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20章 店長・佐野幸夫の誕生会 (4) 「美果(みか)ちゃん、このポスト、 なんか、門番みたいで、 ユーモラス(humorous)だよね」 そういって、佐野幸夫(さのゆきお)は、 森隼人(もりはやと)の家の 玄関前にある、 その全体が ダーク・グリーンの 郵便ポストを見る。 「そうね、ジブリの映画に出てきそうな、ポスト! こういうのって、ヨーロッパにあるのよね」 真野美果(まのみか)は そういって、ほほえむ。 そのポストは、長方形の上に、半円を加(くわ)えた、 シンプルなフォルムの箱型をしていて、 2本の金属製の細長(ほそなが)いポール(棒)を、 両足のようにして、 緑(みどり)の芝生の上に立っている。 クリーム色の 引戸(ひきど)の玄関ドアが開(ひら)く。 「こんにちは。幸夫(ゆきお)さん、美果(みか)さん。 さあ、どうぞ、お待ちしておりました。 もう、みなさんも、お集まりですよ!」 満面(まんめん)の笑(え)みで、森隼人(もりはやと)がいう。 「こんにちは!」といって、 隼人(はやと)の姉の留美(るみ)も、 あたたかく 出迎(でむか)える。 隼人は 11月で19歳、 姉の留美は 7月に21歳になったばかり。 幸夫は 9月に30歳になったばかり。 美果は 10月で25歳になる。 玄関ホールは、8畳ほどあって、広い。 フロアの正面には、スリット 階段が見える。 みんなの靴(くつ)が、きれいに並(なら)んである。 靴箱(くつばこ)の上や、床(ゆか)には、 日陰(ひかげ)に強い、観葉(かんよう)植物の、 アイビーやアスパラガスやユッカやパキラがある。 上(あ)がり口(くち))の、右の壁(かべ)に、 高さ 2mくらいの大きな鏡(かがみ)があった。 床(ゆか)は、うすくて 明るい ベージュ(茶色)の 羊毛(ようもう)のような色で、 内壁(うちかべ)は、ホワイト系だった。 森隼人は、フロア 2つ分(ふたつぶん)の 大きなホールの リビングに、 佐野幸夫と真野美果を 案内(あんない)した。 「お誕生日、おめでとう!」という、みんなの大きな声と、 パン!パン!パーン!と、 無数の クラッカーの 爆発音が 鳴りひびく。 リビングは、カーテンで 日光が遮(さえぎ)られて、 いくつもの フロア・ライトの照明(しょうめい)と、 各(かく)テーブルの上の ガラスの器(うつわ)に入れた キャンドルの明かりだけだ。 麻(あさ)のオレンジ色の、テーブルクロスを 敷(し)いた、 7卓(たく)の 四角(しかく)い 4人掛(が)けの テーブルの上には、料理や飲み物も用意されている。 「みんな、どうもありがとう!」 と 佐野幸夫は ちょっと 感激に声をつまらせて、いう。 「ありがとうございます」 と 真野美果もいう。 どこに、だれがいるのか、明(あ)かりが 薄暗(うすくら)いので、よくわからなかったが、 すぐに 目も 慣(な)れた。 ≪つづく≫ |