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32章 美樹と真央、恋愛を語りあう (1) 3月9日の日曜日の正午ころ。下北沢の空、朝から晴れている。 昨夜、小川真央は 清原美樹に メールをする。 <お元気?美樹ちゃん。明日(あした)下北(しもきた)の どこかのお店で お茶しない?> <いいわよ。じゃあ、南口のモアカフェはどうかしら?時間は12時はどうかしら?> <OK!じゃあ、12時にモアカフェね♪ ありがとう、美樹ちゃん♪> 下北沢駅 南口から歩いて2分、住宅街の裏路地にある モアカフェ(moiscafe)は、高い天井(てんじょう)の、ゆったり 寛(くつろ)げる 、客席数も40席の カフェである。 2004年5月、解体が決まっていた築40年の民家を改装した 一軒家で、昼の12時から23時まで営業する カフェだった。玄関左手には 赤松の木がそびえている。 清原美樹と小川真央のふたりは、階段をあがった2階の、窓からの陽の光がたっぷりと射し込んでいる広々とした部屋のテーブルで寛(くつろ)いでいる。 美樹は ミントグリーンのラッフルギャザー・ワンピースに、ブラウンの透かし編み・ニットカーディガンを、真央は フラワープリント・ワンピースに、デニムジャケットというファッションだった。 家具メーカー大手のカリモクのクッションのきいた黒いソファー は、客にも人気で、背(せ)をもたれて座(すわ)って、目を閉(と)じていれば、しんとした明るい昼下がりには、時間が静止したようなゆったりとした心地よい気分になる。モアカフェは下北沢の若い人々にも人気があった。 「真央ちゃんと モアカフェに来たのって久(ひさ)しぶりよね!」 美樹は 天井(てんじょう)のむきだしの梁(はり)を少し眺(なが)めると、目を輝かせて、真央にほほえむ。太くて丸い 横木(よこぎ)の梁(はり)は 屋根の重みを支(ささ)えている。 「そうよね。美樹ちゃんと前にお店に来たときから、わたしも今日まで来てなかったの。美樹はつきあいがいいから、大好きよ」 「ありがとう。わたしだって、真央が大切な友達だもの。精いっぱい、おつきあいするわよ」 そんな会話にふたりはわらった。 真央も、テレビとかで、タレント活動をするようになって、美女がいっそう美女になったなあ・・・と美樹は思う。そして、自分のことのように、胸が弾(はず)む感じに、うれしくなるのであった。 清原美樹は、1992年10月13日生まれ、21歳。早瀬田(わせだ)大学、教育学部、3年生。 芸能プロダクションのモリカワ・ミュージックに所属する グレイス・ガールズのリーダーで、キーボード、 ヴォーカルを担当していて、2013年10月20日、デヴュー・アルバムの Runaway girl (逃亡する少女)と、その中から シングルカットされた Blowing in the sea breeze (海風に吹かれて)が、同時に ヒットチャート入りをしている。 小川真央は、1992年12月7日生まれ、21歳。早瀬田(わせだ)大学、教育学部、3年生。ふたりは下北沢で育った、幼馴染(おさななじ)みの親友である。美樹は身長158センチ、真央は160センチ。モリカワ・ミュージックに所属して、アルバイト感覚ではあるが、タレント活動をして、人気上昇中でもあった。 美樹と真央は、クラシック・ショコラと紅茶のセットを注文する。あと1時間もすると、美樹の交際相手の 松下陽斗(まつしたはると)と、真央の交際相手の野口翼(のぐちつばさ)が、店に来ることになっている。そしたら、みんなで食事をすることにしている。 「どうしたの真央ちゃん、何かあった?」 「うふふ。三角関係よ」 ≪つづく≫ |