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雲は遠くて <56> 16章 地上200mの誕生パーティー (1) 7月27日の日曜日。午後3時ころ。 よく晴(は)れた、青空で、気温も30度をこえていた。 汗(あせ)ばむくらいの、夏の暑さであった。 2月23日で、24歳になった川口信也(かわぐちしんや)は、 6月3日で、19歳になった、大沢詩織(おおさわしおり) 新宿駅西口の改札付近で、待ち合わせをした。 「純(じゅん)さんって、香織(かおり)ちゃんのこと、 かなり、好きになっちゃったのかしら。 だって、サークルの全員を、 香織ちゃんの誕生パーティーに 招待しようとしちゃったったんだら。きのうは」 詩織が、やさしく微笑(ほほえ)みながら、信也に話した。 「はははっ。どうなんだろう。あいつは、あれで、 けっこう、いろんな女の子と、つきあっているほうだからな。 きのうは純。めずらしく、ずいぶん、酔(よ)ってたよね」 「うん。ずいぶん酔ってたね、純さん。 でも、純さんって、そうなのかしら。 つきあっている女の子が、たくさんいるふうには、 見えないんだけど」 「純は、なんたって、モリカワの次男(じなん)でしょう。 どこへ行っても、女の子に、チヤホヤされるってわけさ」 「女の子って、現実的なところありますからね。 わたしもだけど。うっふっふ」 「なあに?詩織ちゃん、その意味深(いみしん)な、わらいは? あっはっは。 現実的な詩織ちゃんは、夢や実力のある、おれを選んでくれた ってわけだよね!あっはっは」 「うん、わたし、信(しん)ちゃんの、そんな強がりなところ、大好き!」 ふたりは、目を見合(みあ)わせて、なかよく、わらって、 寄り添(よりそ)うように、歩(ある)いた。 昨日は、森川純(もりかわじゅん)の招待(しょうたい) という形(かたち)で、 ミュージック・ファン・クラブ(MFC)、 恒例(こうれい)の前期・定例ライブの、打ち上げ(うちあげ)げが、 新宿駅・東口(ひがしぐち)近くの、 カフェ・ド・フローラ(Cafe de Flora)という、 カフェ・バーが行(おこ)なわれたのであった。 定例ライブは、株式会社・モリカワが、全国展開している、 ライブ・レストラン・ビート(通称・LRB)の、 高田馬場店(たかだのばばてん)で、行われた。 なにかと、サークルでは、 株式会社・モリカワを利用してくれるので、 OB(先輩)の、森川純も、 ミュージック・ファン・クラブ(MFC)のみんなの、 歓(よろこ)ぶことをしてあげたいという気持ちが、いつもある。 「あしたのパーティーの会費は、無料にさせていただきますから、 参加できる方(かた)は、ご気軽にご参加ください!」という、 森川純の言葉に、 ミュージック・ファン・クラブ(MFC)のみんなは、 「それじゃあ、純さん、大変ですよ!」ということになって、 会費は、半額を、個人負担するということに、その場で決まった。 そんなふうな、森川純の、打ち上げの席上の、呼びかけで、 菊山香織(きくやまかおり)の、誕生・パーティーが行(おこな)われる。 参加人数は、ほぼ、昨日(きのう)の打ち上げの参加者が、 そのまま全員で、クラッシュ・ビートや、 グレイス・ガールズのメンバーなどで、60人ほどであった。 会場は、イタリアン・レストラン・ボーノ(Buono)はあった。 ボーノ(Buono)は、イタリア語で、「おいしい。すばらしい」 という意味だった。 新宿駅・西口から、徒歩で5分、 地上200mの高層ビル、その最上階の、52階にある。 大きな窓(まど)からは、 東京湾(とうきょうわん)が、見渡(みわた)せる。 開放感があふれる、パノラマの風景が、見わたすかぎり、 広(ひろ)がっている。 静寂(せいじゃく)な、夜ともなれば、 見下(みお)ろす、辺(あた)り、一帯(いったい)には、 光(ひかり)きらめく、夜景(やけい)が、広(ひろ)がる。 白壁(しろかべ)や、おやれなデザインの金属の窓格子(まどごうし)や、 調度品(ちょうどひん)など、南ヨーロッパ風の、 インテリアの、店内のスペース。 ナポリ・ピッツァを、焼(や)きあげるための窯(かま)が、 メイン・ダイニングにある。 そのピッツァ用の石釜(いしがま)を中心にして、 雰囲気の異なる、おしゃれな個室が5つあり、 立食でも、着席でも、いずれにも、対応(たいおう)するし、 レイアウト(配置)などの、要望にも、柔軟(じゅうなん)に、対応する。 そんな、自分の家にいるようにくつろげる、 アットホームさや、こだわった料理や、おいしいピッツァなどで、 新宿のOL(オフィス・レディー)に、人気の店である。 ボーノは、森川純の企画で実現した、モリカワの店であった。 ≪つづく≫ |