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タイトル:雲は遠くて <95> 26章 信也と 詩織の ダブル・ライディング (1)  2013/11/24


26章 信也と 詩織の ダブル・ライディング (1)

11月24日の日曜日、午後の2時。快晴(かいせい)。

下北沢(しもきたざわ)の、
川口信也(かわぐちしんや)の マンションの
部屋の気温は、19度と、過ごしやすかった。

おたがいに 休日なので、
大沢詩織(おおさわしおり)は、ひとりで 
マンションに 来ている。

信(しん)じあってる、ふたりには、
愛を 求(もと)め合(あ)うこととかに、
なんの、ためらいも、ぐずぐずするような 
迷(まよ)いとかも なかった。
 
たとえ、それが、忙(いそが)しい 時間の 
合間(あいま)であるとしても。

若(わか)さも、持(も)て余(あま)す、
19歳の詩織と 23歳の信也(しんや)たちは、
時(とき)の 過(す)ぎるのも 忘(わす)れる、
幸(しあわ)せな 行為に、 
いつでも 夢中(むちゅう)になれる。

「ねえ、しん(信)ちゃん。
わたし、
リスナー(listener)の人たちが、
こんなに、いっぱいになったことが、
こんなに 幸(しあわ)せな 気分になるということ、
いままで知らなかったわ …」

詩織は、ダブル・ベッド に、寝(ね)そべっていて、
ほほえみながら、信也に、そう、ささやく。

信也は、詩織の横の、壁(かべ)側で、
詩織の 柔(やわ)らかな 黒髪(くろかみ)を 
撫(な)でながら 寝ている。

詩織を見つめる 信也の瞳(ひとみ)の奥(おく)が 
輝(かがや)いている。
それは、いつも、少年のように澄(す)んだ、
穏(おだ)やかな眼差(まなざ)しで、
詩織は大好きでだった。

「リスナーを、ミュージシャンたちは、
いつも、必要としてきたんだろうね。
古今東西(ここんとうざい)の、大昔(おおむかし)から。
いつの世だって、
ミュージシャンたちは、自分の演奏を聴(き)いてくれる
聴衆(ちょうしゅう)を求め続けるものなんだろうな…」

そんなことを、信也は、詩織に ささやく。

「わたし、アルバムつくり、こんなに、
頑張(がんば)れたのも、
きっと、しんちゃんがいてくれたからなのよ」

「おれだって、詩織ちゃんたちが、
頑張(がんば)っているんだもの、
おれたちも、ベストを尽(つ)くさなければって、
気持ちに自然となれたんだと思うよ」

「おたがいに、刺戟(しげき)となる、
ライバルって感じなのかしら?」

詩織(しおり)と 信也(しんや)は わらった。

「あっはっは。ライバルかぁ。
ちょっと違(ちが)うと思うけど。
でも、身近(みじか)な、
ライバルって、必要なんだよね。
向上心(こうじょうしん)や
モチベーション(やる気)のためにも」

「しんちゃんの 無精(ぶしょう)ひげって
かっこよくって、好きよ。ちくちくするけど」

そういって、詩織は、また、わらう。

「わたしたち、アルバムやシングルが、
こんなに 売(う)れちゃって、
マスコミの取材とかで、
これから、忙(いそが)しく なるのかしら?」

≪つづく≫

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