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21章 G ‐ ガールズ の レコーディング (2) 「それじゃあ、駅の再開発には、反対の人も多いわけね。 歩いて楽しめる街(まち)とか、 音楽や演劇とかで、若者文化の街のイメージのある 下北(しもきた)が、 高層ビルと、大きな道路で、おもしろみのなくなる 都市になっちゃうのかね。 おれなんか、朝から暗くなるまで、下北を、 何の目的もなくて、ぶらぶら、 ひとりで歩いたことあるもんね!それもけっこう楽しくて、 いまじゃいい思い出だし!」 早瀬田(わせだ)大学1年で、 ミュージック・ファン・クラブ(MFC)の会計でもある、 岡昇がそういった。 岡は、パーカッションの担当で、アルバム作りに、 参加している。 「そうなんだ。岡くんって、下北の大ファンなんだね!」 と清原美樹が、ほほえんで、そういう。 「まあね、おれには、合(あ)っている街なんだね!」 何がおかしいのか、みんなで声をだして、わらった。 みんな、きょうは、アルバムの完成する日なので、 いつもと違(ちが)って、 特別に、お洒落(おしゃれ)もしているようである。 「ねえ、ねえ、あそこの、駅の 工事中の 壁(かべ) 見て! 誰(だれ)かが、男の子たちよね、3人で、路上ライブを やっているわ。 あんな、音楽の、楽しい風景も、なくなっちゃうのかなあ」 そういっているのは、小川真央(おがわまお)である。 真央は、美樹と同じ、下北沢に住んでいる。ふたりは 幼馴染(おさななじ)みだ。 きょうは、G ‐ ガールズ、はじめてのアルバムが 完成する日なので、 そのお祝(いわ)いに 駆(か)けつけている。 G ‐ ガールズは、このアルバムで、 モリカワ・ミュージックから、メジャー・デビューをする。 ビルの7階の、レコーディング・スタジオ・レオは、 最新のデジタル・テクノロジー(技術)を揃(そろ)えていて、 一流アーティストやプロミュージシャ ンも利用していた。 プロ用レコーディングの業界最高の標準機器や、 最高のアナログ機材も 備(そな)えていて、 それぞれの機材は、作品に輝(かがや)きを与(あた)え、 音の繊細(せんさい)さを生(い)かすことができる スタジオである。 代表取締役の島津悠太(しまづゆうた)は、1983年生まれ、 今年、8月で30歳である。 音楽大学の作曲学科を卒業すると、 株式会社・スタジオ・レオを設立(せつりつ)する。 音楽に対する情熱から、スタジオの経営に集中したい、 島津悠太(しまづゆうた)は、 島津楽器店を、父親である社長の、島津和也と、 次男の 裕也(ゆうや)に 任(まか)せている。 島津悠太(しまづゆうた)の努力と才能で、 楽曲制作だけでなく、オーディオ・エンジニアの仕事や、 レコーディング関係の仕事もふえている。 いまでは、レコード会社、CM制作会社、ゲームメーカー、 一流アーティストなど、 得意先(とくいさき)や顧客(こきゃく)の、 信頼(しんらい)も 篤(あつ)い。 今回、島津悠太(しまづゆうた)は、 自分の経験と勘(かん)からも、才能を感じる、 G ‐ ガールズのアルバム作りに、 プロデュースやオーディオエンジニアとして、 全力で、レコーディングに参加している。 午後の4時。 レコーディング・スタジオにいた、 島津悠太(しまづゆうた)と、モリカワ・ミュージックの 森川良(もりかわりょう)たちが、 G ‐ ガールズのメンバーたちが 寛(くつろ)ぐ、 見晴(みは)らしのよい、ミーティング・ロビーに現れた。 「お嬢(じょう)さんたち、それじゃあ、そろそろ、 もう1曲、がんばって、 アルバムを仕上(しあ)げましょうか?!」 少年のように、瞳を輝かせる、島津悠太(しまづゆうた)が 満面(まんめん)の笑(え)みで、そういった。 「はーい」と、みんなは元気に返事をする。 みんなは、明るい声を出して わらった。 ≪つづく≫ |