|
70章 TRUE LOVE ( ほんとうの愛 ) 2月14日、土曜日の昼下がり。北風が吹いているが、よく晴れている。 クラッシュ・ビートのセカンド・アルバムの制作が、 下北沢駅 南口から歩いて3分の、レコーディング・スタジオ・レオで行われている。 アルバムの制作には、キーボディストとして、落合裕子が参加している。 裕子は、1993年3月生まれの21歳である。 人の心を魅了する女性らしく可愛(かわい)い容姿や、さわやかな明るい性格で、 すっかりと、バンドのメンバーたちの中にとけこんでいた。 バンドのみんなと、スタジオ・レオの代表取締役で31歳の島津悠太とスタッフたちは、 快適なミーティング・ロビーで、打ち合わせをしたりしながら、 コーヒーやお茶を飲んだり、落合裕子が家で作ってきた、 バレンタインのチョコのクッキーを食べたりして、くつろいだ。 1時30分をまわったころ、バンドのみんなは、 コントロール・ルームからガラス越(ご)しに見える、 50帖(じょう)の広さのメイン・スタジオに入った。 「しんちゃん、わたしは、こんな感じのレゲエ風のバッキングでいいのかしら?」 シンセサイザーを前にして座っている裕子がそういって、信也に微笑みかける。 「裕子ちゃんの演奏、すばらしいよ。しっかりと、リズムはキープしているしね、さすがですよ!」 信也は笑顔で、ギターのカッティングの手を止めて、裕子にそういった。 「しんちゃんは、よく、こんな歌詞とメロディを作れるわ!わたし、この歌も、大好き!」 「ありがとう。この歌詞はね、日ごろ、感じていることを、言葉にするだけで、 わりと短時間、30分くらいでできちゃったんだけどね。 自分じゃ、作品の出来ってよくわからないから、ほめてもらえると、うれしいよ。あっはっは。 曲のほうは、けっこう、あ−でもない、こーでもないって、まる1日くらいかかって、 苦労しているんだよ。あっはは」 「そうなんだぁ」といって、譜面をあらためて見つめる裕子。 「しんちゃんには、ちょっと、変わった、おれらには無いような才能があるからなあ。 あっはっは。それで、このバンドも、オリジナルが作れて、助かっているわけだよなぁ、 なぁ、翔(しょう)ちゃん、岡)(おか)ちゃん」 そういって、バンドのリーダーで、ドラムの、森川純が、ベースギターの高田翔太と、 リードギターの岡林明を見た。 「ほんと、しんちゃんや、純ちゃんのオリジナルがあるから、プロとして、 セカンド・アルバムをつくれるんだしな。あっはは」 そういって、ドラムの前に座る高田翔太は、持っているスティックを宙で回転させる。 「おれも、オリジナル作りには、挑戦しているけどね。これが、なかなか、難しくって」 岡林明がそういって、ちょっと、頭をかく。 「曲つくりは、続けていれば、できるようになるからね、岡ちゃん。継続が力だから。 あっはは」 といって、陽気にわらう、森川純。 「じゃぁ、始めましょうか」と、高田翔太はいった。 全員が、リラックスした表情で、演奏の準備に入った。 ノリのいい、1音符ずつ短く切ったスタッカートな、レゲイ・バッキングの、 裕子のキーボードで、『TRUE LOVE』は始まった。 TRUE LOVE ( ほんとうの愛 ) 作詞・作曲 川口信也 前の戦争が 終われば また新たな戦争! なんで 平和にならないの この世界!? それは 天使のような心と 悪魔のような心 どちらも 人間の中にある 心だから!? それは それとしても・・・ だったなら どう解決すればいいのさ この問題!? その答えは 風に 吹かれているって ボブ・ディランも 歌っていたよね ほんとうの愛は 無傷のまま 風のように ぼくたちの 目の前を 去ってゆく ほんとうの愛は やさしい 風のように 少年や少女を 守っているはず True love is beyond human wisdom. ( ほんとうの愛は 人の英知を 超越している ) True love is really beautiful thing. ( ほんとうの愛は ほんとうに美しいもの ) ほんとうの愛は 人の英知を越えて 最強で 永遠なのだと ぼくは思う 人は ほんとうの愛のために ここまで やって来れたんだろう 人は ほんとうの愛があるから これからも やってゆけるのだろう そんな ほんとうの愛があるから 人だって 歌だって 存在しているんだろう そんな ほんとうの愛があるから みんな 生きる希望だって 持てるのさ そんな ほんとうの愛を 信じて 旅するのが 人生かもしれないよね True love is beyond human wisdom. ( ほんとうの愛は 人の英知を 超越している ) True love is really beautiful thing. ( ほんとうの愛は ほんとうに美しいもの ) ≪つづく≫ --- 70章 おわり --- |