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タイトル:雲は遠くて 65章 クラッシュ・ビートに、美女が参加する!  2015/01/12


65章 クラッシュ・ビートに、美女が参加する!

 2015年、1月11日、日曜日、午後の2時。よく晴れた青空で、
南東からの風が吹いているが、最高気温は10度と、肌寒い。

 川口信也たち、クラッシュ・ビートのメンバー4人は、セカンド・アルバムの制作のために、
レコーディング・スタジオ・レオのコントロール・ルームに集まっている。

 スタジオは、下北沢駅南口の、南口商店街を歩いて3分くらいの、島津ビルの 7階にある。

 ビルは、1962年に創業(そうぎょう)の、屈指(くっし)の島津楽器店の本店で、地下は駐車場、
1階から6階までのフロアは、楽器、楽譜、音楽・映像ソフト(CD・DVD)が揃(そろ)っている。

 モリカワ・ミュージックは、同じ下北沢のにある、土日もオープンしている、
スタジオ・レオを常時利用していた。

 今回のクラッシュ・ビートのレコーディングには、女性のキーボード奏者が参加していた。

 その女性は、美形の才女としてテレビやラジオの出演も多く、
ポップスやクラシック好きの人びと以外にも広く知られている、
キーボーディストであり、ピアニストの、落合裕子である。

 川口信也が作ったばかりの、最新の『 FOR SONG 』という歌は、信也が敬愛する、
アルゼンチンの作曲家で、バンドネオン奏者の、アストル・ピアソラの作くる『リベルタンゴ』に、
深く影響を受け、そのインスピレーションから生まれた作品であった。

 そんな信也の思いもあって、ピアソラのリベルタンゴで演奏されているバンドネオンに似た音色を、
落合裕子のキーボードにお願いしようということになったのである。

 信也と裕子は、昨年の暮れに、音楽雑誌が主催のパーティーで知り合ったのであった。

 お互いに、タンゴに革命を起こしたといわれる、アストル・ピアソラを敬愛していたということで、
そのパーティーの店のカウンターで、偶然となりあわせとなったのだった。カクテルを楽しみながら、
信也と裕子は、タンゴやピアソラの話題で、いつのまにか、すっかり意気投合したのであった。

「しんちゃん、この『 FOR SONG 』は、タンゴみたいに、あのリベルタンゴみたいに、
情熱的で、なかなかの名曲だよ。あっはっは。1小節、4つ打ちのリズムだけど、
メロディの合間を縫って、16分音符が入って来るんだもんなぁ。
結局、これは16ビートのロックンロールなんだよな。あっはは」

 クラッシュ・ビートのドラマーの森川純が、ソファーでくつろぎながら、そういった。

「純ちゃん、それがまた、いいんじゃない。純ちゃんのドラムの腕の見せ所じゃない!
あっはは。純ちゃんのドラムのいつも正確なリズムがあるから、
おれたち、いつも安心して、カッコよく、音楽やっていられるんだから。あっはは」

 川口信也は、コントロール・ルームの、3mある天井をちょっと見上げたりして、そういった。

「わたしも、この曲は、なかなかの名曲だと思うわ。16分音符が、ちょうどいい装飾音になっていて、
リズムを1音符ずつ短く切って、スタッカートな演奏になってあるから、
まるであの、リベルタンゴのように、華麗な曲になっているんだわ。
タンゴの魅力って、情熱的なリズムの刻(きざみ)みにあるんですもの!ね、しんちゃん!」

  そういって、みんなを見わたす、知性的でもあり女性らしくもある、そんな美しい容姿の、
落合裕子に、信也もみんなも、気持ちがおだやかになって、自然と笑顔になる。

 そうやって、みんなは、ソファでくつろぎながら、コーヒーやお茶やジュースなどを飲んだり、
サンドウィッチなどを食べながら、のんびりと、雑談やレコーディングの話をした。

「しかし、しんちゃん、『FOR SONG』は、なんで、英語ばかりにしちゃったの?」

 ベースギターの高田翔太(しょうた)がそういった。

「あっはは。なんとなく、そうなっちゃったんだよ。おれでも歌える英語しか使ってないけどね!
あっはっは」

 信也はそういって、高らかにわらった。隣の落合裕子もわらった。みんなもわらった。
落合裕子は、1993年生まれの21歳であった。

「じゃあ、そろそろ、おれたちも表現の自由を守るためにも、最高の演奏を始めましょうか?」

 リード・ギターの岡林明(あきら)が、そういいながら、約50帖(じょう)の広(ひろ)さの、
コントロール・ルームのソファを立って、気持ちよさそうなストレッチをする。

「まったく、岡ちゃん、フランスとかの襲撃テロとかって、他人事じゃないよね。
こんな世の中、どうしたらいいのかって、たまに思っちゃうよ。
それじゃあ、おれたちは、元気よく、楽しく、レコーディング始めましょう!」

 森川純がそういうと、みんなはソファを立ちあがって、コントロール・ルームを出て
ロビー(lobby)から、メイン・スタジオへ入った。

 コントロール・ルームの中では、スタジオ・レオの代表取締役、オーディオ・エンジニアの、
31歳の島津悠太(しまづゆうた)、スタジオ・エンジニアの山口裕也、
スタジオ・マネージャーの沢木綾香(あやか)の3人が、
慣れた手つきで、デジタルの最新機器を操作して、録音の準備を開始した。

 『 FOR SONG 』は、切れのいい、信也のギター・カッティングのイントロで始まった。

FOR SONG     作詞作曲 川口信也

song is harmony.   harmony is song.
song is soul.   soul is song.
song is peace.   peace is song.
song is friend.  friend is song.

It's impossible, my life without the song, it's impossible.
It's impossible, my life without you, it's impossible.
song is your love.   your love is song.
song is your love.   your love is song.

song is dream.   dream is song.
song is beauty.   beauty is song.
song is hope.  hope is song.
song is feeling.  feeling is song.

It's impossible, my life without the song, it's impossible.
It's impossible, my life without you, it's impossible.
song is your love.   your love is song.
song is your love.   your love is song.

≪つづく≫_--- 65章おわり ---

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