メルマガ:toxandoriaの日記
タイトル:M.アンリ『情感の現象学』から見える『感情の政治学』の可能性(その一) .  2017/11/11


[希望のトポス]愈々、グローバル新自由主義に置き換えるべき「感情の政治学」が必須の時代へ(2/2) M.アンリ『情感の現
象学』から見える『感情の政治学』の可能性(その一)

<注記>お手数ですが、当記事の画像は下のURLでご覧ください。
http://d.hatena.ne.jp/toxandoria/20171109

J. M. W.ターナー『ノアハム城』
f:id:toxandoria:20171109090632p:image:w550
…J. M. W. Turner「Norham Castle, Sunrise」c.1845 Oil paint on canvas  90.8 x 121.9 ?Tate、London 


【イマージュ動画】ラヴェル「夜のガスパール」Maurice Ravel - Gaspard de la nuit、et al 
f:id:toxandoria:20171109091003p:image:w360:right
Pianist: Jean-Efflam Bavouzet/公式HP http://www.bavouzet.com/ 

・・・「夜のガスパール」(ガスパールは東方の三博士の1人Caspar に由来する男性名)はボードレールにも影響を与えたという
夭折した詩人アロイジュス・ベルトラン(1807〜1841)の64篇で成る散文詩集のタイトル。ラヴェルはこの中から幻想的で怪奇性
の強い3篇を選び、そのイメージに大変な技巧を織り交ぜながら情熱的なピアノ曲に仕上げた(出典:『ラヴェル:夜のガスパー
ル、作品解説』http://urx.mobi/GM3n)。

(プロローグ) ハイデガー「ゾルゲ」(思い遣り)の源流、クーラ(ペルセポネー)寓話

f:id:toxandoria:20171109091253j:image:w200:left「ハイデガー『存在と時間』―「気づかう人(homo curans)」としての人間」
/京都大学吉田南総合図書館、http://ur0.pw/GIZZ (画像は、イシス・ペルセポネー像 (クレタのイラクリオンにある考古学博
物館蔵、ウイキより))

・・・ドイツの哲学者ハイデガーは、その主著『存在と時間』で、人間存在を「気づかい」(ラテン語でcura/ケア(care)の語
源)という語で特徴づけた。標語的に言えば人間はホモ・クーランス(気づかう人)となる。この点を把握するとき私たちは人間
を深く理解できると同時に「思考がそこで運動せざるをえない根本的な場」と呼べるものを捉えることができる。
by limitlesslife http://ur0.pw/GIZX


・・・が、近年はハイデガーの「気づかう人」(およびハイデガー哲学そのもの)には人間相互の気づかいに留まらず、魔術的・
悪魔的・ロマン主義的な成分の“強者側の一方的勝利も当然と見なすエトノス(委細、後述)としての絶対的・宇宙的・多(両)
義的な「自然と生命」そのものの宿命”が視野に入っていたと理解されている。そのためか?ナチスを歴史的好機(必然の歴史
的瞬間=カイロス)と見たハイデガーは、一時期、フライブルグ大学総長“拝命”後の同年(1933)にナチスに入党した。


・・・「ゼウスとデーメーテールとの間に生まれた娘ペルセポネー(Persephone/源流は古代エジプトの女神イシス(アセト)神
/“権力と支配”の神)」(添付、彫像(クレタのイラクリオンにある考古学博物館蔵)の画像はウイキより)はギリシア神話に
登場する女神で冥界の女王であるが、コレー(乙女)、クーラ(気づかい)とも呼ばれる。


[クーラ(ペルセポネー)寓話]


レンブラント『ペルセポネー(クーラ)の略奪』
f:id:toxandoria:20171109091633j:image:w520
…Rembrandt「The Rape of Proserpine1631」oil on oak panel 84.8 cm× 79.7 cm . Gemäldegalerie der Staatlichen Museen 
zu Berlin /Persephone=Cura、http://urx.red/GFBR 


<注>ギリシャ神話「ペルセポネーの略奪」の物語はコチラ ⇒ http://urx.red/GG3C


・・・両義的、つまり人間的かつ悪魔的という意味でH.アーレント(リベラル共和主義の擁護者)に大きな影響を与えたハイデガ
ーのゾルゲ(気遣い、思い遣り、関心)・・・


(クーラ(ペルセポネー)寓話)


ハイデガーの著書『存在と時間』では、その第42節「現存在の前存在論的自己説明に関わる“気遣い、思い遣り、関心
(Sorge)”としての現存在の実存論的解釈の確証」のためとして、古代ローマ人ヒュギヌスが伝える『クーラ寓話』(そもそもは
ギリシア神話)が示されている。なお、ハイデガーのゾルゲ“気遣い、思い遣り、関心(Sorge)”は、この物語の主人公クーラを
も連想させるドイツ語である。以下に、その物語の概要を『関本洋司のブログ、http://urx.red/GFBR』より転載させて頂く。


・・・昔、クーラ(ペルセポネー、豊穣の女神デーメーテールの娘/気遣い、思い遣り、関心)が河を渡っていたとき、クーラは
白亜を含んだ粘土を目にした。クーラは思いに沈みつつ、その土を取って形作りはじめた。すでに作り終えて、それに思いをめぐ
らしていると、ユピテル(ジュピター、収穫)がやってきた。


・・・クーラはユピテルに、それに精神をあたえてくれるように頼んだ。そしてユピテルはやすやすとそれを成し遂げた。クーラ
がそれに自分自身の名前をつけようとしたとき、ユピテルはそれを禁じて、それには自分の名前であるユピテルがあたえられるべ
きだ、と言った。


・・・クーラとユピテルが話し合っていると、テルス(大地)が身を起こして、自分がそれに自分のからだを提供したのだから、
自分の名前テルスこそそれにあたえられるべきだ、と求めた。


・・・かれらはクロノス(時間/ローマ神話では農耕神サトゥルヌスと同一視される)を最高裁定(審級)者に選んだ。そして
クロノスはこう判決した。ユピテルよ、お前は精神(収穫の精華)をあたえたのだから、このものが死ぬとき、精神を受け取り
なさい。テルスよ、お前はからだをあたえたのだから、(このものが死ぬとき)からだ(死せる肉体)を受け取りなさい。さて
クーラよ、お前はこのものを最初に形作ったのだから、このものの生きているあいだは、このもの(生きている肉体)を所有し
ていなさい。


・・・ところで、このものの名前についてお前たちに争いがあることについては、このものは明らかに土humusから作られている
のだから、人間homo(→ホモサピエンス)と呼ばれてしかるべきであろう。


・・・


(知的“略奪”か“倫理”か?の両義性でリベラル共和主義の擁護者たるH.アーレントに大きな確執を与えたハイデガー“ゾル
ゲ(クーラ)”(気遣い)の問題)


ハイデガーは、上の『クーラ寓話』の中でサトゥルヌス(クロノス)が象徴する「時間」の支配的役割を重視しており(一般に外見
・相貌・位置・形状などの変化で時間を知覚することから“エイドス(形相)、いわば視覚”重視の哲学・現象学)、それがハイ
デガー哲学に、冥界の王ハーデース(美の女神アフロディーテと、その息子エロースらの目論みの下でクーラを略奪するhttp://urx.red/GG3C)にも似て魔術的とも言える抗い難い強い力を与えることになった。


そのため、<カール・ヤスパースの共和的・人道的倫理観(只の堅物の意味に非ず!愛と美と性を司るギリシア神話の女神アフロ
ディーテの息子エロースが象徴するパーソナリティー風ながらも異者協和的でプラトニックな精神)>と<M.アンリ「情感(生)
の現象学」の対極であり、かつ略奪者(アブダクション)的で魔術師的なハイデガー>という、二人の知的巨人に師事したH.アー
レントは、彼らの両義性の下で大いに悩み抜き、遂には激しい確執の泥沼に飲み込まれた。


<注>アブダクション(abduction)

・・・原義は略奪・拉致で、仮説形成とも訳される。米国の哲学者C.S.パース(C.S. Peirce/1839-1914/プラグマティズムの
創始者)がアリストテレスの論理学をもとに提唱し、帰納法、演繹法と並ぶ第三の推論法として新たな科学的・哲学的発見等に不
可欠と主張した。


なお、当然ながら真理探究の魔術師であった巨人ハイデガーの広大な視野には「宇宙的な意味での全世界のなかに必然性として
潜む魔術的・悪魔的なもの(権力的暴走、ファシズム、戦争、テロ、殺人、破壊願望、猟奇性など)、ことごとく一切の“悪”
が入っていたと考えられる。

・・・


また、同じく上で述べたハイデガーのゾルゲ(Sorge)の一般的な意味は「生活環境や過去・現在・未来をも含む凡ゆる内外の環
境と自分以外の存在者としての全世界に対し、その世界内存在としての人間が関心を持ち、それらを深く気遣い思い遣りつつ関わ
り続けること」とされており、又そのような意味で、世界へ如何に気遣いしつつ関わるかで人の生きる意味が異なってくることに
ついてもハイデガーは論考を深めたと理解されている。


因みに、『クーラ寓話』の「大きな自然に包まれている人間存在の奇跡」という含意は、<AIは意識を持てるのか?>という悩
ましい問題と絡みつつ、近年において再び注目されるようになったが、それは「エトノス」の観念に近いのではないかと思われ
る(ヒト並にAIがエトノス観念を持つのは不可能であろうが)。なお、エトノスの定義は既定のものがないので、仮にtoxandoria
が纏めた内容を、自身のブログ記事等から以下に修正転載)しておく。


・・・エトノスは『半永久的な絶対的・持続的<生>の流れの中で受肉した個人の身体(有限な個々人の“生”)を含む内外の
自然・人工環境に加え、ヒトの生命と社会生活の維持に必須のローカルな一定地域の自然・歴史・文化・記憶環境と深く共鳴し
つつ“<生命>と人間性を未生(未来)へ繋ぐ揺り籠”とし得る開放系の間主観性・共有観念、または過去〜現在〜未来におよ
び生存環境の微小馴化を受け入れつつ絶対的<生>の“持続”を最重視する、多元的で寛容な個人・集合・社会・共同体意識の
総体』である。・・・


<注>歴史的に見たエトノス(ethnos)


・・・古代ギリシア語で、村や都市に集住する「民衆」(デモス/demos)の周辺に住み、その「民衆」以外の部族集団を指した
エトノスは、相対的に立場が変われば志向アフェクト(意識)のベクトルが反転するので、自ずと真逆の意味になる(善・悪の
立場の入れ替わりがあり得る)のも当然である。従って、そもそもエトノスは胡桃の殻の如く固陋な評価を伴う概念ではない。


・・・それ故、これは歴史・政治・科学・倫理などの諸条件しだいで、その意味が変容する非常に柔軟な用語である。だからこ
そ、歴史・政治・科学・倫理の背骨となる「絶対的な“生”」の意味を探求する倫理・哲学あるいは宗教の役割が益々重要になる
とも言える。


・・・加えて、<生命・意識・文化の持続に必須であるローカルな自然、歴史、風土、文化との対話、そしてそれに因るエトノス
自身の射程の一定の変容も必須!>の条件が付くので、エトノスは固定観念化したイデオローグではあり得ない。

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