流?、夜???平松常明的?山春夏物?
2012年5月1日特別増刊(第52号)

瀬戸内海に面し、気候が温暖で、地震などの自然の災害に見舞われる可能性も低く、とても住み心地のいい岡山市が、最近急に世界の注目を集めている。その原因は、何と小さな小さなホタルである。一般にはあまり名前を知られていないアマチュアカメラマンのヒラマツ・ツネアキさんが、長時間露光という撮影技法で彼らの姿をファインダーに収めたのだ。絵画や詩を思わせるようなこの作品のすばらしさは、瞬く間に口から口へと伝わり、ネット上に広がっていった。

昨年末、ヒラマツさんの撮影ブログのアクセス数が、一日10人未満から数千人へと一気に膨れ上がった。12月18日に人気ブログサービス「Tumblr」のブログ「Polaroid Dreams」で紹介されてから、25000人近くの人々がこの投稿を気に入って、自分のブログに書き込んだのである。さらに、アートとデザインをテーマとし、毎月のアクセス数が400万にのぼるブログ「Collosal」でも紹介され、人気の火にさらに油が注がれた。

フランスの新聞「フィガロ」にもヒラマツさんの写真が掲載され、アメリカの自然史博物館では彼のホタルの写真をプロモーション動画に使うことになった。中国ではたくさんのサイトで「ホタルを見なくなってどのぐらいになる?」という表題で、ヒラマツさんのホタルの写真作品をアップしている。突然訪れた栄誉に対して、ヒラマツさんは淡々と微笑みながら、今も自分の作品世界に没頭している……。


 
 

昔から、うちわを持ってホタルを追う姿は、日本の夏の美しい情景となっている。色彩も鮮やかな和服を身に付けてホタルを追うのは、日本女性にとって夏の楽しみの一つである。降るような満天の星の下で、ホタルが一匹、また一匹と飛んでいく姿は、まるで小さなともしびのようだ。美しく着飾った女性たちがうちわを手に持って飛び回るホタルと戯れ、周囲からは虫の声が聞かれる。何と平和で温かな光景だろうか。

ヒラマツさんが仕事の後や休みの日を利用して初めてホタルを撮影したのは、8年前のことだった。最初のうちはうまく行かずに終わることが多かったが、あきらめずに続けるうちに、次第に撮影のコツをつかんで、すばらしい作品が撮れるようになった。彼の撮影はほとんどが岡山県で行われ、よく訪れるのは真庭市や新見市の天王八幡神社である。毎年ホタルが活動を始めるとすぐに撮影に行き、期間中に4〜5回撮影する。

人家の付近で撮影を行う場合、彼は特に住民に迷惑をかけないように注意し、騒がないこと、ゴミを捨てないことなどについて気を付ける。夜間に外で撮影をすると虫に刺されてしまうのだが、殺虫剤を使うとホタルも殺してしまうかもしれないので、虫よけスプレーもできるだけ使わないようにし、長袖に長ズボンで長時間の撮影を行う。

夕方の光が空に残っているうちに、ヒラマツさんは撮影地点に到着する。事前にピントを調整しなければならないからだ。真っ暗になってしまうと、ホタルの光だけで焦点を合わせることは無理である。背景を写す写真では、基本的に一日一回撮影し、一つの場所で約1時間費やす。背景を一緒に撮影しないと、真っ暗な画面にホタルの飛んだ光跡だけが残る。梅雨などで雨が降るとホタルは見られないが、小雨の時は飛ぶこともある。風が強いと、やはりあまり飛ばない。夜間撮影で気を付けなければならないのはマムシだ。特に水辺や湿地では、マムシにかまれないように注意する必要がある。梅雨には雷雨になることもあり、雷に打たれないことも重要だ。暗い森の中で同じように撮影しに来た人に会うこともあり、突然出会うとびっくりするとヒラマツさんは言う。

日本人は、画面を埋め尽くして飛ぶホタルの写真はあまり好まない。和歌で歌われるように、日本人特有のわびさびの感性では、わずかなホタルが飛ぶ情景が最も美しく感じられるのだ。しかしヒラマツさん自身は、ホタルが生き生きと飛び回る躍動感を表現するのが好きだ。梅雨の蒸し暑い夜に、静かな森の中で声も立てずひっそりと飛ぶヒメボタルは、まるで森の宝石のようである。森は一つの小宇宙であり、ホタルはその中で輝く星なのだ。川面を横切るゲンジボタルは、川のせせらぎしか聞こえない中にあっても、命のつながりをはっきりと感じさせてくれる。


 
 

近年、日本では夜桜を鑑賞するのが盛んである。ライトアップで桜は一段と美しく幻想的になり、別世界にいるような錯覚にとらわれる。昼間の桜も鮮やかで感動的だが、夜の桜はまた別の味わいがあり、花が灯りに照らされて淡い香りを放つようだ。夜桜は、もう一つの花見の方法なのである。赤い提灯の一つ一つが輝き、雪のように白い桜の花びらが赤い影を引いて散る姿は、まるで軽やかに舞う舞姫のようだ。夜になると、公園や施設によって夜桜鑑賞のためのライトアップが行われ、夜空の下に輝く灯火が、桜の木々を夢の世界へ運んでいく。桜の下をそぞろ歩くと、ロマンチックな世界にひたることができる。

夜桜も、ヒラマツさんの作品の大きなテーマである。有名な花見の名所は、昼間は多くの人が押し寄せてにぎやかだが、夜は人の少ない場所もある。静かな夜に、星と月の下で、春の夜風を感じながら桜の美しさを愛でるのが、ヒラマツさんは大好きである。これも、わびさびの世界と言えるだろう。桜の花は、万葉集で歌われたように、古代から人々に愛されてきた。咲き始めもよく、満開の時も、散っていく時も、どれも好ましい。桜の花びらの色は少しずつ違っていて、色の変化を楽しむのもまた一つの楽しみである。風に吹かれてはらはらと散る花びらが、我々に寂しさとはかなさを感じさせる。日本では桜の写真が非常に一般的で、プロのカメラマンが撮ったものもアマチュアが撮ったものも、美しい作品がとても多い。

桜の花を撮影するのに、特殊な技術はいらない。できれば1眼レフのデジタルカメラと三脚とレリーズがあるとよい。シャッター速度が異なれば、撮影された桜も異なった表情を見せる。岡山県の桜は、後楽園(岡山市)、旭川河川敷(岡山市)、鶴山公園(津山市)、醍醐桜(真庭市)などが有名だ。四月上旬から中旬が開花の季節だが、開花の時期は天候に影響される。夜になるとライトアップされる場所もある。どこも昼間は多くの花見客が来て、道路も渋滞するし、たいへん混雑する。日本全国各地には桜が植えられた道がある。日本に観光に行けば、どこにでも必ず桜がある。規模の大小はいろいろだが、夜間にライトアップして鑑賞できるところも多い。桜の開花状況を伝えるサイトもたくさんある。

 

 
 
 

ホタル、そして桜は、日本文化の中でも特に象徴的な意味を持つ二つの生命体であり、両者とも、究極の美しさを持ちながら、その命は非常に短い。早春の花見、晩夏のホタル狩り。日本の四季を構成するものの中で、最も特色のある二つの季節と、二つの風情である。自分を「ごく普通のカメラ好きの男」と称するヒラマツ・ツネアキさんは、自分のこだわりと忍耐心によって、これらの瞬間を永遠のものに変え、地震や津波の大きな災難に見舞われた日本や、2012年末に来るかもしれない恐慌におびえる世界に対して、活力にあふれた爽やかな風を吹き送ってくれるに違いない。

岡山はどんな都市ですか?美しいところですか?どんなところが美しいですか?

東京や大阪などの大都市と比べて、生活するのにちょうどよい規模の都市だと思います。岡山空港から上海へ定期便があります。後楽園で撮影していると、中国の方によくお会いします。私は中国語も英語も話せないので、お話しできないのがとても残念です。また、中国の留学生も多いですね。自転車で通勤する途中で、よくすれ違います。岡山は外国人の方にも住みやすい都市だと思います。四季の移ろいを感じることができます。春は桜、夏はホタル、秋は紅葉、冬は雪景色が見られます。市街地から少し離れると、自然があふれています。

撮影歴は何年ぐらいですか?撮影はどなたかの影響を受けましたか?好きな写真家はいますか?好きなのはなぜですか?

約10年になります。アマチュア写真家です。撮影方法は、写真の本やインターネットなどで基礎を覚えて、自己流でやっています。難しく考えずに、ひたすら撮り続けました。そろそろ師と仰ぐ方に師事できればと思います。私が影響を受けた写真家は、星野道夫さんです。星野さんの写真集「風のような物語」を読み、アラスカの野生動物、風景、オーロラなどの写真にとても感動しました。野生動物や風景写真などを撮影されている写真家に興味があります。

撮影以外に、ヒラマツさんは他の芸術はお好きでしょうか?音楽、絵画など。

音楽はクラシック音楽が特に好きです。最近はJ−POPも聞くようになりました。以前は何とも思わなかった印象派の絵画が、写真を撮り始めてからなるほどなあと思うようになりました。ホタルの写真にも反映されているでしょうか?

ヒラマツさんのブログを拝見しましたが、題材がとても豊富ですね。どのテーマが最もお好きですか?それはどうしてですか?

ネイチャー写真全般が好きです。身近なものですが、題材として奥が深いと思います。でも最近は、今まで意識していなかったスナップ写真やポートレートなどに興味があります。

ヒラマツさんは、写真についてどのように理解していらっしゃいますか?生活についてはどうですか?また、美についてはいかがですか?

私にとって写真とは、日々の日常生活の中で、疲れを癒してリフレッシュするためのものです。また、私の撮影した写真をブログにアップしているのも、皆さんに写真を見てほっとしていただけたらと思って続けています。私は普段は、写真とは全然関係のない仕事、カスタマーサポート業務をしております。美についてですが、私は写真撮影について専門の美術教育を受けていません。今回、世界中の方に私のホタルの写真を気に入っていただけて、たいへん光栄に感じています。美に対する認識は世界共通で、人種や国境とは関係ないと強く認識しました。現在はインターネットで、世界中の様々なジャンルで撮影している写真家のすばらしい作品を見ることができます。私も様々な写真家から、インスピレーションをもらっています。(取材・執筆:ff、yy 写真提供:ヒラマツ・ツネアキ)

 

 
 
 

平松常明(Tsuneaki Hiramatsu)
1976年生まれ。アマチュア写真家。ただ写真が好きなだけのカメラ男子(?)。職業は、電話によるカスタマーサポート。
使用器材
Nikon D300/D200/ D80、Nikon1 J1
AF-S DX NIKKOR 35mm F1.8G、AF-S NIKKOR 50mm F1.4G、AF-S NIKKOR 85mm F1.8G、
AF DX Fisheye Nikkor ED 10.5mmF2.8G、AF-S DX NIKKOR 18-55mm f/3.5-5.6G VR、
AF-S DX Zoom Nikkor ED 18〜70mm F3.5〜4.5G(IF)、 AF-S VR Zoom Nikkor ED 70-200mm F2.8G(IF)
1 NIKKOR VR 10-30mm f/3.5-5.6、1 NIKKOR 10mm f/2.8、TAMRON SP AF 90mm F/2.8:172E
平松常明公式ブログ http://digitalphoto.cocolog-nifty.com/ Google+平松常明 http://gplus.to/minoltan

 
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