眠らない目:新宿(その一)
ずっしりと重いニコンF3HPを首にかけて、東口のALTAの巨大なスクリーンの下から歩き始める。画面からの色とりどりの投影を眺めながら。秋も深まった夜というのに、この有名なランドマークはたくさんの人でごった返している。一歩踏み出して、人の波に身を任せる。時おりファインダーをのぞき、周囲のネオンが空を様々な色に染める様子を眺めてみる。それはいつもと全く異なる姿である。夜は次第に深まっていくが、この不夜城はますます喧騒を増していくようだ。
新宿。この異郷の悪夢のような世界に何度潜入したことか。そこには、恐ろしくなるような真実があった。だが今、くっきりと描かれた横断歩道に足を踏み出した時、平衡を失うようなめまいに襲われた。遠くのNTTdocomoのビルの時計が突然時報を鳴らし、向かってくる人の波によってあっという間に視界がさえぎられた。その瞬間、時空が交錯し、見知らぬような、あるいは見慣れたような感覚が次々に私に押し寄せた。都市の眠らない目のように……。
●22:00 新宿西口「思い出横丁」
高いビルが林立し、ネオンが輝く西口付近で、これは極めて稀有な存在である!奥深い横丁に昔の面影を残した飲食店が80以上も並んで、狭い空間の中でひしめき合っている。順番待ちの人々のために椅子を並べている店もある。横丁に入ると、濃厚な香りが鼻をつく。煙にいぶされた看板には「やきとり一富士」「情熱ホルモン」「らーめん若月」「居酒屋串衛門」などと書かれ、寿司、焼肉、ラーメンなど、本場の日本の味に私たちの食欲がそそられる。
半世紀前、戦火のために廃墟となった新宿駅前に、よしず張りや戸板で作った店が建ち始め、次第に闇市が形成されていった。統制品ではなかった進駐軍の牛や豚のモツを調理していた店が、現在の串焼き店や居酒屋の起源である。当時お互いに誘い合って、安くておいしいつまみを楽しみに出かけたというお年寄りたちが、現在ここで昔を懐かしんでいる。バブル経済崩壊後、東京都は何度もこの横丁を取り払おうとしたが、今でも往時の面影がそのまま残り、昔を懐かしむ場所となっている。
けむりがあたりに漂い、ぼんやりとした灯りがいっぱいに広がっている。杯を手に店主と世間話を楽しむのも、恋人たちが食べながら語らっているのを酔った目で眺めるのも、なかなか楽しいものだ。昼間はショッピングを楽しみ、遊び疲れた深夜にはこの思い出横丁に分け入って、本物の昭和時代を味わうのも面白いだろう。近くの高架橋からは、山手線の列車が通る音が響いてくる。時々どこかで歓声や笑い声がはじける。この思い出横丁の秋の夜こそ、日本のテレビドラマそのものだと思う。(つづく)(姚遠執筆)
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