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タイトル:雲は遠くて <145> 45章 尾崎豊を彷彿とさせる水谷友巳  2014/07/13


45章 尾崎豊を彷彿とさせる水谷友巳

 7月12日の土曜の午後4時を過ぎたころ。

 台風一過で、よく晴れた青空だが、30度を超す暑さである。

 川口信也と大沢詩織と、信也の妹の美結(みゆ)と、もうひとり、
水谷友巳(みずたにともみ)という名の若者が、楽しそうに語らいながら、
新宿西口駅を出ると、新宿3丁目へ向かって歩いている。

 水谷友巳は、大沢詩織と同じ1994年生まれの20歳(はたち)である。
といっても、7月11日が誕生日で、20歳になったばかりであった。

「とも(友)ちゃんも、やっと、お酒も堂々とも飲めるってわけか!
ともかく、めでたいことだ。あっはっは」

信也は、並んで歩いている友巳の肩を、ポンと叩(たた)く。

「わたしなんかは、マジメというか、ちゃんと20歳になるまでは、
お酒は飲まなかったんだから。やっぱり、ドマジメなのよね」

「詩織ちゃん、わたしだって、ドマジメで、20歳までお酒なんて、
飲みたいとも思わなかったわ」

 詩織と美結は、信也たちのあとを歩きながら、そんな会話をする。

「詩織さんも美結さんも、普通なんですよ。おれは生まれつきの
不良なだけなんですよ。あっはっは」

「そんなことないわよ!ともちゃん。あなたは、若い時から、
苦労することが多かったのよ、きっと。だから、お酒でも、
飲みたくなっっちゃうんだわ」

 そういって、21歳の美結は、友巳(ともみ)をかばう。

「今から行く池林坊(ちりんぼう)っていう店は、料理もうまいんだ。
きょうは、ともちゃんの誕生祝(いわい)ってことで、楽しく飲もうや!
今から池林坊(ちりんぼう)で会う、エタナールの竜さんは、
すごい大物だから、ともちゃんのミュージシャンとしての才能を
買ってくれるかもしれないぞ。そしたら、即(そく)、メジャー・デヴューだ!」

 そういって、また、信也は水谷友巳の肩をポンと軽く叩いた。

「そんなふうに、うまくいけば、うれしいっす!」

 友巳は、伸也を見ながら、うれしそうにわらうと、頭をかいた。

 新宿3丁目の池林坊は、土曜日の場合、夕方の4時30分オープンで、
明けがたの5時まで営業している。

 エタナールの副社長の新井竜太郎と、彼女の秋川麻由美(まゆみ)が、
池林坊(ちりんぼう)の、風情のある屋台風のテーブルで待っていた。

「竜さん、お忙しいところを、きょうはお付き合いくださって、
ありがとうございます」

 そんな挨拶を、信也が竜太郎にする。

「あっはっは。そんなに気を使わないでよ。おれと信ちゃんの仲じゃない。
信ちゃんから、誘われれば、どこだって歓んで行きたくなりますよ。
信ちゃんのまわりには、いつも美女が一緒だしね。あっはは。
それに、きょうは、美青年がご一緒とはね。最高ですよ。あっはは」

「あ、竜さん、ご紹介します。彼は、水谷友巳(みずたにともみ)くんです。
本人、おれに憧れているなんていって、突然、おれのマンションで
待ち伏せしていて、おれは捕まっちゃったんですけど、
彼の話をよく聞いてみると、おれなんかよりも、あの尾崎豊の大ファンというか、
尾崎に100%心酔しているロックンローラーなんです。
ご覧(らん)のように、ルックスもファッションも、尾崎豊を彷彿(ほうふつ)
とさせるヤツなんです。あっはっは。まあ、しかし、才能あるやつなんで、
おれもなんとかして、かれのミュージシャンとしての才能を開花させてやりたいと
真剣に思っているんですよ。ただ、いくら、尾崎豊の歌がうまくても、
オリジナル性をどのように育てるかが、課題ですけどね。
おれ自身も、尾崎豊には心酔していましたから、コピーやマネから、
オリジナルの道への厳(きび)しさはわかっているんですけどね。
ともちゃんを見ていると、自分の若いころを見ているようで、
ほっとけないんですよ。はっはは。まあ、竜さん、よろしくお願いします」

 そういって、頭を下げる信也だった。

「ううん。ホント、尾崎豊を思わせるような、イケメンの青年ですね。
今夜は、楽しく飲んだあとで、カラオケでもいって、ともさんの歌を
ぜひ聴かせてもらいたいなあ」

「ホントですか?ありがとうございます。ぜひ、歌わせて下さい!」

 そういって、清々しい笑顔で、水谷友巳は、対面している竜太郎に頭を下げた。

 「ともちゃんの20歳をお祝いして、乾杯(かんぱーい)!」

 風情のある屋根つきの屋台風のテーブルで、信也が音頭(おんど)をとる。

 「ともちゃんって、やっぱり、尾崎豊に似ているわ!声もルックスも」
 
 竜太郎の隣の秋川麻由美が、生ビールをおいしそうに飲みながらそういう。

 大沢詩織も、「ともちゃんって、ホント、尾崎みたいに、かっこいいわ」といえば、
川口美結も、「うんうん、尾崎とはちょっと違ったタイプの、でもイケメンよね。
彼女がいないなんて、信じられないわ」といった。

 「おれ、最近、フラれたばかりなんですよ。でも、それで、歌を1つ、作ったし。
あっはっは」

 そういうと、水谷友巳は、わらって、頭をかいた。そのシャイな仕草(しぐさ)や、
瞳の澄んでいて、鋭い輝きが、あの尾崎豊に、どことなく似ていた。

≪つづく≫ --- 45章 おわり ---

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