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15章 カフェ・ド・フローラ (4) 右足のダブルとは、バス・ドラムを、2回連続して踏む、 ダブル奏法のことだった。 この2つ打ちは、踏(ふ)みこむタイミングや、 ある程度(ていど)のスピードが、要求(ようきゅう)される。 右足の動きで決まる、バス・ドラムは、視覚的(しかくてき)にも 確認(かくにん)しづらいため、 プロ級の人でも、習得(しゅうとく)するのが容易(ようい)ではない。 「純さんに、たくさん、褒(ほ)めていただいて、とても、うれしいです」 「そうそう、きのうは、香織ちゃんの20歳(はたち)の、 お誕生日だったんだよね。 あらためて、おめでとうございます」 「ありがとうございます。純さん・・・」 「香織さんも、せっかく、20歳になられたのですから、 きょうは、お酒解禁ということで、生ビールとか、いかがですか?」 「はーい。いただきます。うちの家族みんな飲めますから、 きっと、わたしも強いと思います」 アイスティーのストローに、口(くち)をつけていた、香織がそういった。 「あ、はっは。香織ちゃん、それは、たのもしい。 ぼくも、お酒は、大好きなんです。 クラッシュ・ビートのみんなも、酒とかが好きで、 それで、なんとか、なんでも、気軽に語りあえて、 まとまっているようなもんなんですよ」 森川純は、ウェイトレスを呼(よ)んで、 生ビールと、料理を、注文した。 ウェイトレスは、客の注文内容を、 ハンディという機器(きき)に、打(う)ちこんで、 厨房(ちゅうぼう)に、送信する。 そんな、しっかりとした、システムがあるので、 ひとりのスタッフで、 6つくらいのテーブルはサービスできる。 カフェ・ド・フローラの店内は、お昼どきということもあって、 60人以上の、ミュージック・ファン・クラブ(MFC)の 部員たちや、一般の客たちで、 総席数、170席は、ほぼ、満席だった。 「香織ちゃんには、あらためて、 お祝いをしてあげないといけないな!」 「ええ、そんな、純さん。でもいいんですか? こんな、わたしのために、20歳のお祝いなんて?!」 「男として、お祝いしてあげないと・・・。 そっ、そうだな・・・。明日(あした)の日曜日は、 おれも、とくに、予定はないし。 香織さんは、あしたは、いかがですか? もし、お時間があれば、ぜひ、ぼくにお祝いをさせてください。 20歳(はたち)って、特別なんですから。 気のあう仲間でも呼んで、パーティでもやりましょうよ!」 「いいんですか。でも、すごっく、うれしいです。 涙が出そうな感じです。 お言葉に甘(あま)えさせていただきますけど、 純さん、よろしくお願いします」 「わかりました。じゃあ、あしたの午後あたりに、 おれの馴染(なじみ)のお店にでも行って、パーティでもやりましょう」 そんな、ふたりの、ぴったりと、気分も合っている話(はなし)を、 矢野拓海(やのたくみ)も、 純さんと、香織ちゃんなら、お似合いかも・・・と、楽しく、聞いていた。 森川純と、菊山香織、矢野拓海たちは、 12席ある、大きな円形のテーブルの席についていた。 そのテーブルには、株式会社・モリカワに勤(つと)めている、 ロックバンドのクラッシュ・ビート(Crash Beat)の、 メンバーが全員と、 グレイス・ガールズのフル・メンバーが、揃(そろ)っていた。 川口信也(かわぐちしんや)、 高田翔太(たかだしょうた)、 岡林明(おかばやしあきら)。 あと、岡昇(おかのぼる)と、 大沢詩織(おおさわしおり )、 清原美樹(きよはらみき)、 平沢奈美(ひらさわなみ)、 水島麻衣(みずしままい)。 清原美樹の右隣(みぎどなり)の椅子(いす)が、 ひとつ、空席であった。 美樹と仲のいい、小川真央(おがわまお)が、 少し遅(おく)れて、やってくるためだった。 美樹の左隣には、仲よくなった、 ふたつ年下(としした)の、大沢詩織(おおさわしおり )がいる。 「おまたせ。みなさま、遅(おそ)くなりました!」と、 小川真央がやってきた。 真央が長めの黒髪揺らして、美樹のとなりに着席すると、 まるで、きらびやかな、色とりどりの、花が、 咲(さ)き誇(ほこ)る、花園のように、 テーブルは、いっそう、華(はな)やいだ。 「ジブリの、いま、公開の映画、『風立ちぬ』を見た人! 手を挙(あ)げてみてください!」 生ビールに、気分もよく酔っている川口信也が、 ニコニコしながら、テーブルのみんなに聞いた。 「はーい」と、まず、1番に手を挙(あ)げたのは、 1年生、19歳の岡昇であった。 続(つづ)いて、「はーい」と、3年生の清原美樹、 1年生の大沢詩織、1年生の平沢奈美が、手を挙げた。 ≪つづく≫ |