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13章 愛を信じて生きてゆく (I believe love and live) (3) 「でもね、奈美ちゃんも、注意したほうがいいわよ! その森隼人(もりはやと)くんって、あっち、こっちの、 女の子と、つきあっているって、評判(ひょうばん)じゃない!」 ドラムの菊山香織(きくやまかおり)が、そういった。 「森くんは、プレイボーイ・タイプって、ことかしら。 最近の学生にしたら、珍(めずら)しいほうよね。 女の子には、奥手(おくて)な、恋愛にも 積極的になれない男の子も多いとわれてるもんね」 そんなことをいったのは、メイン・ヴォーカルの大沢詩織だった。 「でもさ、悪いことをして、女の子をだますとかじゃないなら、 森くんの、武勇伝(ぶゆうでん)ってことで、 たくさんの女の子を、楽しませていますって、 ことだけなら、特に問題ないんじゃないのかな? そいうのって、まわりの、妬(ねた)みや、 羨(うらや)み、僻(ひが)みとかから、 うわさするってこともあるしね、よく考えれば・・・」 ギターの担当の、水島麻衣(みずしままい)が、 そういって、森隼人を、ちょっとだけ、かばった。 「そうよね。それって、嫉妬(しっと)っていう感情かしら。 ジェラシーよね。そんな気持ちなんか、 歌の世界だけで、たくさんよね。 湿(しめ)っぽくって、いやよね!」 そういって、菊山香織(きくやまかおり)は、声を出してわらった。 「おれも、嫉妬(しっと)やジェラシーって、 男らしくないから、森くんのことは、 なにも、気にしてないです」と、岡。 「岡ちゃん、すてきよ!男らしいわ」と、平沢奈美(ひらさわなみ) ほかのメンバーも、みんな、 「ジェラシーなんて、いやだわ、わたしも!」 「ジェラシーも、ちょっとじゃ、かわいい気もするけど!」 とかいって、わらった。 そんな雑談で、休憩したあと、7月26日に、 ミュージック・ファン・クラブ(MFC)の、 前期・定例ライブで演奏する歌、 『愛を信じて生きてゆく』(I believe love and live) の練習を始める、みんなだった。 その歌は、ヴォーカル・担当の、1年生、大沢詩織(おおさわしおり )が、 作詞・作曲をした。 その歌は、タイトルの深刻(しんこく)さとは、 相反(あいはん)するかのように、16ビートの、 乗(の)りのいい、軽快な、アップテンポな曲だった。 16ビートとは、「いち」と数えるときの、1拍の中に、 音が4つあるということになる。 1小節内に、16分音符が16個、連続するというわけだ。 ギターの場合でいえば、1小節内に、ダウンとアップで、 1セットとして、8セット、そのストロークが、連続することになる。 つまり、そんなギターを弾きながら、歌うというのは、 ちょっと、きついものがあった。 そんなギターと、ヴォーカルの、2つを、 大沢詩織(おおさわしおり )は、やってきた。 しかし、これからは、水島麻衣(みずしままい)に、 ギターを任(まか)せられるので、大沢はヴォーカルに専念できる。 「詩織ちゃん、才能あるじゃん! 詩も、曲も、いいと思うよ」と岡。 「いつも本当のことしかいえない、 岡くんに認められるなんて、自信わいちゃうな! とても光栄だわ」 と、大沢詩織(おおさわしおり )。 みんなは、わらった。 歌詞はこんな内容であった。 --- 愛を信じて生きてゆく (I believe love and live) 作詞・作曲 大沢詩織 叶(かな)わない 恋の 切(せつ)なさに 人目(ひとめ)を 引(ひ)くような おしゃれして にぎやかな街(まち) 彷徨(さまよ)い 歩(ある)いたの 空は 青(あお)く 晴れわたっていたわ 憎(にく)いほど でも わたしの 心の中は 灰色の雲でいっぱいだったの どこか 捨てられた 迷子の子犬みたいだった わたし やさしく 声をかけてくれる 人たちも たくさんいたわ でも 探(さが)しているものは 何か 違うんだよ 何かを 壊(こわ)してしまったようで 怖(こわ)かったの 街(まち)の遠(とお)くの 河原(かわら)の風が 気持ちがよかった 吹(ふ)きわたる風は わたしには とても やさしかったの やさしい風は わたしを いつまでも やさしく 守ってくれていた いつも 何(なに)かに 怯(おび)えていた わたし 愛の 不思議な力(ちから)を 教えてくれた あなた 恋する 乙女(おとめ)のように 胸は 震(ふる)えていたの この世界に 信じられるものがあるとしたら 何かしら? きっと 大切なのは 信じられるのは 愛 なのね! だから わたし 愛を 信じて 生きてゆくわ いつまでも I believe love and live (愛を 信じて 生きてゆく) I believe love and live (愛を 信じて 生きてゆく) ≪つづく≫ |