メルマガ:少女の性シリーズ
タイトル:少女の性 233  2016/10/16


少女の性 第二百三十三部

『あんな事、教えるんだもん・・・・』そう思うと、次々に新しいことを教え込む宏一をちょっとだけ恨んだ。そして、『彼との後は、やっぱりここに来ないといけないのかな・・・・』と真剣に思い始めた。正直に言えば、好きな彼に抱かれるだけでは満足できないこの身体が少し恨めしい。それでも洋恵の身体にはまだ圧倒的な満足感が残っており、宏一とは離れられないと言う想いが強い。

その日の夜、宏一は由美から何か連絡が来ないか待っていたが、何もなかった。既に何度か連絡してあるので、返事が来ないのは故意に連絡しないとしか思えない。しかし全く心当たりがなかったので、もう一度だけ、ケーキを渡したいからと伝えておいた。しかし、それでも返事は来なかった。

しかし、その代わりにめぐみから携帯にメールが来た。宏一は最初、誰だか思い出せずに新手の営業か何かではないかと心配したが、メールを読んで『あぁ、あの子か』と思い出した。九州に行ったときに別府で知り合った温泉ホテルの高校生の子だ。小麦色の肌と白い歯が印象的な笑顔の素敵な女の子だ。

あのときのことがチラッと頭をかすめた。なんでも明日、受験活動と準備のためにこちらに来るのでどこかで会いたいという。明日と言うことしかわからず、まだ時間も場所も決まっていなかったが、宏一は取り敢えずOKの返事を送っておいた。

翌日、宏一は会社で営業一部のフォルダーとアクセス権限を調べていた。そして、やはり松野のフォルダーとファイルの権限の設定が間違っていると確信した。どうも恣意的な気がする、と言うか『設定を間違えた』等というレベルではなく、故意に部分的にアクセスできないようにしてあるのだ。宏一は松野にメールを送り、水曜日に会議室を予約したことを伝え、確認もしたいので、上司と共に相談したいと連絡した。

週の初めはいつもそうだが、業者との打ち合わせと手配、それと先週までの実績を元にした修正で大半の時間が潰れてしまう。宏一と友絵はほとんど話しもせずに黙々とそれらをこなしていた。話すつもりが無いのではなく、お互いにやることを分かっているので話す必要が無いのだ。もちろん友絵はお茶を出したり業者のお菓子を分けたりと雑用もしっかりとしている。

休憩時間にお茶を飲んでいた業者は『齋藤さん、三谷さんと喧嘩でもしてるの?』と心配するほどだった。そこで初めて友絵が、
「三谷さん、ユニワンの佐藤さんが、私達、喧嘩してるんじゃないかって心配してくださってますよ」
と声を掛けると、宏一が初めて顔を上げた。

「私達?誰?喧嘩?」
「そうですよ。私と三谷さんが喧嘩してるんじゃないかって」
「喧嘩?何で?」
「だって、さっきから全然、一言も話さないじゃ無いですか。齋藤さんがこれだけいろいろ動き回ってるのに三谷さんは知らん顔だから」

ユニワンの佐藤がそう言うと、宏一は破顔した。

「ごめんごめん、ちょっと建て込んでてね。そんなつもりはなかったけど、険悪に見えた?」
「険悪って言うか・・・・まるで他人同士みたいって言うか」
「まぁ、他人て言えば正にそうだからね」
「それはそうです」

友絵も笑ってそう言った。

「いつも忙しいのはわかってるけど、それにしても今日は黙りを決め込んでさ」
「そんなつもりはなかったんだ。ゆっくりしてってください」
「それはありがとうございます、だけど、そろそろ行かなきゃね。お茶、ごちそうさま」

そう言うとユニワンの佐藤は部屋を出て行った。もちろん、この部屋にはいつも業者が出入りしているので宏一と友絵が話をしていなくても気にしない人も多いが、休憩に来た業者の中には部屋の雰囲気が和やかかどうかを気にする人もいるのだ。

「斉藤さん、お茶菓子は十分ある?俺が話し相手になれない分、せめてお茶菓子くらいはちゃんと準備しておきたいんだけど」
「はい、今日の分は大丈夫だと思いますけど、念のため、お昼の後、買いに行ってきてもいいですか?」

友絵は机の横に置いてある段ボールの中のお菓子をガサガサ探しなが言った。

「うん、お願い、予算が厳しいからあんまり良いものは買えないと思うけど、何とかお願いするよ」
「はい、せんべい類とかを中心にするしかないですけど、おいしいのを選んでおきますから」
「お願いします」

そう言うと宏一は再び手配の変更に集中した。手配の変更には、電話で話した方が良い場合とメールで送った方が良い場合があるが、なるべく宏一はメールと併用するようにしている。そうすれば即時性と記録の保存を両立できるからだ。

手配を変更したのに『そんなはずじゃなかった』というのは工事管理ではしょっちゅうだが、なるべく避けられるものは避けたい。ネットワークの工事と言えばイメージは良いが、実態は狭い場所に潜り込んでケーブルを通す作業の変更になるので、あちこちで確認が必要になるから面倒この上ないし、さらなる変更もしょっちゅうだ。特にこの会社のように業績が上がっている会社はどんどん仕様が拡張されるので常に先を見ながら設計と工事を進めていかなくてはいけない。ただ、宏一は一人で工事全体を決められるこのポジションが気に入っていた。

その日はちょっと残業したが、友絵が先に帰って仕事の始末に入った頃、めぐみから再び連絡が来た。今現在いる場所と泊まっているホテルを訪ねると、どうやら渋谷近辺で会うのが良さそうだ。そこで宏一は恵比寿駅で待ち合わせすることにしてラインを送り、会社を出た。あそこなら駅が小さいので待ち合わせに便利だと思ったのだ。

しかし、めぐみはあちこち移動していて渋谷駅近辺で待ち合わせしたいらしい。結局ハチ公前で待ち合わせすることにした。

宏一が着いたとき、ハチ公前はかなり混んでいた。めぐみはまだ来ていないらしい。取り敢えずラインで聞いてみると近くにはいるらしく、向こうも宏一を探しているようだ。確かに混んでいるときに相手を探すのは意外に難しいものだ。それでも近くには来ているのだから、と周りを見渡しながら待っていると、やがて見覚えのある女の子がキョロキョロしているのを見つけた。

「めぐみちゃん、久しぶりだね」
「三谷さん、こんにちは」

久しぶりに会っためぐみは相変わらず小麦色の肌と白い歯が印象的な快活な女の子だった。急いできたのか、うっすらと顔が上気している。薄いレモンイエローのブラウスの下には濃いブルーのブラジャーが少しだけ透けている。

「三谷さん、こんにちは。久しぶりですね」
「急に来たからびっくりしたよ。元気にしてた?」
「三谷さんこそ、覚えていてくれた?」

めぐみは弾けるような笑顔で笑った。

「もちろん、忘れるわけないよ。めぐみちゃんこそ覚えていてくれてうれしいよ」
「私だって忘れるわけないですよ。でも、三谷さん、急に誘ったりして迷惑じゃなかったですか?」
「迷惑?どうして?」
「だって、つきあってる人、いるんでしょ?」
「つきあってる人?いるのかなぁ?うーん、一番それっぽい子は全然連絡くれないし・・・・、ま、そういうこと」
「それじゃ、ちょっとの間三谷さんを借りるってことで」

めぐみはいたずらっぽく笑った。

「おいおい、モノじゃないんだから」
「ううん、ごめんなさい、そんなつもりじゃなくて・・・、ちょっと気になってただけ」
「それじゃ、どこに行く?夕食は?」
「まだ。どこかに連れてってください」
「そうだね、何か食べたいものはある?」
「別府には無いものが良い」
「別府には無いもの、ねぇ・・・・、そんなものあるかなぁ?それで、時間はあるの?」
「もう今日の予定はおしまい、後は明日。だから大丈夫です」
「そうか、それじゃ、移動しながら考えるけど、それで良い?」
「はい、もちろん」

「どんなものが良い?ううん、どんなものを食べたくない?」
「大分にあるもの。わがまま言うと、海鮮系よりもお肉かな?」
「そうだね、いつも厨房で余り物とかのまかないを食べているのなら新鮮な魚介類はいろいろあるものね」
「そうなんです。まかないは高級な料理じゃないけど、まかないの材料の質は良いから」
「わかったよ。それじゃ、行こうか」

そう言うと宏一はめぐみを連れてJRに乗った。移動しながらタブレットで恵比寿のレストランを予約すると席が空いていることがわかった。リアルタイムで空席をアップデートしているサイトなので予約できれば間違いなく席があるし、確認の電話も来ない。

渋谷からの移動なので恵比寿まではすぐだった。駅からは動く歩道を使ってしばらく移動するが、めぐみはあちこちキョロキョロしながら嬉しそうだ。

「やっぱり東京なんだ。こんなの別府には無いものなぁ、ビルも大きいし」
「お腹空いてる?」
「はい、ちょっと・・・・」
「それならたくさん食べてね。どれくらいなら食べられる?」
「わからないけど、たいていのものは・・・・・」
「それなら、食べられないくらい大きい肉を頼んでみるかな?」
「ステーキですか?それなら大好き。いくらでも食べますから」
めぐみはそう言って笑うと、ちょっと宏一に近づいて立った。

「今回東京に来た日程はどうなってるの?」
「今週いっぱいなんです」
「っていうことは、土曜日に帰るのかな?」
「そう、月曜日からはまた学校ですから」
「めぐみちゃんは3年生だったっけ?」
「はい、そうですよ。言いませんでしたっけ?」
「ごめん、覚えてないのかもしれない」

「急に来て迷惑じゃなかったですか?」
「そんなことはないよ。覚えていてくれて嬉しいよ」
「知らないって言われたらどうしようかって思ってたんです。ちょっと心配しちゃった」
「それなら連絡くれれば良かったのに」
「・・・でも・・・なかなか連絡できなくて・・・・。知らないって言われると落ち込みそうだったから」

「こっちでは親戚のところに泊まってるの?」
「いいえ、親戚には会いますけど、受験生だと気を遣わせるだろうからって言うことでホテルに泊まってます」
「どこのホテル?」
「渋谷の近くです。ネットで探したんです」
「渋谷の近く?駅は?」
「池の上ってところです」
「よく知らないなぁ」
「小さな駅ですから」

そんな話をしているうちに二人はガーデンプレイスの地下の店に着き、予約したことを告げるとスムースに席に案内された。

「さぁ、ここは有名なお店だし、たぶん大分にはないから好きなものを頼んでね」
「ないない、絶対大分にはないです」
「基本的なことを知らないんだけど、大分と別府って、どっちが大きな街なの?」
「大分です。別府は大きいけど温泉街だから大きな商店街って言うのもないし、あちこちにお店が分散してるんです。大分は県庁所在地だし、大分の近くには大きな会社もいっぱいあるから」
「そうなんだ」
「ウチのお客さんも以前は大分の会社からたくさん来ていました。私も時々大分に模擬試験に行ったりしますよ」
「さすが受験生だね。それじゃ、何を頼む?」

大きなメニューをめぐみに渡したが、少し眺めていためぐみは困ったように言った。

「三谷さん、頼んでもらっても良いですか?好き嫌いはないですから。なんかよくわからなくて・・・・ごめんなさい」

実はめぐみはメニューに書いてあることがわからないのもそうだったが、値段の高さに驚いていた。それを敏感に察した宏一が言った。

「わかったよ。それと今日は俺のおごりだから気にしないでね。飲み物はどうする?」
「すみません。ありがとうございます。それじゃウーロン茶で。ごめんなさい、子供で」
「ううん、大丈夫。気にしないで。楽しく食事するための飲み物だから、好きなものやなれたものが一番差。だから俺はビールにするよ」

宏一はそう言うとあっという間に注文を済ませた。

「やっぱり大人だなぁ。慣れてるんですね」

めぐみはきらきらした目でそう言って宏一を見つめた。

「めぐみちゃんも社会人になればすぐにそうなるよ」
「まだ大学にも行ってないですけどね」

めぐみはそう言って笑った。

「今回は大学の下見?受験?」
「両方です。AO入試もあるから」
「推薦のことだっけ?」
「そういう感じです」
「大学は東京にするつもりなの?」
「親は博多とかが良いみたいですけど、受験だけはどこを受けても良いってことになってるから」
「本命は?」
「まだ最終決定じゃないですけど、博多の女子大にしようかなって思ってます」
「そうなんだ。東京じゃないんだ」
「東京に来るかも知れませんよ、わかりませんからね」

そう言っている間にスープとサラダが運ばれてきた。客の目の前で混ぜてから提供するスタイルになっているらしく、簡単なサラダの割には大袈裟に手間を掛けて出して来た。めぐみはロブスタービスクを最初に一口飲んだ。

「このスープ、おいしい」
「ロブスタービスクはステーキレストランでは定番だね」
「ロブスターってことは、伊勢エビですよね?」
「伊勢エビとロブスターはちょっと似てるけどだいぶ違うよ。伊勢エビはハサミを食べられないし、頭が大きくて食べる身が少ないけどロブスターはハサミも大きいシミもたくさんあるからね」

「でもおいしいです。うちではこんなの出せないなぁ」
「そうなの?手間がかかるから?」
「それもそうだけど、スープって言うのはあんまり・・・・・。肉料理としてビーフシチューを出すことはあるけど、エビは好き嫌いがあるから・・・」
「そうか、レストランと違ってお客さんが選べないものね」
「お客さんに選んでもらうって言うのもやったことがあるんですけど、帳場が混乱するだけで出すまでに時間がかかるし。難しいです」
「めぐみちゃんはよく知ってるなぁ」

宏一に褒められてめぐみは気を良くしたようだ。

「それにこの冷たいサラダ」

めぐみはそう言うとサラダに手を伸ばした。

「なんかすごいですね」
「なんて言うか・・・、わざとらしいというか・・・・、たいしたサラダでもないのにね」
「でも、冷たくておいしいです。サラダをきちんと冷やして出すなんてすごい」
「さすがにめぐみちゃんは見るところが違うね」
「皿だって冷やして出そうと思うと結構面倒なんです。冷蔵庫で場所を取るから。ここはお皿もちゃんと冷やしてるからすごいなって・・・」
「めぐみちゃんのホテルでは違うの?」
「以前、サラダを目玉にできないかって言う話になって、少し話し合ったんですけど結局だめでした。海鮮を入れたおいしいのができたんですけど、かなり高くなっちゃって・・・・、それにうちは部屋食だから食事の時間も長くて、せっかく冷やして出しても暖かくなっちゃうって・・・・。せっかく冷やして出しても、サラダって直ぐには食べてもらえないんです」

「めぐみちゃんの家のホテルって、普通の人だと一泊2食で1万7千円くらいだよね?」
「いろいろですよ。同じ部屋と食事でも、予約をどこでするかで全然値段が違うんです。個人と団体でも違うし。あんまり言っちゃいけないんですけど」
「そうなんだ。よく知ってるね」
「高校に入ってからは帳場も少し見てるんです。親の手伝いで。ほんの手伝いですけど」

「それでも、良く一食いくらかなんて知ってるね」
「板さんと母親がいつも話してるから。板長さんなんてすごいですよ。ちょっと見ただけでピタッと当てちゃうんですから」
「まぁ、それが仕事だからって言ってしまえば簡単だけど、でもすごいね、見ただけで当てるなんて」
「そうなんです。だいたい全体でいくらとか、今日の仕入れ値はいくらだからこれを入れてもいくらに収まるとか、毎日仕入れを見ながら調整してます。本当にすごいなって思います」

「そうだね、部屋食だとゆっくり楽しめるから、その分、食事が重要だものね。でも、お金もかかるだろうしね」
「そうなんです。うちは赤字ぎりぎりまでお金を掛けてるけど、そうじゃないところも多いから。食事って結構ホテルによって違うんですよ。どこもちょっと見ただけじゃ分からないようにしてますけど」

めぐみはサラダを簡単に平らげてしまうとウーロン茶をごくごく飲んで言った。

「っていうことは、あまり食事にお金を掛けていないところもあるってこと?」
「もちろん、それなりには掛けますけど、温泉が良いところとかは食事が少しくらい簡単でもお客さんは来ますから。いろいろある中で目玉の料理にだけ手を掛けておくだけで良いなんて、うちには無理です。全部に気を遣わないと」
「そうか、温泉とかに管理費がかかるところは食事にあまりお金を掛けられないんだ」
「そうですね。うちは温泉は源泉掛け流しですけど、大きな露天の岩風呂じゃないから食事で魅力を出さないといけないんです」
「そうだね、でも地獄蒸しは最高だったなぁ。本当においしかった・・・」
「ありがとうございます。あ、あれはあのときはできる人が二人しかいませんでしたけど、今はみんなある程度は作れるようになったんですよ」
「すごいね。なんか作り方をマニュアルにしたとか?」
「そうなんです。まだ食材の種類が全部じゃないですけど、私でもいちおう作れましたよ」
「へえ?めぐみちゃんが。そうか、それじゃめぐみちゃんの作ったのを食べに行かないとね」
「是非来て下さい。がんばって作りますから」

そんな話をしていると、いよいよメインの肉が出てきた。めぐみは大きさに目を丸くした。

「うわ、こんなにすごいんだ。おっきい・・・・食べ切れんかもしれん・・・・」
「お、大分弁が出たね」
「え、いいえ、そんなことはありません」
「気に障ったらごめん。めぐみちゃんの大分弁も好きだよ。でも、食べられない?無理なら残して良いよ」
「・・そげんこつ・・・・・そんなこと言われたら残せません。大丈夫。ちゃんと食べます」
「そう、それじゃ、お肉が冷めないうちにいただこうか」

そういうと宏一はナイフとフォークを取った。宏一はステーキ、めぐみはプライムリブのレギュラーカットだ。

「こんなおっきいのは見たことないですよ。すごいですね」
「思いっきり食べてね」
「はい、いただきます」

めぐみは目を輝かせて両手にナイフとフォークを持つと、猛然と食べ始めた。夢中で大きな肉と格闘しているめぐみは本当に可愛らしい。

「どう?食べられそう?」
「わからないです。こんなにおおきなのは初めてだから・・・・。でも、がんばります」
「ゆっくり食べると途中で食べられなくなるから、おっきな肉を食べるときは一気に食べるのがコツだよ」
「はい」

めぐみは返事もそこそこに次々にプライムリブを口の中に放り込んでいった。

「めぐみちゃん、このビール、一口飲んでみる?脂っこいのが洗い流されてすっきりするよ」
「そうですか・・・はい、ちょっとだけ」

そう言ってめぐみは宏一のビールを一口飲んだが、
「何となく分かるけど、・・・・・ありがとうございました」
と言ってビールを返してきた。

どうやらめぐみの好みには合わなかったようだ。

「めぐみちゃんも一応ビールは飲めるんだね」
「それは・・・・接客をしてれば誰でもある程度は飲めないと・・」

そのめぐみの言葉を聞いて、宏一は香緒里も同じことを言っていたと思い出した。
途中で宏一のステーキと一部を交換したが、それでもかなりの部分を一気に食べた。しかし、さすがに半分を超すとペースが落ちてきて、スープやサラダに手を伸ばし始めた。もちろん宏一はあっという間に700グラムのステーキを食べてしまったが、めぐみのプライムリブは脂が多いので柔らかいが食べるのが大変なのだ。

「ふぅ、もうこれ以上は無理みたい・・・・ごめんなさい」

めぐみは少し残したことを謝った。

「ううん、食べられないなら無理に食べて辛い思いをするより残した方が良いよ。食事は美味しくいただくものだからね。食べすぎて辛くなったら意味ないよ」
「はい、ごめんなさい」
「でも、美味しかった?」
「はい、それはもう・・・。とっても美味しかったです」
「良かった」

「三谷さん、それで、教えてもらっても良いですか?」
「なんだい?」
「これって、全体に均一に火が通ってますよね?周りを見ると火が通っても焼いたわけでもなさそうだし、どうやって火を通してるかわかりますか?」
「あぁ、火の遠し方ね。そうだよね。これはね、もっと大きな肉をゆっくり時間を掛けてオーブンで焼いてから固まりごと置いておくんだ。フライパンで焼くわけじゃないんだよ。そして注文が来たら注文に合わせて切って暖めて出してるんだよ」
「それでこんなに全体に均一にうっすら火が通ってるんだ。すごい・・・・」
「毎日たくさんのお客さんが注文することがわかってるからこんなことができるんだ」

「でも、こんなおっきいのは無理でも、うちでも何か出せないかなぁ・・・これなら出すのは簡単そうだし・・・」
「冷めても食べられるようにって思うと、こんなに脂のきついのは無理だと思うけど、ヒレ肉とかの小さいのだったら工夫次第でできるかも知れないよ」
「今度板長に話してみます。今は肉ブームですから」
「そうだね。でも板長は和食専門だろ?」
「はい、それはそうですけど、温泉の板長は全部知ってないとできないですよ。和食の人が洋食を作るのはできるけど、逆は無理だから和食の板長がやるしかないんです」

「それはそうだね。温泉ホテルなら何人も料理人を雇うって言っても限界があるものね」
「はい、でも、火の遠し方ならうちの板長はすごいですから」
「うん、それは地獄蒸しでよく分かってるよ」

二人はそんな話をしながらメインを食べ終わるとデザートを軽く済ませた。

「それじゃ、めぐみちゃん、今回の日程をもう一度教えてもらえる?」
「えーと、明日は午後から面接と英語のテストがあって、夜は親戚の家に行きます。明後日は大学の面接だけで、木曜日は別の大学で英語と面接と適性テストがあって、金曜日は午前中に模試を受けて午後に帰ります」
「そうなんだ。結構忙しいんだね」
「それで・・・・・あの・・・・・・明後日・・・・もう一度会ってもらえますか?」
「いいの?」
「はい、もちろん。そうすればもっと早くから会えるから。でも迷惑じゃないですか?」
「ぜんぜん」
「よかったぁ」
めぐみは安心したようで、一気に笑顔になった。
「それで、今日はこれからどうするの?」

宏一はめぐみに期待して聞いてみた。

つづく

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