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タイトル:雲は遠くて <2>  2013/02/11


雲は遠くて <2>

1章 駅 (その2)

韮崎駅の近(ちか)くの山々や丘(おか)には、
雨に洗(あら)われたばかりの、
濃(こ)い緑(みどり)の樹木(じゅもく)が、
生(お)い茂(しげ)っている。

さらに、遠い山々には、白い霧(きり)のような雲が満(み)ちている。

「おれって、やっぱり、田舎者(いなかもの)なのかもしれないな。
東京よりも、この土地に、愛着があるようなんだからね」

照(て)れわらいをしながら、信也(しんや)は純(じゅん)にいった。

「おれだって、こんなに空気のいい土地なら、住みたくなるから、
信(しん)が田舎者ってことはないよ」

純はわらった。

「ところで、信。もう一度、よく考え直(なお)してくれるかな。
おれも、しつこいようだけど・・・」

歩きながら、純は信也の肩(かた)に、腕(うで)をまわして、
軽(かる)く、揺(ゆ)すった。

「ああ、わかったよ。でも、さんざん、考えて、
決心して、帰って来たばかりなんだぜ。
それをまた、すぐにひっくり返すなんてのは、
朝令暮改(ちょうれいぼかい)っていうのかな、
なさけないないというか、男らしくないというか・・・」

「そんなことはないよ、信(しん)。いまの時代は、
変化が激(はげ)しいし、多様化の時代だし、
1度決めたことだって、変更しても、
それが正しいことのほうが多いと思うよ。
いまの政治家とかの、している話だって、
朝令暮改で、呆(あき)れるばかりじゃん。
まあ・・・おれたち若者の場合は・・・、
決心したことを、変更する勇気のほうが、
おれは男らしいと思うけどね」

「またまた、純は、人をのせるのがうまいんだから」

二人(ふたり)は、わらった。

「な、信(しん)。おれに力を貸(か)すと思って、
親父(おやじ)の会社に入ることを考えてほしいんだ。
一緒(いっしょ)に、ライブハウスやバンドをやって、
・・・夢を追(お)っていこうよ。
・・・おれは真剣なんだ。冗談(じょうだん)抜(ぬ)きで。
かわいい美樹(みき)ちゃんだって、それを願っていると思うよ。
・・・信は長男だから、家を継(つ)ぐと決めたことはわかるけど、
『信也さんの実力を試(ため)す、いい機会ですよ』って、
お父(とう)さんとお母(かあ)さんに、おれが説明したら、
昨夜も、ニコニコと笑顔で、わかってくれている
みたいだったじゃない。話のわかるご両親で、
おれも、ほっとしたよ・・・」

「純は、説得の名人だからなあ。参(まい)ったよ」

韮崎駅に着いた二人は、改札口の頭上(ずじょう)にある、
時刻表と時計を眺(なが)めた。

新宿行(ゆ)き、特急スーパーあずさ6号の
到着時刻の9時1分までは、あと5分ほどであった。

「まあ、信、よく考えください。おれらには、
時間は十分あるんだし・・・」

「わかったよ。まあ、何事も、簡単にはいかないよね。
おれもまた、よく考えてみるよ」

そういって、純と信也は、手を握(にぎ)りあった。

純は、切符(きっぷ)を購入(こうにゅう)すると、
改札口を抜けて、振(ふ)り返(かえ)り、
笑顔(えがお)で、信也に、軽(かる)く手を振(ふ)った。
信也も笑顔で手を振った。

そして、純はホームへ続く階段へと姿を消した。

≪つづく≫ 

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