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タイトル:雲は遠くて <113> 31章 美女 と 野獣 (1)  2014/03/02


31章  美女 と 野獣 (1)

2014年3月2日の日曜日。
東京の六本木は、曇り、時々、雨と、肌寒い、 
どんよりとした灰色の上空である。

小川真央(おがわまお)と、真央の兄の蒼希(あおき) 、
新井竜太郎(りゅうたろう)と、竜太郎の弟の 
幸平(こうへい)の 4人は、六本木にオープンしたばかりの、
ピーターパン・ステーキハウスで、
蒼希(あおき)の 誕生パーティーの、 ランチをとっている。

竜太郎が、副社長を務める、外食産業のエタナールが、
アメリカの ピーターパン・ステーキハウスを買収して、
この 3月1の土曜日に、アメリカ国外、初出店の、
東京・六本木 店がオープンしたのであった。

ピーターパン・ステーキハウスは、ニューヨークや、
ワイキキ、マイアミ、ビバリーヒルズ などで 大評判の、
最強 レベルの ステーキハウスである。

真央(まお)は、表面の焦(こ)げている ステーキを、
右手のナイフで、ひとくち食べれる大きさに切ると、
それを 左手のフォークで 口元(くちもと)へ 運(はこ)ぶ。

白い歯を見せて、ステーキを 頬張(ほおば)ると、
真央(まお)は、目を細(ほそ)めて、ちょっと 舌(した)を出す。

「おいしー い!幸(しあわ)せー!」

そういって、フォークと ナイフを 持ったまま、
真央は、かわいらしい仕草(しぐさ)で、少し首を振(ふ)ると、
真央の 右側にいる兄の 蒼希(あおき) を見る。 

「うまい!最高!」 

蒼希(あおき) も、少し 興奮ぎみに、そういう。

小川蒼希(おがわあおき)は、1991年3月4日生まれ、
身長 174センチ。あと2日で、誕生日である。

蒼希(あおき)は、理科系の大学の コンピュータ・
サイエンス学部で、専門知識や技術を学び、
2013年4月からは、システムエンジニアとして、
IT 関連の会社に勤(つと)めている。

蒼希(あおき)は、きょうのランチを
誘(さそ)ってくれた、エタナールの新井(あらい)兄弟の
弟、幸平(こうへい)と同じ、22歳だった。

妹の真央は、1992年12月7日生まれ、
身長160センチ。
早瀬田大学、教育学部の3年で、
最近は、モリカワミュージックの専属 タレントとして、
人気も出てきていて、テレビや雑誌の仕事もしている。
同じ歳で、同じ教育学部の、清原美樹とは、親友である。

兄の蒼希と、妹の真央の歳(とし)の差は、
およそ、1歳と11か月だったけど、
しっかりしている性格の 真央ほうが、年上の 
姉に見られることが、度々(たびたび)あった。

「厚(あつ)い ステーキだから、食べると 
固(かた)いのかなと思うけど、そんなことなくて、すごく、
やわらかいですね。中の、レアな 赤身(あかみ)も、
ほどよくって、ほんと、うまい!」 

そういって、蒼希(あおき)は、白いテーブルクロスの 
4人がけの四角いテーブルの正面の、
竜太郎(りゅうたろう)と、右隣(みぎどなり)の、
幸平(こうへい)に ほほえむ。

「味付けも シンプルで、バターと 塩だけかしら ?
お肉、そのものの 旨(うま)みが、おいしいわ!」 

真央は、みんなを見て、長い睫(まつげ)の 瞳(ひとみ)を 
輝(かがや)かせる。

「あっはは。よかった、よかった。真央さんと 蒼希(あおき)さんに、
こんなに 喜(よろこ)んでもらえて」

そういうと、竜太郎は、うれしそうに、わらった。

竜太郎の笑顔を、ちらっと 見ると、
弟の幸平(こうへい)は、極上のワインを飲みながら、
ほろ酔いのいい気分で、ふと、こんなことを思う。

・・・ 竜(りゅう)さんも、今度ばかりは、真央さんのことが、
たまらなく 好きになっているんだな、きっと。

仕事に対しては、いつも冷静で、落ち着いている兄だけど、
これまで、たくさんの女性と、噂(うわさ)もあったなあ。
それでも、女性を 泣かせるということもせずに、
まあ、華麗(かれい)といえば、華麗な 女性遍歴へんれき)で、
おれや、並(な)みの男にはできない、離(はな)れ技(わざ)
というか、特技で、それは。
兄の才能のようなものなんだろうなあ。

そんなわけで、よく、以前は、美女と野獣のようだなんて、
よく思った、おれだけど。
美女と野獣というのは、18世紀のころの、ヨーロッパの 
どこかの国の、寓話というか、民話というか、小話で、
それを、ディズニーが、脚色して、アニメ映画化して、
大ヒットした物語なんだけど。
美女と野獣という言葉が、妙(みょう)に、頭の中に残る。
大学2年のとき、女の子と、美女と野獣を 映画館で、
観(み)たっけ。

兄は、ちょっと前までは、軽薄なプレイボーイぽかったし、
仕事では、 頼(たよ)りがいのある ボスという感じで、
そんなアンバランスで、釣(つ)り合(あ)いがとれていない、
二面性がある気がした。誰にでもあるんだろうけど。
そんな兄が、こんなふうに、一途(いちず)に、
恋に落ちているようなのは、見たことないよなあ。

頭に来(く)れば、どんな怖(こわ)そうな相手にも、
立ち向かっていく、そんな、周囲を ハラハラと
心配させる、男っぽい、度胸(どきょう)あるの兄。

そんな性格をそのまま表(あわら)している、
硬派(こうは)な顔つきの、 竜(りゅう)さん。

だけど、妙に、最近は、やさしい表情をしているなあ。
これも、真央ちゃんのせいなのだろなあ。

恋というものは、真剣というか、本気ですると、
確かに、その人間を、根底から変える、
神秘的な力を持っているもんだよね。

おれがそうじゃん。片思いだけど、清原美咲(みさき)ちゃんに 
恋して、美咲ちゃんの存在は、おれの人間的な成長に、
深く 影響を与(あた)えているもん。
おれも、美咲ちゃんに出会う前は、かなり自分勝手で、
思いやりも、優(やさ)しさもない、男だった気がする。
恋することは、人間的な成長のために、大切な経験なんだろうなあ ・・・

≪つづく≫

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