叩いている 森川純に誘(さそ)われる。 そして再び、東京の下北沢に住むことになる。 森川純の父の経営する 株式会社モリカワに就職したのだ。そして、バンドも続けている。 信也は、純たちを大学からやっている、ロックバンドの、 クラッシュ・ビートの、ギターリスト、ヴォーカリストだ。 信也の父の裕也(63歳)は、山梨県韮崎市内で、精密加工の会社を経営している。 業績も順調で、従業員数は 約80名。 信也は、そんな父が Facebook で『友達』として交流している 画家の 沢木友香(ゆうか)の絵を、パソコンで見ている。 信也も、沢木友香の絵には、驚いた。天才だと思った。 信也も 沢木友香(ゆうか)と、Facebook で『友達』になっているので、 彼女の絵の『 アコーディオン・プレイヤー』には、 「 すばらしい絵ですね! すてきな 音楽が 聴こえてくるようです。」 とコメントを書いた。 『 窓を 見ている人 』という絵には、「 どの絵も、色彩とかの感覚も、 すばらしいです。いつの間にか、ぼくの世界を見る目も、 美しい世界を見てる感じへと、変わっている気がします!」 そんなコメントを書いた。 ・・・沢木友香(ゆうか)さんは、あの岡本太郎と同じくらいの才能がある・・・ 信也は 心底そう思ったから、彼女に Facebook の『友達リクエスト』をしたときに、 そんなことをメッセージ書いたりもした。 岡本太郎は『 今日の芸術 』の16ページに、 「生きる よろこび」と題して こう語っている。 「まことに、芸術っていったい何なのだろう。素朴な疑問ですが、それはまた、 本質をついた問題でもあるのです。芸術は、ちょうど毎日の食べ物と同じように、 人間の生命にとって 欠くことのできない、絶対的な必要物、 むしろ生きることそのものだと思います。 しかし、何かそうでないように扱われている。そこに現代的な錯誤、ゆがみがあり、 そこに今日の生活の空(むな)しさ、そしてそれを反映した 今日の芸術の空虚も出てくるのです。すべての人が現在、瞬間 瞬間 の生きがい、 自信を持たなければいけない。そのよろこびが芸術であり、 表現されたものが芸術作品なのであります。そういう観点から、 現代の状況、また芸術の役割を見かえしてみましょう。」 ・・・岡本太郎さんの言っているとおりで、沢木友香(ゆうか)さんのような芸術家や その作品は、世の中に必要なものだよね。そして、彼女の絵には、 その作品を見る人を、自由にしてくれるような、自由感もある。これも岡本太郎さんが、 語っている、すぐれた芸術といえるところだよな。 岡本太郎さんは、『見る人の世界観や魂を根底から変えてしまったり、 その人の生活を変えてしまうほど、力を持ったものが、ほんとうの芸術だ』 と言っているけど、沢木友香さんの絵には、そんな不思議なパワーがあると思うよ。・・・ 信也は、沢木友香(ゆうか)の描いた『 背中で、感じる、温もり 』という絵に、 「 ユーモラスで、温かみがあって、元気をもらえて、最高にすてきな絵ですね!」 とコメントを書いた。 ・・・その絵は、背もたれのある椅子、その上に左右から座る男女。 すっぽり頭からかぶれるフードつきの赤い服に身を包んでいるから、 性別も見分けにくいけど、左に座るその優しい横顔は女性だろう。 その女性は大切そうに、緑の葉がしげる植物の、その根を手でやさしく包んでいる。 右に座る 男性のほうは、口から、添えた手のひらに向けて、 白いつぶつぶのような、シャボンのような、細かく軽い丸いものを、吹き出している。 何なのだろう。もしかしたら、女性が持つ植物の花粉とか種だろうか? そんな二人は 背中を合わせて座っている。それも素足で。まわりは暖かそうな黒い色で。 背景の黒い色も暖かな感じになる。絵のタイトルも『背中で感じる温もり』。 椅子の下に、ぶら下がっているものは、何なのだろう。 これは、パパちゃんに聞いてもわからないだろうな。 いつか、沢木友香(ゆうか)さんに、聞いてみたいなあ。・・・ ・・・ そうそう、この自然界は、ほんとに、うまくできているよなあ。 まったく、神様でもいて、そんな超人がこの世界を作ったみたいだよね。 あっそうだ!この前の、『チコちゃんに叱(しか)られる!』を見よう!・・・ 信也は、NHKの『チコちゃんに叱られる!』の録画を見ることにした。 番組の内容は、「 1つのスピーカーでいろんな音が同時に出せるのはなぜ? 」 「 耳で 音を バラバラにしているから 」だ。 「さすが チコちゃん、耳のことまで 詳しいとは ear(イヤー)参(まい)ったね!」 と詳しく教えてくださるのは、音と聴覚に詳しい電気通信大学の 小池 卓二 教授 「そもそも 音とは、耳が感じる空気の振動のことなんです。 あらゆる音には、固有の振動があって、全(すべ)ての音は 1つの波形で表すことができるんです。」 「たとえば、太鼓の音はこのような波形。これを拡大すると、ごらんのように、 1つの波形になっています。 トライアングルは、このような波形。拡大すると、こちらも1つの波形になっています。」 「比べてみると 音の大きさや高さ、つまり音の違いによって、 固有の波形になっていることがわかります。」 「2つ以上の音が 同時に聞こえたとしても、波形にすると 1つになるんです。」 「つまり、同時に聞こえるということは、1つの音になるということなんです。」 ≪ 同時に聞こえる音 → 1つの波形 = 1つの音 ≫ 「2つ以上の音が、1つの波形になるということは、人の声に限らず、 ピアノなど 楽器が加わっても、1つの波形になるということなのです。」 「楽器の音が重なったオーケストラも、波形にすると1つなのです。 逆に言えば、波形どおりに空気を振動させることができれば、 どれだけ複雑な音も再現できるのです。 それをしているのが、スピーカー。」 「スピーカーが波形どおりに空気を振動させ、我々の耳に、 オーケストラの音を再現させ、伝えているのです。 スピ−カーから出てくるのは、あくまでも1つの波形であらわされる、 いわば1つの音です。」 ( 1つの波形 = 1つの音 ) 「しかし、私たちの耳は、同時に聞こえる、たくさんの楽器の音や歌声を 聞き分けることができます。 では、なぜ、同時になっている音を聞き分けられるのでしょうか? それは、人間の耳の中にある有毛細胞が、音をバラバラに分解しているからなのです。」 「耳に入った音、つまり空気の振動は、鼓膜(こまく)を通り、 蝸牛(かぎゅう)という場所へ伝わります。この蝸牛の渦巻きの中には 音を認識する細胞がびっしりとあります。内有毛(ないゆうもう)細胞といって、 音の高さに反応するセンサーです。」 「複雑な音の場合でも、蝸牛の中を通るときに、 その中の内有毛細胞が、音の高さによって、バラバラに反応します。 それを、それぞれの音を、バラバラにして、別々の電気信にして、脳に伝えることで、 音を、バラバラに、判別しているのです。」 「つまり、スピーカーからは、1つの音しか出ていません。 しかし、耳が、音をバラバラにすることによって、 あたかも、いろいろな音を、同時に出しているように聞こえるのです。」 「1つの波形を、振動として再現し、音を出す、スピーカー。 その原理を形にし、スピーカーのもととなる蓄音機を発明したトーマス・エジソンは、 やっぱり偉大ですね!」 「ということで、1つのスピーカーでいろんな音が同時に出せるのはなぜ?・・・は、 「 耳で 音を バラバラにしているから 」でした。」 「ちなみに、耳を持っている、すべての生物には、有毛細胞がありまして、 音を聞き分けているそうなんです。表面上、耳の形がわからない、 カエルや魚でも、有毛細胞があって、音を聞き分けているということです。」 ☆参考文献☆ 1.今日の芸術 岡本太郎 知恵の森文庫 2.NHK 2019年10月18日放送金曜日放送『チコちゃんに叱られる!』 3.美しく怒(おこ)れ 岡本太郎 角川書店 ≪つづく≫ --- 155章 おわり --- |