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17章 世田谷区たまがわ花火大会 (4) 「やっぱり、履(は)きなれた、靴(くつ)じゃないと、 歩きにくいわよね」 清原美樹(きよはらみき)が、となりを歩く、 松下陽斗(まつしたはると)に、 そういって、ほほえんだ。 「うん、そうだね。ゆっくり歩いてゆこうよ。 時間はまだ、いっぱい、あるんだから」 そういって、松下陽斗は、腕時計を見ると、 4時20分だった。 5時30分からが、 深沢高校(ふかさわこうこう)の、 和太鼓部(わだいこぶ)とかの、 ステージ・イベント・オープニング・セレモニーだから、 30分前には、花火大会に、到着(とうちゃく)できる。 浴衣(ゆかた)の、みんなが、履(は)いているのは、 ビーチ・サンダルと同じ素材(そざい)の、 適度なクッションの、 ポリウレタン底(ぞこ)の、下駄(げた)や、 草履(ぞうり)や、雪駄(せった)とかである。 東名高速道路の下を、抜(ぬ)け、3分ほど歩いて、 みんなは、コンビニに立ち寄(たちよ)った。 個々に、好(この)みの、 軽食や、お菓子や、飲み物や、ビールとかを買(か)う。 森川純たち、数人が用意(ようい)する、 7つもの、携帯用(けいたいよう)の、ポリエステル製の、 クーラー・ボックスに、それらを入れる。 クーラー・ボックスを、「はい、交替(こうたい)!」と、 ふざけ合いながら、 それを肩(かた)にかけて、男たちが歩く。 清原美樹(きよはらみき)と、 松下陽斗(まつしたはると)の、うしろには、 姉(あね)の、清原美咲(きよはらみさき)と、 岩田圭吾(いわたけいご)が歩いている。 このふたりも、浴衣(ゆかた)であった。 岩田圭吾(いわたけいご)は、美咲の父の、 清原法律事務所に所属する、弁護士(べんごし)だった。 美咲は、1989年生まれの、24歳になったばかり。 圭吾(けいご)は、1984年生まれで、29歳であった。 圭吾(けいご)は、美咲の夢(ゆめ)の 弁護士(べんごし)になるという、目標(もくひょう)を、 いつも、応援(おうえん)して、励(はげ)まして、 受験勉強のアドバイスをしてきた。 そして、ある日、 美咲(みさき)は、圭吾(けいご)から、 こんな言葉を、打ち明けられたのだった。 「ありのままの、君(きみ)が好(す)きだから・・・」 清原美咲(きよはらみさき)は、 2012年の、去年(きょねん)、6月から始まった、 短答式試験(たんとうしきしけん)、 10月に行(おこな)われた、論文式試験(ろんぶんしきしけん) 11月に行(おこな)われた、口述試験(こうじゅしきしけん) それら、難関(なんかん)の、 予備試験(よびしけん)に、ストレートで、合格(ごうかく)する。 そして、美咲(みさき)は、2013年の今年、 5月に、4日間の日程で、実施(じっし)された、 司法試験(しほうしけん)を、受験(じゅけん)した。 合格の発表は、今年の9月10日(火)午後4時である。 突然(とつぜん)、平沢奈美(ひらさわなみ)と、 上田優斗(うえだゆうと)が、 若者(わかもの)らしい、大声(おおごえ)で、 わらっているので、 美咲(みさき)と圭吾(けいご)は、 うしろを、振(ふり)り向(む)いた。 優斗(ゆうと)が、肩(かた)にかけている、 携帯用(けいたいよう)の、ポリエステル製の、 クーラー・ボックスを、 「頼(たの)むから交替(こうたい)してくれ」と、 奈美(なみ)に、 渡(わた)そうとするのだが、 奈美(なみ)は、「いやだ!」といって、 クーラー・ボックスと、優斗(ゆうと)を 押(お)しのけるのだった。 そんなことで、浴衣姿(ゆかたすがた)で、 じゃれあっては、 お腹(なか)をかかえて、わらいあっている。 奈美(なみ)も、優斗(ゆうと)も、ベース・ギターが、 好きで、バンドでも担当だから、 これまでも、お互(たが)いに、 相手に、興味(きょうみ)があった。 お互いに、親(した)しくなる、きっかけが、 なかなか、つかめなかったが、 最近、急に、仲(なか)よくなれた。 グレイス・ガールズのベーシスト、 平沢奈美(ひらさわなみ)は、 1年生、今年の10月で、19歳。 ギター、ベース、ドラムだけの、 スリーピース・バンド、 オプチミズム(optimism)をやっている ベーシスト、ヴォーカルの、 上田優斗(うえだゆうと)は、 3年生、6月に、21歳になったばかり。 オプチミズムは、楽天主義だから、 ラクテンとか、オプチとか、呼ばれて、 サークル仲間にも、人気もあるバンドであった。 ≪つづく≫ |