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タイトル:雲は遠くて  80章 マイケル・ジャクソンを絶賛する、川口信也  2015/05/04


80章 マイケル・ジャクソンを絶賛する、川口信也

 ゴールデンウィークの5月3日。
南からの風が吹く、暑いくらいの晴れた日曜日の正午ころ。

 下北沢駅南口から歩いて5分の、ライブハウス EASY(イージー)のテーブルには、
川口信也と、クラッシュビートのリーダでもある森川純(じゅん)と、
信也の妹の利奈と信也の彼女の大沢詩織の、4人がくつろいでいる。

 4人がけの四角いテーブルに、純と詩織、信也と利奈と、座っている。

「利奈ちゃん、いつでも、この店で、歌うたって、ライヴやっていただいて、いいんですから!」

 森川純が、人なつっこそうな笑顔で、信也の横の利奈に、そういった。

 利奈には、紳士で男らしさのある森川純が、兄の親友であることが嬉(うれ)しかった。

 ライブハウス、EASYは、着席で60人、スタンディングで90人の、モリカワの直営店である。
内装には自然の木を豊富に使い、椅子やテーブルやカウンターは、木目も美しい。

「ありがとうございます。純さん。でも、わたし、ギターの弾き語りも、習い始めたばかりなんです。
ですから、、ライヴなんて、まだまだ無理ですよぉ。歌うのは大好きなんですけどね。うふふ」

「あっはっは。大丈夫ですよ、利奈ちゃん。
あなたには、お兄さんと同じ才能があるはずなんですから。なぁ、しんちゃん、あっはっは」

「利奈は、おれに似て、歌うのは大好きで、確かに歌はうまいと思うよ。
魅力的なヴォーカルと、技術的にうまいヴォーカルとは違うわけでね。
内面的にいいものを持ってるんじゃないかなぁ、あっはは。
身内で、自画自賛して、兄妹して、ばかみたいだけど。あっはは」

「それでいいんですよ。自賛しなければ、何も始められないんだから、本当は。
ばかでも何でもないですよ。最近の日本人は、どうも、始める前に諦(あきら)めてますよね。
なんでも、チャレンジすることに、第1に価値があるんですから。失敗したっていいんですよ。
失敗を恐(おそ)れたり、諦(あきら)めることのほうが、大きな間違いであって、損失ですよ」

「さすが、純ちゃん、森川誠社長と同じことを考えているんですね。あっはは」

「いやーあ、いつも、オヤジに言われていることが、頭の中にインプットされてしまって!
しんちゃんも、会社で聞き飽きていることだよね。あっはは」

「社長のチャレンジ精神の勧めは、おれも大賛成だから、純ちゃん。
チャレンジ精神が無くなったら、会社も、個人も、世の中も、
よい方向に発展するわけがないから絶対に」

「わたしも、日々の、チャレンジが大切だと思うわ、しんちゃん。・・・ね!利奈ちゃん!」

 そういって、やさしく微笑む、森川純の隣の、詩織である。

「わたしも、そう思います!詩織さん!」

 詩織の向かいに座る利奈が、そういって、無邪気な子どものようにわらう。

「詩織さん、わたし、ギターを練習しているんですけど、弦を押さえる指先が、
いつまでも痛くって、実は困っているんです。そのうち、痛くなくなるのかなって、
思っているんですけど。痛くなくなる、いい方法って、何かあるんでしょうか?」

 利奈は、いつも清らかで、すっきりしている詩織の容姿に、好感を持っている。

「まぁ、利奈ちゃん、それは、それは。わたしもギターを始めたころは、指先が痛くってね。
誰でもみんな同じなんですよ。そのうち、指先の皮膚がそれになれて、固くなったりして、
痛くなくなるんだけど。もうひとつの方法としては、やわらかい弦にするとか、
思いきって、アコースティックギターから、エレキギターに換えちゃったら、どうかしら。
ね、しんちゃん!?」

「そうだよね。利奈ちゃん、エレキの、テレキャスターとかに換(か)えてみようか?!
おれ、利奈の音楽のためにプレゼントさせてもらうから。ね、利奈ちゃん!
あっ、おれ、気前よくなって、すっかり、このビールで酔ってるわ。あっはは」

「ありがとう!お兄ちゃん!」

 信也と利奈の、そんな会話に、みんなも、声を出してわらった。

  利奈にとって、7つ違いの信也は、利奈も思わず吹き出して、わらってしまうくらいに、
子どもっぽい性格の一面もあるが、いつも頼りになる、しっかりした兄である。

「ところで、利奈ちゃんさぁ」

「なぁに? しんちゃん」

「利奈ちゃんが、この前、ロバート・ジョンソンの夢を見たっていうのには、
笑っちゃったんだけどさ。あはは。でもね、利奈ちゃんのギターの師匠が・・・、
1年の菊田晴樹(はるき)って言ったっけ、彼は、なかなかの音楽センスのある男だと思うけど、
利奈には、ロバート・ジョンソンは、ちょっと、どうかなって、おれは思っているんですよ。
つまり、おれの言いたいことは、ミュージシャンとしての目標としての、
ロバート・ジョンソンは、ちょっと無いんじゃないかなって、ことでさぁ。あっはは」

「わたしだって、女なんだし、ロバート・ジョンソンみたいになりたいなんて、思ってないもん!」

「そうよ、しんちゃん、利奈ちゃんは、ちゃんと、先のことは考えているのよ。
ロバート・ジョンソンのようなギターのテクニックを身につけるってことよね、利奈ちゃん」

「そうなんですよぉ、詩織さん。せっかく、晴樹くんのような、ギターの上手な師匠がいるんですから。
わたしって、知らず知らずのうちに、音楽に関しては、お兄ちゃんからの影響があるって、
よく思うんですけど。でも、よく考えてみたら、
しんちゃんって、どんなミュージシャンを目標としているかって、よくわからないんですよね。
ある時は、セックス・ピストルズなんていうイギリスのパンク・ロックだったり、ビートルズだったりって。
しんちゃんの、いま1番に、目標の、尊敬しているミュージシャンって誰なのかしらぁ?」

「ええっ、目標っすかぁ。そう言われても。おれは、基本的には、いわゆる、白人音楽のカントリーと、
黒人音楽のR&B( リズム・アンド・ブルース)が融合して生まれた、
ロックン・ロールが好きなわけでさぁ。あらたまって、誰が好きかって言われてもね。あっはは」

「まぁ、エルビス・プレスリーってあたりかな。しんちゃんの1番は。あっはは」と、わらう、純。

「プレスリーも、天才的な人で、プレスリーが存在しなかったら、
今のロックン・ロールはなかったと思うけどね。純ちゃん。
でも今のおれの、尊敬するというか、目標とするミュージシャンはですね、
ひとりだけ上げろと言えば、そのひとりは、たぶん、マイケル・ジャクソンなんですよ!」

「あぁ、しんちゃんもそうなんだぁ、うふふ、やっぱり、マイケルなのね。キング・オブ・ポップだし、
かっこいいし、かわいいし、いまも、マイケルが亡くなって、
この世界に存在しないってことが、わたし、信じられないくらいなのよ。
マイケルは、人類史上最も成功したエンターテイナーという、ギネス世界記録も持っているわよね」

「あっはは。詩織ちゃんの心の中では、マイケルは、いまも、いつでも生きているんだよ!
詩織ちゃんはマイケルの大ファンで、CDからDVDから本まで何でも持っているもんね。
おれって、そんな、詩織ちゃんの影響で、マイケルの大ファンになっちゃったんだよ。あっはは」

「そうかしら?でもうれしいわ。しんちゃんも、マイケルのファンなんて。
マイケルって、曲作りも天才的だけど、
ダンスをポップスに取り込んだり、ポップスを、普遍的な芸術にまで高めた、天才だと思うわ。
マイケルがいなかったら、EXILE(エグザイル)も生まれなかったのかしれね、しんちゃん」

「うん、マイケルのダンスとかは、いま見ても、しびれるよね。ねえ、純ちゃん、利奈ちゃん」

「まったくだね。確かに、かれは、キング・オブ・ポップだよ。おれたちクラッシュ・ビートも、
ダンスをやらないといけないかもね、しんちゃん。あっはは」

「まぁ、純ちゃん、おれたちも、ダンスしたくなるような歌をいっぱい作ってゆきたいよね。あっはは」

「わたしも、マイケル・ジャクソンは、大好きよ。そうか、しんちゃんって、マイケルなのかぁ。
わたしも、きっと、マイケルが、目標になりそうだわ。わたしも、ダンスやりたいな!」

「よーし、今度、ダンス教室にでも通おうか?利奈ちゃん。おれも、ダンスは習いたいんだ。あっはは。
まぁ、なんて言うのかな、おれたちの好きな音楽って、運動会でやる、
あのリレーみたいなものじゃないのかな。
そんな意味では、マイケルからのバトンを引き継ぐようなものじゃないのかな。
だから、おれたちも、楽しみながら、新しい音楽つくりとかを目指して、やってゆきたいよね!」

「そうよね」

「そうだよね!」

「そうそう!」

 4人は、顔を見合わせて、明るく、わらった。
 
≪つづく≫ --- 80章おわり ---

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