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17章 世田谷区たまがわ花火大会 (5) なんとなく、そんな、平沢奈美(ひらさわなみ)に、 フラれた感じもしないでもない、 岡昇(おかのぼる)が、 じゃれあう、平沢奈美(ひらさわなみ)と、 上田優斗(うえだゆうと)の、うしろを歩いている。 岡昇(おかのぼる)は、南野美菜(みなみのみな)と、 楽しそうに、言葉をかわしあいながら、歩いている。 岡は、いつも、次の行動が早い。 根(ね)っから、パーカッションに向いているのせいなのか、 その得意(とくい)なパーカッションで、学んだ、 さまざまな状況に、すばやく適応(てきおう)する、 器用(きよう)さなのか、 ピンチを、チャンスに、歌の転調(てんちょう)のように、 転換(てんかん)してしまう、妙(みょう)な、 才能のある、たくましい、若者(わかもの)だった。 岡昇(おかのぼる)が、今度こそ!と、交際を始めたのが、 早瀬田(わせだ)の3年生、 4月に、21歳になった、南野美菜(みなみのみな)であった。 なんでも、正直(しょうじき)にいってしまう、 癖(くせ)のある、岡は、 ユーモアのつもりもあって、 「美菜ちゃんの名前、みなみのみな、って、 舌(した)をかみそうだね!」 と、いってしまいそうになるが、 喉(のど)まで、出かかったところで、 あわてて、いうことをやめたのだった。 何度もの、女の子との、コミュニケーションの失敗で、 危険の予知というか、危機管理も、 自分で、コントロール、できるようになったらしい。 南野美菜(みなみのみな)は、自分の才能に、 迷(まよ)いながらも、 シンガー・ソング・ライターを、目指(めざ)していた。 岡昇と、話をしていると、 自分にも、まだまだ、才能を開花させることが、 できるかもと、希望や元気がわいてくるのだった。 岡と話していると、楽しくなれる、美菜だった。 岡もまた、美菜の、年上(としうえ)の、 女性らしさ、お色気(いろけ)の、魅力(みりょく)に、 我(われ)を忘(わす)れることが、しばしばのようだ。 でも、そんな岡を、やさしく、受けとめる、美菜だった。 岡(おか)は、今年の12月で、19歳の、 早瀬田(わせだ)の1年生。 美菜(みな)は、今年の4月で、21歳になった、 早瀬田(わせだ)の3年生。 そんな、浴衣姿(ゆかたすがた)も、お似合(にあ)いの、 岡と美菜の、 あとを、歩いているのが、 美菜(みな)の姉(あね)の、南野美穂(みなみのみほ)と、 MFCの副幹事長の谷村将也(たにむらしょうや)だった。 つい最近、谷村は、岡から、美穂を紹介されたのだった。 ファミレスのサイゼリアで待ち合わせをして、 将也(しょうや)は、 岡(おか)と美菜(みな)と美穂(みほ)に会ってみた。 将也は、美穂を見た、その一瞬(いっしゅん)で、美穂に、 一目惚れ(ひとめぼれ)をしたといった感じであった。 美穂もまた、一瞬(いっしゅん)で、 将也の、好意(こうい)の気持ちを感じとったようだった。 4月で20歳になった、2年生の、 谷村将也(たにむらしょうや)と、 12月で、23歳になる、OL(オフィス・レディ)の、 南野美穂(みなみのみほ)、 このふたりも、よく似あう、浴衣姿(ゆかたすがた)であった。 将也と美穂のうしろを、歩いているのは、 水島麻衣(みずしままい)と、矢野拓海(やのたくみ)だった。 お互(たが)いの気持が、 よく通(つう)じていて、たいへん仲(なか)がよい 証(あかし)なのだろう、 なんと、仲睦(なかむつ)まじく、手をつないで、 歩いている、ふたりであった。 このカップルも、浴衣(ゆかた)だった。 水島麻衣(みずしままい)は、早瀬田(わせだ)の2年生、 12月が来れば、20歳だった。 矢野拓海(やのたくみ)は、理工学部の3年生、21歳。 ミュージック・ファン・クラブ(MFC)の幹事長でもある。 そんな麻衣(まい)と、拓海(たくみ)が、 仲よくなった、きっかけは、 ふと、ふたりが、かわす、会話のたびに、 ふたりとも、 楽器では、ギターが好きで、ギターリストでは、 ジミ・ヘンドリックス(Jimi Hendrix)が好きなこと、 美意識、音楽観が、よく、似(に)ていることであった。 拓海は、出合ったころから、麻衣を、妹のように、 愛(いと)おしく、親しみを感じていたが、 幹事長などをしていることもあって、 自分から、特別な行動は、とりにくかったらしい。 麻衣(まい)のほうは、性格も明るく、 生まれつきの社交性があって、 拓海(たくみ)に近(ちか)づく、チャンスを、 なんとなく、いつも、窺(うかが)っていたようである。 そんな、いくつものカップルが、誕生している、 ミュージック・ファン・クラブ(MFC)の、一行(いっこう)は、 雑談(ざつだん)したり、 わらったりしながら、40分ほど歩いた。 4時55分ころ。 有料協賛席(ゆうりょうきょうさんせき)に、到着した。 花火の打ち上げ地点から、200mくらいの、 二子玉川緑地運動場(ふたごたまがわりょくちうんどうじょう) の中の、多摩川の水辺である。 華(はな)やかな花火の祭典(さいてん)を待つ、 数多(かずおお)くの人で、あふれている。 二子玉川緑地運動場は、緑の芝生におおわれた、 世田谷(せたがや)区民の憩(いこ)いの広場だった。 サッカーや野球などの、 レクリエーション(娯楽・ごらく)にも、利用されている。 ≪つづく≫ |