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タイトル:雲は遠くて <138> 39章 女性に人気の松下トリオ (2)  2014/05/18


39章  女性に人気の松下トリオ (2)

 アート・カフェ・フレンズでは、松下陽斗(まつしたはると)の
コンサートが、ランチタイムの1時30分から始まった。

 アート・カフェ・フレンズは、JR線の恵比寿(えびす)駅から3分である。

 美樹と真央は、陽斗の気配りで、コンサートには最適な、
ふたり用のテーブルに座れた。

「陽斗くんって、女の子に、すごい人気よね」と真央が小さな声で、
美樹にささやく。

「女の子に人気なのって、ちょっと心配。でもしょうがないわね。
わたしも、男の子に人気あるみたいだし。お互いに旬(しゅん)だから」

「まあ、美樹ったら。でも確かに、あたしたちって、いまが1番美味(おい)しい
食べごろなのよね。だから大切に生きないとね!」

 そういって、真央と美樹は、おたがいに目を合わせてわらった。

  テレビや雑誌、インターネットなどのメディアでも注目の集まる、
21歳の陽斗は、ピアノ、ギター、ベースの編成による、松下トリオを
結成して、ライブやアルバム作りを精力的にしている。

 陽斗の父は、ジャズ評論家であった。また下北沢にあるジャズ喫茶の
オーナーでもある。また、母は、私立(しりつ)の音楽大学のピアノの
准教授(じゅんきょうじゅ)である。

 そんな家庭環境の中で、陽斗はクラシックピアノを2歳から始めた。
子供のころから、心の琴線(きんせん)に触れるメロディにあふれた
メロディアスなショパンが特に好きであった。そんな影響もあって、
陽斗のオリジナルの曲はメロディアスであり、それが好評であった。

 2012年3月、19歳の陽斗は、全日本ピアノコンクールで、ショパンの
エチュード(練習曲)を、ほぼ完ぺきに弾きこなし、2位に入賞している。
東京・芸術・大学の音楽学部、ピアノ専攻の大学の4年である。

 アート・カフェ・フレンズの限定85名の客席は、若いカップルや
ジャズの好きな中高齢者たちで満席である。特に若い女性が多かった。

 陽斗のすらりとした175センチの長身、気品のある端正な容姿(ようし)は、
ジャズやクラシックの貴公子と賞賛されて、若い女性たちを夢中にさせた。

 陽斗たちは、セロニアス・モンクのブルー・モンク(Blue Monk )や、
ビル・エヴァンスのワルツ・フォー・デビイ(Waltz for Debby)などの
優雅で甘美なスタンダードな曲や、陽斗のオリジナル曲を熱演した。

 リズムを確実にキープする、気品と落ち着きのある、陽斗のピアノであった。
そのピアノを、ドラムとウッドベースは、きちんとバッキング(backing)していた。

「わたし、ドラムの、サーッ、サーッっていうブラッシングが好きなの」と美樹はいう。

「そうよね。なんか、とてもセクシーよね。はる(陽)くんのピアノもセクシーだわ。
ウッドベースの低音も、なんか、エッチな気分になってきそうなほどに、セクシー。
松下トリオの3人って、みんなかっこいんだもの。美樹ちゃん」

「いまの若い子たちって、ビジュアルが優先という感じだもの、ねえ、真央ちゃん」

「そうそう、若い女の子、わたしもだけど、ジャズって、よくわからないもの!」

「はる(陽)くんは、魂で演奏したり、聴くものさっていって、よくわらっているわ!」

「そうなの、魂かぁ。わたしは、音楽は、魂でもいいけど、心のコミュニケーション
だと思うけど、エッチすることと、似ている感じ。うふふ……」

 美樹と真央は、オレンジジュースやチーズケーキを楽しみながら、そんな会話もする。

 午後の4時。オープニングの曲からアンコール曲まで、聴衆を飽きさせない演奏を
終えると、陽斗たち3人は、拍手喝采(はくしゅかっさい)の中を、満面の笑顔で
こたえながらステージを降りた。

≪つづく≫--- 39章 おわり ---

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