一人用のソファ
五年前に東京に取材に行ったとき、偶然あるカフェで一人用のソファを見かけました。ソファの前には小さなテーブルがあり、テーブルの前にはまたソファがありました。どのソファも同じ方向を向いていて、まるで教室の机の配列のようです。当時私は、どうしてこのような一人分の席があるのかが不思議でした。
カフェに来るお客さんは一人の場合が多く、本を持ってきて静かに読む人もあれば、ノートパソコンで書類を作っている人もあり、さらには音楽を聴きながらコーヒーを飲んでいる人もいました。それで私は気がつきました。座席が一方向を向いているのは、坐っている人が他人と顔を突き合せないで済むようにするためなのでした。初めはこのような情景に驚きました。カフェに一人用の席があるのを見たことがなかったし、どうしてお客さんたちがみんな一人なのかも理解できなかったのです。私のカフェに対するイメージは、誰かと話し合ったり、友達とおしゃべりしたり、ショッピングで疲れてちょっと休んだりする場所という感じでした。
その後、日本のスーパーで一人暮らしの人のための「一人分の商品」コーナーを見かけました。そこには小分けした野菜や少なめの漬物、米やパンの小さなパックなどが並んでいました。日本には、仕事のために家を離れて、都会で一人で暮らす人が多いのですね。それに加えて最近は結婚しない人が増え、最初から望んだわけではなくても、次第にみんなが一人で食事をし、一人で映画を見、一人で本屋に行き、一人でコーヒーを飲み、一人で旅行するようになったのでしょう。ネットの発達と高齢化、少子化などの様々な要素によって、現代人の生活様式と意識は根本的に変化し、そこにこのような新しいビジネスチャンス、すなわち「お一人さま」の経済効果が生まれたというわけです。
ビジネスの話はともかくとして、私はなぜみんなが一人でいるのを好むのかについて興味を持ちました。私の身近には、人とのコミュニケーションが苦手で、人と付き合うのが面倒だと感じる友人がたくさんいます。確かに一人ならお愛想を言う必要もないし、相手の気持ちに気を使うこともなく、食べたいものを食べ、やりたいことを自由にやることができます。うるさいことを言う家族と一緒に生活する必要もなく、一人で住むのはとても気楽でしょう。こうして考えてみると、「一人でいる」ことが魅力的であることが理解できます。ただ、最近は独居老人だけでなく、若い人も一人でいることが好きだということに、私は不安を感じるのです。
一人が気楽で楽しくても、人と人との間にコミュニケーションや接触がなくなれば、生きていて孤独ではないでしょうか?例えば、おいしいコーヒーを飲む時に、誰ともそれを共有できなかったら、私は寂しいと感じます。みなさんが、時には一人用のソファに坐り、時間があれば友達や家族と連絡を取って、本当の「一人」にはならないことを願っています。(哈日杏子執筆)
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