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74章 TRUE LOVE ( ほんとうの愛 ) PART 2 3月15日、日曜日。一日中、春を感じられる、おだやかな晴天であった。 「しん(信)ちゃん、きょうのお昼は、利奈(りな)ちゃんが、はりきって、 なすとベーコンのトマトパスタを作ってくれたのよ」 リビングに入った信也に、美結が笑顔でそういった。 「それは、それは。利奈ちゃんも、美結ちゃんも、料理が上手だから、 おいらは幸せですよ。あっははは」 そういって、信也が、檜(ひのき)のローリビングテーブル(座卓)に落ち着いた。 「わたしが来たために、しんちゃんは、このマンションにいられなくなってしまって、 なんか、申しわけない感じがするんだけど、わたし」 キッチンで料理をつくっている利奈が、そういって、信也を見た。 「そんなことないって。おれは新しいマンション、気に入っているんだし。 利奈ちゃんは、ここで、美結ちゃんと仲よく暮らせば、おれもうれしいんだから。あっはっは」 「ありがとう、しんちゃん」と、利奈は微笑んだ。 川口信也が、今まで暮らしていたこのマンション、レスト下北沢では、 二人の妹の、美結と利奈の二人の生活が始まっていた。 信也は、結局、このレスト下北沢から、歩いて2分という近さにあるマンション、 ハイム代沢(だいざわ)で、ひとり暮らしを始めている。 それは、大沢詩織との生活のためにのと、去年の12月に、新しく借りたマンションでもあった。 ハイム代沢(だいざわ)は、防音設備のある音楽マンションで、信也も気に入っている。 1つの部屋とキッチンと、バスルームに洗面所、南側には洗濯物も干せるベランダがある、 1Kの間取りであった。駐車場はないが、このレスト下北沢から、歩いて2分なので、 駐車場は新たに必要ではなかった。 「あとで、できたばかりの歌を、聴いてもらいたいんだけど、聴いてくれるかな」 「しんちゃん、すごい。また歌ができたんだ。聴かせて!」 そういって、利奈が、素直な瞳を輝かせた。 「クラッシュ・ビートのセカンド・アルバムのタイトルは、 しんちゃんの作った歌の『TRUE LOVE』なんでしょう?」 信也のテーブルの向かいの美結の隣に座る、利奈がそういった。 「うん、きょう作った歌は、その『TRUE LOVE PART 2』なんですよ」 「わたしも、しんちゃんみたいに、歌が作れるようになれたらいいなぁ」 「だいじょうぶよ。利奈ちゃんは、小学校ではピアノが1番上手だったんだし、 その素質は、十分あるはずよ。きっと、しんちゃんみたいな、ミュージシャンになるのも、 夢じゃないわよ。だから、あきらめないでね!うっふふ」 美結はそういって、姉らしくやさしく、利奈に微笑んだ。 「ありがとう。美結ちゃん。お姉ちゃんは、いつも、やさしいから、わたし、大好きよ!うふふ」 兄妹(きょうだい)三人は、そんな会話をしながら、なすとベーコンのトマトパスタを楽しく食べた。 「それでは、聴いてみてください」といって、ちょっと照れながら信也は、 アコースティックギターを手にした。 『TRUE LOVE PART 2』は、ゆったりしたテンポの、メロディが美しいバラードであった。 最初に作った『TRUE LOVE 』が、スタッカートな、レゲイ調で、ノリのいいのに比べると、 『TRUE LOVE PART 2』には、その旋律に、心に沁みる、洗練された美しさがあった。 TRUE LOVE ( ほんとうの愛 ) PART 2 作詞作曲 川口信也 愛について 考えたり 話したりって とても 日常の会話とかには できないこと それなのに 元気に生きているうちに ほんとうに 知りたいことっていえば やっぱり 愛についてって ことになる だから ぼくは 愛についての本を 読んだりもする ぼくって カトリックの 信者じゃないけどさ 修道女の マザー・テレサの言葉に 感動もする! 「地球で もっとも 偉大な力 それは 魂の音楽」 「愛して 愛される 時間を 持ちなさい」・・・とか でも別に 愛って 宗教の 専売特許じゃないわけで ぼくたちは 誰かを 好きになったりすることで 愛に出会ったり 愛について 学んだりする 愛の すばらしさや パワーを感じたりする 「愛こそすべて」なんていう 歌も生まれたり! あああ もしも 世界に 愛がなかったとしたら どんなに 無情と殺伐の 世界になるんだろうか!? マザー・テレサが こんなことを 語っているそうだ 「愛の欠如こそ いまの世界の 最悪の病です」と 愛のない人で あふれている この世界なのか? あああ それにしても 不思議に思うのだけど 愛って どこから生まれてくるのだろうか!? 愛という概念(がいねん)も 神という概念に似て それを 信じられるか 信じられないかで その人の 幸福や 不幸が決まる気もするけど・・・ やっぱり この人生は 愛に出会うための 長い旅のような 気がする ぼくなんです・・・ ふり返れば ぼくにも 愛のない時期があったんだよ いまは その愛の存在を 信じられるんですよ だから ぼくは これからも 愛の歌をうたうのさ! True love is beyond human wisdom. ( ほんとうの愛は 人の英知を 超越している ) True love is really beautiful thing. ( ほんとうの愛は ほんとうに美しいもの ) ≪つづく≫ --- 74章 おわり --- |