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85章 利奈たちのバンド名、ハッピー・クインテット 曇り空の6月19日、金曜日。午後の3時を過ぎたころ。 東京の新宿区、早瀬田(わせだ)大学、戸山(とやま)キャンパスにある、 学生会館には、サークル活動をする学生たちで賑(にぎわ)っている。 その学生会館の西棟(にしとう)の2階の、大ラウンジでは、 ミュージック・ファン・クラブ(MFC)の部員が集まっている。 大ラウンジの大きな1枚ガラスからは、緑の樹木や、ひろいキャンパス(校庭)も見える。 その西棟には、コンビニエンス・ストアのセブンイレブンや、 ファーストフードのモスバーガーもあり、ラウンジは、学生たちの憩いのスペースである。 川口利奈(りな)と、木村奏咲(そら)、沢田誠二と、浦和良樹、吉田健太の5人が、 結成が決まったばかりの、バンドの名前を何にしようかと、 テーブルを囲(かこ)んで、話し合っている。5人はみんな、早瀬田大学の1年生だった。 「ええとぉ、まずは、おれらのバンドのイメージは、どんな感じなんですかね。 そのへんから、バンド名のコンセプションというか、考えは、決まると思うんですよね。 あっはっは」 そういって、頭をちょっとかいて、話を切り出す、リーダーに決まった、沢田誠二である。 沢田は、謙遜(けんそん)はしているが、ジャズ・ギターの腕前は、 ミュージック・ファン・クラブの中でも、注目でダントツのナンバーワンであった。 沢田は、19世紀初期の天才ジャズ・ギターリストの、チャーリー・クリスチャンや、 ジャンゴ・ラインハルトを尊敬していて、その二人に憧れて、ギターを練習してきたという。 「男子が3人で、女子が2人だから、『男女で2、3』なんてどうかしら?ぅっふふ」 そういって、わらったのは、急遽(きゅうきょ)、キーボード奏者に決まった、 木村奏咲(そら)だった。木村奏咲と川口利奈(りな)は、 健康栄養学部・管理栄養学科で、仲もいい。利奈の推薦もあって、バンドのメンバーに決まった。 「それも、いいね、奏咲(そら)ちゃん。おれも考えてきたのがあるんですよ。 ハッピー・クインテット(Happy quintet)っていうんだけど。 直訳すれば、幸せな五重奏者ってとこです。あっはっは」 そういって、沢田誠二は、みんなを見ながらわらった。 「ハッピー・クインテット、それ、ステキじゃないですか!それにしましょうよ!」 利奈がそういった。 みんなも、大賛成で、バンド名は、ハッピー・クインテット(Happy quintet)に決まった。 利奈たちが楽しそうに話しているのを、菊田晴樹(はるき)は、隣のテーブルで、時々見ていた。 そんな、どこか、さびしそうにしている晴樹に、利奈は話しかけた。 「晴(はる)くん、わたし、バンドに入れてもらうことになっちゃったの! 晴(はる)くんにも、これからも、ギターを教えてもらえたら、うれしいんですけど」 「すてきなバンドの仲間ができたみたいで、よかったですよね、利奈ちゃん! おれは、利奈ちゃんさえよければ、ギターのことなら、教えてあげたいですよ。 利奈ちゃんのお役にたてるのなら、いつでも、よろこんで!」 菊田晴樹(はるき)は、そういって、爽やかな笑顔で、利奈を見た。 菊田晴樹と、利奈の隣に座っている沢田誠二は、笑顔で、軽く、挨拶しあった。 ふたりとも、同じ1年生でありながら、菊田晴樹は、ブルース・ギターがうまく、 沢田誠二は、ジャズ・ギターの名手であった。 ふたりとも、お互いを意識していたが、これまで、親しく、話したことはない。 ≪つづく≫ --- 85章 おわり --- |