おだやかで悠然とした人生
20世紀に生きた、アメリカの三重苦の作家で教育家、そして福祉事業家のヘレン・ケラーは、暗黒の中に暮らしながら人類に光明をもたらした傑出した女性である。エッセイの名作「もし3日間だけ目が見えたら」には、人生に対する一途な愛がにじみ出ており、世界中の人々を深く感動させた。へレンは、もし三日間だけあったなら、一日目は人々の優しさと穏やかさと友情を見たい、二日目は光の変幻する様子と日の出を見て、有名な美術館を鑑賞したい、三日目は光のある最後の日だから、普通の人のように生活のために奔走したいと言う。
ヘレンの心の声は健常者の人々を共鳴させ、「もし一ヶ月しか生きられなかったら、何をするべきか?」「あと一年しか生きられなかったら、どんなふうに生活するか?」さらには、「今日が人生最後の日だったら」といった哲学のような深い命題が、高校や中学の教科書に載り、似たような話題が中国の大学入学統一試験の作文のテーマにもなり、「死ぬまでに絶対にやりたい99のこと」といった自己啓発書が、香港や台湾などでベストセラーになっている。
近年次々に起こる天災や人災が、「人生は短い」という警鐘をますます強く打ち鳴らしている。アメリカの9.11は、太平洋のかなたの人々に人生がたいへんはかないものであると感じさせた。日本の3.11は、毎日あくせく働いたり、名誉を追ったりしているサラリーマンたちに、人生の価値について再び考えさせた。「もし〜だったら」という設問に、ふだんは忘れている内心の深いところの思いを掘り当てると同時に、ある種のいらだちや焦りも感じている。2012に地球が滅亡するという予言が、銀幕から現実へと入り込み、遊べる時に遊んでおこうとか、行き当たりばったりに暮らそうという人生観が時代の主流になり、いつもびくびくと暮らして、寛容の精神は我々から遠いものになってしまっている・・・。
心に浮かぶのは、一人の障害者の不屈の姿である。――北海道美幌町に住む、還暦を過ぎたクラシックギター教師の加藤雅夫さんだ。肺の切除手術を受け、白内障のために両目の視力の97%を失い、左目はほとんど失明状態という重い障害を持っているが、様々な音楽活動を積極的に企画して参加し、世界各国の文化交流事業にも身を投じている・・・。さらに素敵なのは、誕生日が9月3日なので、加藤さんが胸を張って、「ドラえもんの誕生日である2112年9月3日まで長生きしようと思う」と宣言していることだ。
「もしあと3日しか生きられなかったら」と自問するのではなく、「元気で百年生きられる」と深く信じる。もし我々がみなそうできたら、人生は華やかな虹のように開けることだろう。――私はふと気がついた。目の前の一分一秒を大切にし、未来への広い展望にも目を向ける。「ヘレン・ケラー+加藤さん」の人生観こそ、最もすばらしい、おだやかで悠然とした人生観ではないだろうか。(姚遠執筆)
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