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147章 映画『クラッシュビート・心の宝石』の大ヒットする 10月7日、日曜日、午後2時を過ぎたころ。 朝から青空、気温も30度と季節外(はず)れ。 下北沢駅西口から歩いて2分の、高田充希(みつき)の店≪カフェ・ゆず≫に、 川口信也(しんや)と彼女の大沢詩織(しおり)、 超大作映画の『クラッシュビート』で、子どもたちの合唱団の先生役の沢口貴奈(きな)、 この映画の原作者でマンガ家の青木心菜(ここな)とマンガ制作アシスタントの水沢由紀、 そして、雑誌・週刊芸能ファンの記者の杉田美有(みゆ)、の6人がテーブルを囲(かこ)んでいる。 「この度(たび)は、『クラッシュビート』の大ヒット、おめでとうございます! きょうは、この映画の主役のお二人(ふたり)で、いまやスター的存在の、 主人公の信也さんの子ども時代の役の、福田希望(ふくだりく)君と、 白沢友愛(とあ)ちゃんを、労働基準法の関係で、お呼びできなかったんですよ。 それがとても残念なんですけど、本日は、よろしくお願いします。」 満面の笑みで、 敏腕(びんわん)記者の杉田美有が、みんなを見て一礼する。 「この映画の大ヒットも、美有(みゆ)さんが、映画の取材をしてくれてたからですよ」 青木心菜(ここな)がそう言って、微笑む。 「そんなことないですって。青木先生の原作の素晴らしさとか、沢口貴奈さんや子どもたち、 出演者のみなさんも素晴らしくって、話題が盛りだくさんの超大作映画だからですよ」 原作者の青木心菜と、心菜の親友でアシスタントの水沢由紀は、 この超大作映画のすべてを気に入っている。 2018年9月2日、日曜日、催(もよお)された『クラッシュビート・心の宝石』の、 プレミア上映会の大成功に始まって、大ヒットとなって、 いまや日本中に、ファンの興奮と熱気が渦(うず)巻いている。 「あのう、この映画のタイトルの『心の宝石』なんですけど、 この点について、もうちょっと、お話をお聞きできたらなあって思います。 わたし個人としては、とても素敵な言葉だなあって、思ってるんです!」 「『心の宝石』っていうのは、実は、おれが作ろうって思っている歌のタイトルなんですよ。 なかなかできなくて、未完成な歌なんですけどね。あっははは。 それが、いつのまにか、映画の1作目のタイトルになっちゃったんです。あっははは。 簡単に言えば、『心の宝石』って、子どもたちの心のことですよ。 純真で無垢な、感動することに敏感で繊細な、そんな子どもたちの心のことです。 まあ、映画の公開前も、子どもたちを、あんなふうに擁護するような、 大人たちの生き方を批判しているよう映画は、 現代のおとな社会を否定する考え方を子どもたちに植え付ける、 極めて危険な映画だとか言って、みんなして批判する映画批評家たちや、 一部の大人たちもいましたからね。あっははは。 そんな危険な考え方なんて、まったくないんだし。あっははは。 おれは、この社会で生きていて、ストレスや欲望で、 心も体(からだ)も、疲労や消耗で、ボロボロにすり減(へ)って、 楽しいことばかりを追いかけていた子どものころの、 純真で無垢な、澄(す)んで輝(かがや)く宝石のような心を失ってはいけないよっていう、 主体性っていうか、アイデンティティー(identity)っていうか、 時間がたって、おとなになっても、何歳になっても、 いつまでも、同じであり続けようよ!って言いたいんですよ。あっははは 」 「そうですよね。信也さんの考え方は、すばらしい! やっぱり、この映画の主人公よね!感動しちゃうわ!」 そう言って、雑誌・週刊芸能ファンの記者の杉田美有(みゆ)は笑う。みんなも笑った。 ≪つづく≫ --- 147章 おわり --- |