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62章 信也の妹の利奈も、東京にやって来る?! 11月29日。よく晴れわたった、日差しの暖かい土曜日である。 下北沢の川口信也のマンションには、両親と末っ子の利奈が来ている。 3人は、約2時間、父のクルマで、山梨から中央高速道路を走らせてきた。 「信也、じゃぁ、利奈をよろしく頼むよ。この信也のマンションから、 大学に通うということならば、おれもママも安心だから。ねえ、ママ!?」 信也の父、裕也は笑顔でそういった。 「ええ、そうですよね。利奈が、ここで暮らすんだったら、きっと、安心できるわ」 信也の母、広美もそういう。 「大学受験、がんばりますから、お兄ちゃん、お姉ちゃん、よろしくお願いします!」 父の裕也と母の広美の真ん中にいる末っ子の利奈は、そういって、 テーブルの向かいに座っている、信也と美結のふたりに微笑んだ。 「利奈ちゃんは、いつも勉強も熱心だから、大学受験なんて、きっと大丈夫よ。 3人で仲良く暮らしましょう!楽しみにしているわ!ねえ、しんちゃん」 美結はそういって、利奈と両親、そして信也に微笑んだ。 「うん、おれも、利奈と暮らすのを、楽しみにしているよ。美結ちゃんと利奈ちゃんのベッドは、 2段ベッドにするけど、それでいいのかな?」 「うん、しんちゃん、わたし、2段ベッドで大丈夫よ。美結ちゃんと、同じベッドなんて、 幸せよ!うっふふ」 そういって、利奈は心から嬉しそうに、声を出してわらった。 「わたしも利奈と同じベッドなんて、幸せよ。小さいころはおたがいに、 よくつまらないことでケンカしたけれど、もうオトナ同士なんだから、 仲よくやってゆけるわよ!しんちゃんと3人で楽しく暮らしましょ!」 美結は、そういいながら、両親の茶碗(ちゃわん)に、 急須(きゅう す)で日本茶を注(そそ)いだ。 「しかし、利奈まで、東京に出ることになるなんて、 お父さん、お母さん、ちょっと寂(さび)しくなるね」と信也がいう。 「あっはっは。それは、しようがないよね。子どもたちの進みたい道まで、 親としては、とやかく言えないわけで」といって、父の裕也は頭をかいた。 ・・・おれのオヤジは、息子のおれから見ても、まったく、いいオヤジだぜ。 おれが、大学を卒業して、山梨に帰った後も、『親の七光りとか、イヤだから、 お父さんの会社には入りたくないんだ』と言った時にも、 『お前がそう思うのなら、それもいいだろう』って言って、 おれは父の経営している会社には、あえて入社しなかったことを、許してくれたしな。 そして、それからすぐ、親友の純が山梨に来たりして、東京で働くことになっても、 わらって、『それなら、自分の思うようにやってみなさい』と言ってくれた、オヤジ。・・・ 信也は、いつも頼もしく男らしい容姿の、父の裕也をそう思いながら、ぼんやりと見る。 川口裕也は、韮崎市内で、従業員数、約80名という会社を経営している。 精密加工を主とする会社で、順調に業績を伸ばしていた。 しかし、長男の信也は、社長が父であるその会社に入社することを、 親の七光りとかで見られることをイヤがって、 大学卒業後、山梨に帰ると、実家から近い、別の会社に入社したのである。 そんな信也のわがままにも、『進路は自分で選べばいい』と寛容な父であった。 「信也さん、このマンションはなかなか、いい所だわね。下北沢の駅までも、 8分くらいなんでしょう?」 広美がそういって、信也と美結に、母親らしく微笑んだ。 「ここは便利なマンションで、ほかへ引っ越す気がしないんですよ。あっはは 下北までは8分くらい、池の上駅(いけのうええき)だと、 歩いて5分ですからね!あっはは」 「ここの家賃が13万円というのは、山梨に比べると、高い気もするけど、 3人で仲よく暮らせば、シェアハウスより、快適で、しかも家賃も安いのかな?」 父の裕也がそういって、お茶を飲む。みんなは、明るくわらった。 信也のマンションには、6.5畳の洋間が2つある。 1つは信也の部屋、もう1つは美結の部屋であった。 2つの洋間の南側には、掃出しの窓がある。 その外はベランダで、洗濯ものも干(ほ)せる。 いま、家族が楽しく語り合っている、9.5畳のリビングは、 冬は暖かで、夏は涼しい、ウールのカーペットが敷(し)いてある。 テーブルは、寝転がれる床座(とこざ)で、 ひのきのローリビングテーブル(座卓)であった。 高さ25センチのTVボードの上には、40型のテレビがある。 システム・キッチンは、リビングの北側の引き戸(ひきど)越(ご)しにあり、 リビングの西側には、洗面所とバスルームが独立してあった。 ≪つづく≫ --- --- |