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146章 若い日の 夢追いかける 秋高し 9月21日、金曜日。一日中、雲り空で、気温も19度ほど。 川口信也は、会社の帰りに、高田充希(みつき)の≪カフェ・ゆず≫に寄っ た。 店内には、客が7、8人いる。 店は、下北沢駅の西口から歩いて2分ほどだ。 充希は、この去年の夏に、自分の土地にある家を改装して、≪カフェ・ゆず≫ を始めた。 高田充希は、1993年3月14日生まれ、25歳。身長158センチ。 川口信也は、1990年2月23日生まれ。28歳。身長175センチ。 店は、一軒家ダイニングで、クルマ6台の駐車場がある。 フローリングの床(ゆか)の店内には、16席あるカウンター、 4人用の四角いテーブルが6つ、 ミニライブができるステージもあり、黒塗りのYAMAHAのアップライトピアノがあ る。 キャパシティーは40人。 「充希(みつき)ちゃん、また、おれの俳句を飾ってくれて、ありがとうございま す。 充希(みつき)ちゃんのすてきな絵も添えてくださって。 ほんと、よく自然の自然の美しさを見ていて、 それを上手に描いてるなぁって感動します。 きっと、おれの俳句たちも、よろこんでますよ。あっははは」 「しんちゃんの俳句は、すてきですよ。こちらこそ、ありがとうございます」 店の壁には、去年、信也が作った俳句の、≪りんりんと 歌っているよな 虫 の声≫と、 先日作ったばかりの、≪若い日の 夢追いかける 秋高し≫が、 どちらも、充希(みつき)が描いた絵付きの色紙で、飾(かざ)ってある。 どちらの俳句も、信也が山梨に住む友人から、「俳句作ってほしい」と頼(た の)まれたものだった。 毎年10月にある韮崎市の文化祭に出展するための俳句だった。 「いまは、音楽活動で、精一杯で、俳句も作る気がしないんだけれど、 俳句の松尾芭蕉は、芸術家として尊敬しているんですよ。あっははは」 「ああ、それで、しんちゃんの俳句は、どこか、松尾芭蕉に似ているんですね! うっふふ」 そう言って笑う、独身の女性高田充希(みつき)は、名前も、顔かたちも、 人気の女優で歌手の、高畑充希(たかはたみつき)によく似ている。この下北 沢でも評判だ。 「あっ、そうですかね。こんどの俳句も、芭蕉の生前の最後の句といわれる、 ≪旅に病(やん)で夢は枯野をかけめぐる≫の影響を受けている気もします。 あっははは。 芭蕉って、たえず、新し創造を目指して生きていた人で、そんなところを尊敬し ていて、 見習いたいって、いつも思うんです。 芭蕉は『古人の跡(あと)を求(もと)めず、古人の求めたるところを求めよ』と教 えているんですけど、 なるほどな、そんな新しさを求めて、創造していくことが大切だよなって、思うん ですよ。あっははは」 --- ☆参考文献☆ 1.芭蕉ハンドブック 尾形 仂(おがた つとむ) 三省堂 ≪つづく≫ --- 146章 おわり --- |