メルマガ:toxandoriaの日記
タイトル:[暴政]米国の対日「TPP開国」無理強いの深層、・・・  2011/02/17


[暴政]米国の対日「TPP開国」無理強いの深層、「菅政権&主要メディア」
フレンジ―(半狂乱)の証明

<注記>お手数ですが、当記事の画像は下記URLdせご覧下さい。
http://d.hatena.ne.jp/toxandoria/20110217


【プロローグ動画】Lara Fabian - Evergreen
 
 
・・・この画像『ベルギーのブルージュ、中央広場の鐘楼からドーヴァー海
狭方面を望んだ光景』は、記事内容と関係ありません。評判が良かったので
再録したものです(撮影:2006年、夏)。

(プロローグ)

2月14日のロンドン市場・原油相場が、中東の緊張は更に続くとの見方から、
1バレル103ドル台の高値圏で推移(情報源:2.16日経)する一方で、チュ
ニジア発が伝播した「エジプト革命」の余波は更にイエメン、バーレーン、
イラン、クウェートにまで及びつつある。

この流れの深層に何があるかは未だ確かなことは分からない。一説では、ズ
バリ、米発ホット(投機)マネーによる原油価格上昇への企みがあるともさ
れる。民主化実現への市民・民衆の煮えたぎるエネルギーがネット(ツイッ
ター、フェースブックなど)で拡散した現実があるとしても、例えば、中東
の要であるエジプトの革命については、実権を握るエジプト軍と米CIAの絡み
(作為で市民・民衆の煮えたぎるエネルギーを利用したこと)も疑われる
(参照⇒http://bit.ly/hK8enw)。

また、リーマン・ショック後の米国における「QE(量的緩和)」で溢れ出た
膨大なマネー(その殆どはホットマネー化した疑いがある)の奔流と米国型
のグローバル市場原理主義&規制緩和政策が、結果的に<若年失業者増、所
得格差拡大、過剰米ドル・投機マネーによる穀物・食料品等生活必需品の急
激な高騰>など市民の日常生活を覆う悲惨な現実をもたらしたことも忘れる
べきではない。しかも、この<悲惨な日常>という現実は中東だけの問題で
はなく、日本・中国・韓国などアジア諸国も含む形で世界中に拡がりつつあ
る(参照、下記ツイッター事例)。

hanachancause 2011.02.14 20:42
<通貨危機・IMF管理(市場原理型小さな政府化)〜経済危機>を経た韓国の
給与所得者の格差が急拡大中、上位10%の平均給与総額が下位10%の7
倍に達したhttp://bit.ly/ejihne

従って、今回の中東諸国でのデモと革命の多発現象は、その動因の深層部分
を共有するという意味では、決して他人事として傍観することはできないは
ずだ。それどころか、むしろ、我われ一般の日本国民の日常生活レベルの諸
問題とも、必ず、何処かで深く繋がっていると見るべきだろう。

例えば、菅政権が、突然、大声で喚(わめ)き始めた「TPPによる平成の開
国」には、その深い繋がり(それは、小泉政権時代に頂点に達した対日年
次改革要望書のイメージ・チェンジ版ともいうべきだろうが、直接的な意
味では、次改革要望書とは関係がない)と何らかの隠された意図を必死で覆
い隠そうとする独特の胡散臭さが付き纏っている。

1 TPP開国の恐るべきターゲットとは?(市橋克人氏の講演から転載)

モグラ叩きならぬ小沢叩きを唯一の<政権維持の拠り所>とする菅首相が、
2010年10月に開かれた「新成長戦略実現会議」で、TPPへの参加検討を表明
した。が、TPPが原則として例外を認めぬ「非常に特殊な貿易自由化協定」
であることから、米をはじめとする国内の農業・漁業が壊滅的な打撃を受
けるとして反発する声も上がっている。2010年11月9日の閣議決定ではTPP
への参加は決定されなかったが「関係国との協議を開始する」との決定が
下されている。

しかし、この「非常に特殊な貿易自由化協定」であるTPP(環太平洋経済協
定、環太平洋戦略的経済連携協定/Trans-Pacific Partnership、Trans-
Pacific Strategic Economic Partnership Agreement)には、独特の胡散臭
さが付き纏っている。そこで、ここでは経済評論家・内橋克人氏が1月28日
に東京・大手町の東京會舘で「人間をこそ主人公とする協同組合が創る社会
を」のテーマで行った新春特別講演会の中から、TPPの問題点に関わる部分
の要点を纏めて転載する(原文はコチラ⇒http://bit.ly/grkrAj)。

・・・・【TPPになびく四つの異様(内橋克人氏)と米国の強かな対日戦略】・・・・

●内橋克人氏が指す「四つの異様」とは下の四点を指す。

(菅首相の異様な開国論)

菅直人首相は歴史上、幕末・明治を第一の開国、あたかも輝かしい開国で
あったかのごとく信じているようだが、蒙昧とはこのことをいう。

第一の開国こそは欧米列強への隷従的・片務的な「不平等条約」であった。
相手国は一方的に関税を決め、日本は独立国家の当然の権利である関税自
主権さえ奪われた。それから領事裁判権という名のもと、犯罪を犯した外
国人を日本の法律で裁けない治外法権も強制された。

対等な関係における日本の「開国」がやっと実現したのは、第一の開国か
ら60数年も経った第1次大戦後のことだ。近代日本がいかに苦悶を迫られ
たか、それを菅氏はご存じない。

「開国」という「政治ことば」に秘められた大きな企みが人々を間違った
方向へ導いていく。「規制緩和」「構造改革」がそうだった。これに反対
するものは「守旧派」と呼び、少数派として排除したが、今回も同じ構図
だ。

「改革」とか「開国」とか、一見、ポジティブな響きの、前向きの言葉の
裏に潜む「政治ことば」の罠、その暗闇に目を注ぎながら言葉の真意を見
抜いていかなければならない。「国を開く」などというが、その行き着く
ところ、実質はまさに「国を明け渡す」に等しい。「城を明け渡す」とは
落城のこと。光り輝く近代化というイメージ、その実態は?と問わなけれ
ばならない。


(異様な前原発言=1.5%の第一次産業のため残り98.5%が犠牲になって
いる)

昨年10月、米国際戦略問題研究所(CSIS)と日本経済新聞社共催のシ
ンポジウムで前原誠司外相は「(日本の第1次産業の割合は)1.5%。その
ために(これを守るために)残り98.5%が犠牲になっている」と発言した。
場所も内容も不適切だ。が、これを問題にするジャーナリズムは皆無だっ
た。

・・・以下は、toxandoriaによる関連内容の補記・・・

この前原発言はトンデモナイ事実認識であり、現実はまったく正反対のコ
トになっている。その現実が真逆であるコトの深刻さは、対GDP寄与度の
数字の大小の“あげつらい=前原大臣の誤認!”で見過ごす訳には行かな
い、日本経済の将来を左右する根幹部分に関わる問題(=先進国を名乗る
には恥ずべき日本独特の封建的産業構造問題)なのだ。

たびたび、日本銀行の白川総裁がa「デフレ克服のカギは新興・途上国の積
極的需要取り込み」とb「国内潜在需要対応の生産性上昇」が必要だ、と述
べてきたことの具体的意味を、対日ストリップ&強姦要求とすらいえる
<TPP開国>を絶叫する菅総理や前原大臣は具体的に理解できているのか。

aは「対全企業数(431万社)シェアは1〜2%程度を占めるに過ぎない
一流メーカー等による新興・途上国向けの高付加価値製品等輸出の“より一
層の積極化”が必要だということ」で、bは「国内潜在需要を刺激するため
残余99%強を占める(対GDP寄与度90%超)中小企業と農林漁業生産者らの賃
金レベルの上昇が必要だ」ということだ。

しかし、たかだか1〜2%程度のaについて、日本は既に“開国済み”であ
り技術レベ等において比較優位の企業も数多い。故に、焦眉の問題は“”残
余の99%を占める中小企業(及び農林漁業者)らの実に5割程度(少なく見
ても)を占める<対a下請企業化>という日本産業構造の封建制度的実情で
あり、これは日本資本主義が先進国のそれであることを名乗るには余りにも
お恥ずかしい根本的欠陥だ。

企業城下町の典型事例に止まらず、目に見えない形で<対a下請企業化>し
ているという日本産業構造の封建制度的な実情を是正せぬ限り、例えば
<消費税上げ政策>によっては、輸出型a企業(一流企業)の<対下請け値
引要求による、それに見合うだけの輸出戻し税まる儲け>のような理不尽
で強欲な、年功序列などよりも遥かに悪い意味での日本型経営が増えるだ
けだ。

従って、民主党が当初マニフェストで掲げていた<残余の対中小企業経営
を改善し生産性を高めるための重点対策or農林漁業政策>はどうなったの
か?と言いたい。マジメニ仕事やってんのか?と言いたい。比喩的に言え
ば、このような日本資本主義の根本的な欠陥構造を見て見ぬふりをしなが
ら、米国の対日<社会・文化・経済についての追い剥ぎ・強盗・レイプ強
要>に匹敵する、強引な<TPP開国>要求の受け入れで無辜の国民を騙すこ
とは許されない。

因みに、全く独断的に推計したところでは、日本の付加価値レベル輸出依
存度(対GDP寄与率/2008)は16%程度(食料自給率40%・・・日本だけカロ
リーベース計算!なので、他国並の生産額ベースでは20%程度?)で元々
高くない。ドイツ40%(同80%)、オランダ62%(同75%)、米13%(同124%)
で、概して、欧州諸国の輸出依存度が高いのはEU域内での移入・移出が活
発化しているからだ。

なお、食料自給率124%の米国が今のところ輸出を増やしたい気持ちは分か
らないでもない。しかしながら、昨今の穀物・食料商品価格の世界的急騰
傾向では、大急ぎで舵を切り直して、食料自給率を高める具体策に取り組
むのが先ではないか?今後の動向次第では、チェにジア・エジプトらの中
東どころか、この日本でも食料価格高騰などを機に激しいデモ騒ぎや革命
騒動が懸念されるのではないか。

奇しくも、「世界のイニシアティブ取りが国際社会で求められているので、
日本のTPP加盟は一つの手段だと語ったとされる江田法相
http://bit.ly/dT0e8e
の現実離れした労働貴族的感覚が浮き彫りとなったばかりだが、菅民主党政
権の本性は、「a企業」に属する1〜2%の超一流企業を相手の談合的労使
交渉に明け暮れた労働貴族界層の代表ということであり、決して一般国民層
の味方ではないということなのだろう。

それにしても、総勤労者の8〜9割を占める日本の中小企業及び農林漁業関係
者ら一般勤労者層の利益を省みようとしない菅民主党政権の本性には呆れか
えるばかりだ。この感覚は、経営者側ベッタリであった自民党政権と表裏の
関係なのであろう。つまり、8〜9割の一般勤労者層を餌食にするた
めの好都合な政治的な意味での談合相手であったという訳だ。

その意味では、日本政治における旧来型の左派、右派の色分けは信用なら
ぬことが分る。この点も、特に東欧圏におけるポーランド辺りの現状を他
山の石として、労働貴族層の利益代弁機関化している記者クラブ・メディ
ア絡みのマインドコントロール効果を少しでも早く解くように努力すべき
だ(参照⇒http://bit.ly/aKWKZM)。

・・・ここから、内橋克人氏からの引用・転載にもどる・・・

(新聞・メディアの異様な報道ぶり、政府とメディアの言いなりになびく
日本社会全体の異様)

ところで、CSIS(参照⇒http://bit.ly/SRKqL)とはいったい何を研究
するシンクタンクなのか。ワシントンのジョージタウン大学のなかにある。
1960年代から長期間、アメリカの世界戦略に携わってきたこのシンクタン
クをめぐっては、さまざまな説がある。

が、今日はその部分は控えておく。前原氏は、この機関と日本の大手マス
コミとの共催シンポジウムの場で30分ほどの基調講演をし、そのなかで先
程のような発言(=日本の第1次産業の割合は1.5%、そのために(これを
守るために)残り98.5%が犠牲になっているとの発言)をした。アメリカ
にとってはまさに「舌なめずり」したくなるような言葉だ。

1990年代半ば、「多国間投資協定」(MAI)をめぐる大きな騒動があっ
た。米国のクリントン政権がこの協定を“21世紀における世界経済の憲法”
とまで称して、多国間で資本、マネーに関する協定を結ぼうと画策してい
た。市民、NGOが気付いたときには、すでに、通商交渉に関して議会の
承認なく大統領の一存ですべてを決めることのできる「ファストトラッ
ク」(参照⇒http://bit.ly/g9O7ml)という手続き開始の直前まで物事は
進んでいた。

以後、全世界1000を超えるNGОが猛烈な反対運動を展開して、結局、ク
リントン大統領は構想の撤回に追い込まれた。フランスのNGO・ATT
ACはじめ世界中の市民あげての一大反対運動が盛り上がったからだ。
1997年のことだった。日本から声を上げたのは「市民フォーラム2001」と
いうNGОだけで、いってみれば日本は“ただ乗り”の形で難を逃れたこ
とになる。だから、今回、市民も無防備なのかも知れない。

このMAIの狙いがTPPに姿を変えていまに蘇った、と私は考えている。
長い歴史の連続性をきちんと認識できるジャーナリストがいなくなってし
まいました。もし今回のTPP騒動にヨーロッパが巻き込まれておれば、
とっくの昔にNGОが反対運動を立ち上げ、世界中に広げていたことだろ
う。

MAIの狙いはマネーにとって障壁なき「バリアフリー社会」を世界につ
くるということで、協定批准国が外資に内国民待遇を与えることを義務付
ける。重要な点を挙げると、

まず第1に、例えば日本の自治体が不況対策として地場の中小企業に制度
融資などを行った場合、これを協定違反とみなす。国内企業への公的支援、
優遇策はすべて外資に対する差別であるとするのだ。

第2は、投資に対する絶対的自由の保障で、外資に対して天然資源の取得
権まで含めて投資の自由を保障する。つまり国土の切り売りを認めなさい
ということだ。今、外資による森林や水源の買収が問題になっているが、
すでに南米などでは国土を切り売りしている国もたくさんある。

第3は、外国人投資家に相手国政府を直接、提訴できる損害賠償請求権を
与えるとしたことだった。例えば地場産業育成のための公的支援を差別待
遇だと外国人投資家が判断すれば、当該国政府を相手取って賠償を求める
ことができる。

以上は、外国資本への“逆差別”の奨励であり、徹底した外資優遇策だ。
その背景にウォール街の意思、マネーの企みがあること、いうまでもない。
13年ほど前、こういう協定が結ばれようとしていた事実を認識していただ
きたい。もし実現していたらどうなっていたか。

いずれにせよ、こうした長期の国際戦略を研究し、政策提言するシンクタ
ンクは、たとえ大統領が何代変わろうとも、生き続けている。今、形を変
えてMAIの戦略性が息を吹き返した、それがTPPに盛り込まれた高度
の戦略性だ。ここを見抜かなければならない。関税ゼロはその一つに過ぎ
ない。

(関連ツイッター情報)

hanachancause 2011.02.16 15:01
RT @kazooooya: 亀井静香がCIAに狙われる訳!(^^ゞTPPカナダ農業は
NAFTAで巨大アグリ企業に乗っ取られた
http://bit.ly/fW2i6z #anti_tpp( #iwakamiyasumi live at 
http://ustre.am/eOVh)

hanachancause 2011.02.15 20:57
御意、菅=裏小泉でヤラセ批判&相補凭れ合いの爛れた関係 RT 
@golgojyusan: @hanachancause 菅直人・前原誠司の盟友・南部靖之、
石川好がバックにいるな。パソナ・シャドーキャビネットこそ菅政権
の指南役。

nobucomfan 2011.02.15 19:03
@ikeda_kayoko 私も中野剛志さんと同じ考えです。経団連の中でも、
あの人達のグループは外国資本と一体化されていて、自分達の資産もドル
建で海外金融機関にプールされているはずですから、日本の国益を守るよ
り、ドルを守る方が大事なのです…

quirigua 2011.02.15 11:32
見るべしRT @bluerose_smell: TPPの恐ろしさを知る為に今見るべき映画!
『米国スーパーの加工食品の70%に組み換え素材が入っている。製品を批
判すること自体、違法行為となる。』RT @hanayuu: 映画「フード・イン
ク」http://bit.ly/e5Kcz6

hanachancause 2011.02.15 08:10

同感RT @nobucomfan: @youarescrewed はいTPP狙いの一つに国民皆保険
の切り崩しがあること同意。資本主義が自由競争を謳のは低リスク高リタ
ーン享受のため。低コスト、低賃金、小さな政府による福祉の極小化。米
の如く命に格差をつける社会にしてはいけません 

2 三階層から成る「菅政権&記者クラブ・メディアのフレンジ―」の深


●ここで、第2節の結論を先に言っておくならば、TPPの背後に潜む、以下
三つの恐るべき深層(事情)を見て見ぬふりをする菅政権とTPP賛成のプロ
パガンダに明け暮れる記者クラブ・メディアはフレンジー(何かに取り憑
かれて半狂乱)か、あるいは本当に惚(ほう)けてしまったのではないか、
ということだ。

(アカデミズム(経済理論)レベルの深層)

経済学の流れを俯瞰するとマクロ経済学の主流には二つある。一つはヒッ
クスの解釈を汲みアメリカで発展したケインズ経済学(アメリカン・ケイ
ンジアニズム)である。しかし、そのケインズ解釈は、ヒックス自身が不
確実性を重視するケインズの考えを軽視したとしてIS-LM理論(参照⇒http://bit.ly/fFjOZZ)とケインズの一般理論との乖離を認めているので、
不確実性を重視するケインズ本人の視点とは基本的なところで無関係、つ
まりケインズ解釈の誤りだったのだ。

そして、その最新の流れが総需要の操作を主張するニュー・ケインジアニ
ズム(ケインズ解釈の誤りが基礎となっているので偽ケインズ主義
(Bastard Keynesianism)と揶揄されることがある)だ。

二つ目は古典派の系統で、その最新のものがこの20年位で力を持つように
なった新しい古典派(ニュー・クラシカル)であり、彼らは一般均衡の人
工的な達成を主張する。つまり、これがサプライサイド経済学(マクロ経
済学の一派で供給側(サプライサイド)の活動に着目し、供給力を強化す
ることで経済成長を達成できると主張する)の一派である。

やがて、イギリス経済の復活と小さな政府(新自由主義)の実現を公約と
して保守党を勝利に導いた英国・新保守主義のサッチャー(結果的には、
評価すべき点もあるがマネタリズムとリフレ政策が失業者を増大させ、格
差拡大と地方経済の疲弊を招いたマイナス面が大きい)に続いて「新自由
主義」で「強いアメリカの復活」を標榜した1980年代のレーガン政権がサ
プライサイドに傾倒し、レ―ガノミクスが実行された。その後の1990年代
の低い物価上昇と高めの実質成長を達成したのはレ―ガノミクスの貢献だ
と主張されることがあるが、実際には無関係であることが認められている。

この現代世界をリードするアメリカン・ケインジアニズム(ニュー・ケイ
ンジアニズム、偽ケインズ主義)あるいはサプライサイド経済学の基本に
あるのは、ワルラスの限界効用(消費が1単位拡大することに対応する効
用の増加部分)の累積値を如何にして最大にするかという課題である。そ
こで、市場において限界効用を刺激し続ける供給があれば、それが最適の
需要と均衡して最適な市場価格が決定するという「市場主義経済の理論」
が創られた。

一方、ミクロ経済学では、「消費者は一定の予算統制下で効用を最大化す
るよう行動する」と見なされ、市場の中で、消費者は常に「何らかの条件
付きの最大化問題」に取り組んでいることになる。ところが、「40変数問
題」(40を超えると、変数が10増える毎に選択の結果を出す迄の計算時間
が1024倍になる!)があり、それ以上と以下の間では「最大化問題」に質
的に大きな飛躍のあることが知られている(参照⇒塩澤由典著『市場の秩
序学』筑摩書房)。

それにもかかわらず、アメリカン・ケインジアニズムは「市場における
個々人は、マクロ経済についての情報を収集し分析し得る能力を持ち、
完全に将来を見通せる能力はないものの、一定の合理的な期待(予想)
を形成する能力は持ち合せていると仮定するのだ。そして、これに対し
、更に「価格は自在に変化して、市場における需給は均衡する」という
仮定が加えられる。

そして、「計算が不可能な不確実性」を高等数学と数理経済学を駆使して
計算し均衡させることが可能なようにRBC(リアル・ビジネス・サイクル
/実物的景気循環理論/Real Business Cycle/参照⇒http://bit.ly/fhzt
Qp)やDSGE(動学的確率的一般均衡/Dynamic Stochastic General 
Equiliblium/参照⇒http://bit.ly/hsyQTD)と呼ばれる均衡経済モデルが
工夫された。

つまり、理想的な市場を想定するこれらのモデルに、市場の歪みを意味す
る条件を付加すれば、多様な経済不振状態が描写されるので、結果的に様
々な対症療法的な経済政策が、例えばリフレ政策(穏やかなインフレを意
図的に起こす政策)や労働流動化などに関わる諸提言が可能になると言う
訳だ。

しかしながら、率直にこれら経済モデルの創生過程を観察すると、そこに
は、「そもそものケインズの重要な視点の誤解の上に理論形成が為された
ということ」の他に、素人眼ながらも、何か独特の妖しさというか、ある
いは一種独特のカルト臭のような空気が漂っている。

臨床医学に喩えれば、リアルな癌患者の激痛をそっちのけにコンピュータ
・ディスプレイで高度な臨床治療ゲームに熱中する、利発ながら、とても
現実離れしたマイペースの医師のように見えるのは杞憂だろうか。そもそ
も、こんな結構なモデルがあるならば、度が過ぎた米FRBの量的緩和でリ
ーマン・ショックの再来を懸念したり、再びCDS爆弾の炸裂(参照⇒http://bit.ly/aMStIn)
を恐れたりする必要はなくなるのではないのか?

ところで、これまでと全く異なる視点から見ると、経済学には「二つの論
理次元」というものがある。その第一次元は「経済学全体の流れを筋道立
てて説明する論理」であり、第二次元は「個々の経済主体の生きた内的問
題を説明する論理」ということだ。そして、各次元の定義から自ずと理解
されるのだが、第一次元は観念的で、かつ過剰な推論傾斜型であるため
「アカデミズムの権威ないしは権力側」に阿(おもね)りやすく(この辺
りからは、シナリオ捜査や証拠改竄による日本検察の不祥事が連想されて
興味深い)、第二次元は「個人の権利と価値の公平な分配」を重視する公
正と正義の観念へ接近する傾向があるのだ。

小さな政府にせよ、新自由主義にせよ、市場原理主義にせよ、マネタリズ
ムにせよ、規制緩和にせよ、リフレ政策にせよ、不定期雇用拡大政策にせ
よ、トリクルダウン(意図的格差拡大政策)にせよ、アメリカン・ケイン
ジアニズム発の諸理念や諸政策には、つまるところ「市場に任せよ(レッ
セ・フェ―ル)を耳触りが良い綺麗ごとの口実にして、現代世界で最大の
権力であるマネー権力(基軸通貨たる米ドル)のパワーを持続させ、世界
の富を独占し続けるための口実(方便)あるいはアリバイ作り」ではない
かと思われる部分があるのだ。

つまり、このような二つの次元から観察すると、アメリカン・ケインジア
ニズム(ニュー・ケインジアニズム)と新古典派経済学(サプライサイド
経済学)は、結局のところ「基軸通貨米ドルの過剰なシニョリッジ拡大政
策」(政治・軍事派遣力と一体化したドル札の野放図な量産→ホットマネ
ー拡大政策/詳細は次節で詳述)のために役立つ、非常に使い勝手のよい
小道具と化した特異な経済理論ではないかと思われてくる。とすれば、チ
ェニジア・エジプトで始まった中東革命の隠れた動因の一部の、あるいは
自国の都合だけでTPP開国を日本に強引に迫る米国の論理的エネルギーと
なっているのが、これらアメリカの経済理論であると見なすことが可能だ。

(ブレトンウッズ体制以降のアメリカ・マネタリズム政策の深層)

第二次世界大戦では、米国を除く世界各国が莫大な物資消耗の戦場と化し、
あるいは悲惨な殺戮・破壊現場としてのリアルな戦場となった。このため、
国土が無傷の戦後のアメリカは広大な国土を背景に資源輸出・供給国とし
て貿易上で圧倒的に有利な立場に立ち、結果的に世界中の金の約7割が米
国に集まったとされる。

このような状況を背景として、1944年7月にブレトンウッズ協定(連合国通
貨金融会議(45ヵ国参加)で締結され、1945年に発効した国際金融機構に
ついての協定)が結ばれた。ここでは、国際通貨基金(IMF)、国際復興開
発銀行(IBRD)の設立とともに、米ドルを基軸通貨とする「ドル金本位制」
が創設された。

基軸通貨には驚くべきほど大きな特権があるが、その中でも最大の特権が
「通貨発行益(シニョリッジ/seigniorage)」である。元々、シニョリッ
ジは西洋で中世領主の持つ様々な特権を意味したが、最重要なものが貨幣
発行益である。中世の領主は額面より安価な低品質の貨幣を鋳造(悪鋳)
して、その鋳造コストと額面との差額を財政収入として享受していたと言
う訳だ。

基軸通貨である米ドルには、この「通貨発行益(シニョリッジ/
seigniorage)」を最大限に享受する特権がある。とは言っても、「只同
然の紙切れを一ドル紙幣にすればまる儲け」だということではないだろう。
それは貴金属で貨幣を作る場合の悪鋳から得るシニョリッジとは異なるの
だ。つまり、ドル紙幣の発行益は、「リアル市場に出回ったドル紙幣が稼
ぎ出すであろう将来益」を予測・計測して、それに見合うだけのドル紙幣
を次々と量産し続けることができるシニョリッジ権力を米政府が握ってい
るということだ。

ということは、実はドル(ドル紙幣)はアメリカの政治的覇権力および軍
事的覇権力と非常に強く結びついたものだということになる。無論、既述
のRBCやDSGEなどの数量分析的経済モデルが様々な政策面から米ドルのシニ
ョリッジを拡張したということもあり、その究極が金融工学であったが、
遂にはこれが暴走して殆ど制御不能となり、あのリーマン・ショックをも
たらしたことは周知のとおりだ。いずれにせよ、これらも全てアメリカの
政治・軍事的覇権力と表裏一体化したものと見なすべきだ。

ところで、リーマン・ショック後の不況対策のため、効果の見境もなく
「QE(量的緩和)」なる“精力増強剤”(長期米国債のFRB引き受けを裏
付けとするドル紙幣の量産なるシニョリッジ特権の最大限の発揮)を繰り
返し使った米国は、今や果てしなくアヘアへとなりつつも“本物の満足感”
がなく(国内景気が回復せず)、遂には“相方”(最大の重要同盟国)た
る日本国「菅政権」に<秘蔵の媚薬TPP>を無理やり飲ませ、開脚ならぬ開
国を迫ることに至ってしまったという些か不穏な想像力が湧き出るのは筆
者が変態野郎だからだと言えるのだろうか。

が、必ずしもそうとばかりとは言えぬようで、それは未だ筆者には真っ当
な経済を求めるだけの健全な批判力が残っているという証拠かも知れない
のだ。つまり、アメリカには「見境がない連続量的緩和」に批判的な“媚
約嫌い”(余りに異常なシニョリッジ特権は慎むべしとする立場)の健康
体の輩も未だ存在するようなのだ。

例えば、ホーニグ・カンザス市連銀総裁は「QUは博打」だと断言してお
り、PIMCO(世界有数の資産運用会社/参照⇒
http://bit.ly/hDEAIh)
のエラリアンCEOは数年後の予期せぬ大禁断症状(第二のリーマン・ショッ
ク?)を警告している。あるいは、今回のエジプトなどにおける中東革命
の直接原因の一つが、過剰な米投機マネー(ホットマネー)が原因の食料
・生活必需品らの急激な価格急騰だという、不気味な現実についての観測
もある。

それに比べると、アメリカの“相方”(最大の重要同盟国)たる日本国
「菅政権」を取り巻くエコノミストらを見て驚くのは、その周辺に集まっ
た応援団の殆どが竹中平蔵らを初めとする市場原理主義者、特に前原大臣
らに影響が強いとされる、あのシンクタンクCSIS(既述)の息がかか
った輩、つまり米国の政治・軍事覇権力と一体化したドル紙幣のシニョリ
ッジ特権に対する殆どカルト的な崇拝者たちであることにも驚かされる。

それは、アメリカの「見境ないQE(量的緩和)」で量産され続けるドル
紙幣(シニョリッジ特権)の受け入れ先(米国側からの輸出先、優良投資
先&優良獲得資産発掘のための相思相愛の相方)たる我が国での“媚薬”
効果(一般国民が受け入れやすくなるようなプロパガンダ効果)を高める
とともに、日本における「菅政権」以降をも睨みつつ本格的なTPP開国(米
側から見れば覇権国側からの日本買国、日本側からすれば日本の国土・資
産等の売国)のために日米両国政府が相思相愛劇を演ずる体制固めの一環
なのだ。無論、TPP開国賛成に奔走する記者クラブ・メディアは、無辜の一
般国民に対する、この“悲惨なレイプ劇”の共犯者である。

余談になるが、この最後のくだりで使った「米側からの対日TPP開国要求=
レイプ」の比喩については些か眉をひそめる向きがあったかも知れぬので
付記しておきたい。それは、現代アメリカでは「六人に1人の女性がレイ
プされている」という恐るべきデータがあるということだ。これはアメリ
カの女流作家サラ・パレツキーが彼女の新しい著書で証言している(参照⇒http://bit.ly/f4ZRQR)。つまり、アメリカは我われのような一般の無辜
な日本国民が素朴に信じているほど民主的で伸士的な国ではなく、むしろ、
なり野蛮で野獣的な側面を持つ国だと言うことである。このことは肝に銘
じておくべきだろう。

(経済政策難渋、中間選挙敗退などで追い込まれたオバマ政権の背に腹を
変えられぬ事情)

●この節では、TPPの問題点について良く調査された「ブログ、風の回廊」
様の記事<『第三の開国』は、第二のポツダム宣言受諾だ>から、要点を
転載させて頂く(原文はコチラ⇒http://bit.ly/dS8erM)。

菅総理によれば、バラ色の未来を約束するTPP(環太平洋経済協定)だそう
だが、中野剛志・田中康夫両氏が英語で検索したが殆どヒットせず、英語
圏での話題性はないにも等しいものであった。そして、メディアは当初、
TPP=環太平洋パートナーシップ協定ではなくTPSEP=環太平洋戦略的経済
連携協定という厳めしい名称を使っていた。

なぜTPPと呼ぶようになったのか、実態に相応しい名称はTPSEP=環太平洋
戦略的経済連携協定であるのに。つまり、パートナーシップでは弱く、現
実には、かなり戦略的で危険な匂いがする経済協定だということなのだ。
だからイメージを柔らかくするため戦略的という部分を意識的に外した。
その隠そうとするところに重大な問題がある。

まず、TPPは各国間で結ばれるFTP(自由貿易協定)の環太平洋版である。
それは、原則的に例外品目なく関税を取り払い、あるいは規制緩和し完
全自由貿易化(関税自主権の放棄)する協定だ。農業が取り上げられ問題
になっているが、ここにも問題の軸をぼかそうという米国ないしは米国と
呼応した菅政権の意図が見え隠れしている。

その対象品目は工業製品、農産物、繊維・衣料品、医療・保険、金融、法
曹、電子取引、電気通信らのサービス、公共事業や物品などの政府および
地方政府の調達方法、技術特許、商標などの知的財産権投資ルール、衛生
・検疫、労働規制や環境規制の調和など24品目に及び更に細分化され規制
緩和、自由化が求められる。

米国がここまで輸出増に傾くのはリーマン・ショック以降の「アメリカ人
の旺盛な消費」に経済のエンジン役を期待できなくなったからという、の
っぴきならない事情があるのだ。米国では失業率は9.6%と高水準が続き国
民は住宅価値下落に伴う逆資産効果と借金の返済に苦しみ、GDPは5四半期
連続でプラス成長を記録しているがGDPの70%を占める個人消費は力強さを
欠いたままだ。

だから、オバマ大統領の横浜APECでのこの演説で重要なのは、APEC加盟国
に向けられているというよりも、米国内に向けて発したということだ。そ
れは、オバマ支持基盤が崩れて中間選挙に負けたのは、米国の国民生活が
回復せぬばかりか、むしろ悪化しているという現実があるからだ。

それ故に、米国はドル安を維持、あるいはさらに進めながら、これまで以
上に日本の市場と資産の収奪に向かってくる。農産物ばかりでなく金融、
医療、保険、通信などなど、あらゆる産業を網羅する関税撤廃、規制緩和
状況が生まれる。

だから、公的な社会保険、国民健康保険、病院経営などの分野も民間・外
資への開放が求められ、結果的に国民皆保険の原則も危うくなる。無論、
テレビ・新聞などのマスメディア経営も外資への開放が求められる。

痩せても枯れてもアメリカは超大国だ。あらゆる分野に自由な状態でアメ
リカの産業が進出すれば、日本の産業の行く末は明らかだ。経団連や傘下
・関連中小製造業界は輸出が増大すると歓迎しているが、ドル安が続くこ
とは明らかで、さらに雇用賃金の垣根も取り払われ、期待するバラ色の輸
出増大は見込まれない。

TPPは中国包囲網の形成という米国の戦略的な意味合いもあり、日本が加盟
しなければその意味合いは薄れる。また、日本が加盟すれば中国やロシア、
韓国との貿易は恐らく悪化する。加盟国以外に恩恵は与えられない訳だか
ら。もし日本がTPPへ加盟すれば排他的経済ブロック化で米国にこれまで以
上に収奪されるだろう。

このことは『日米同盟の深化』という枠組みの中で戦略的に組み込まれて
いる。日米関係は水平的、互恵的関係ではなく従属関係にあり、TPP参加は
従属性を助長させ、凡ゆる分野で米国の支配を受けるポツダム宣言受諾下
でのような状況を生み出す。(よく言って辺境にある米国属州化だ)

(エピローグ)TPPの恐るべき実像についての分析(識者二人の論説から、
要点転載)

藤井聡(京都大学教授)・・・原文はコチラ⇒http://amba.to/e956ae

世界各国の労働分配率(売り上げに占める賃金の割合)は、グローバリゼ
ーションが進行するに伴って、低下し続けている、例えば中国や韓国は、
その具体例だ。TPPに我が国が加入すれば、我が国の国民も早晩そうした憂
き目に遭うだろう。これは、労働者達の豊かな暮らしにも配慮する「正直
者企業」がグローバリゼーションの進行で企業利益のみを追求する裏切り
者企業に敗北し「淘汰」されるからだ。

国境をなくす程の「過激」な自由貿易の推進は一つ一つの国々を亡ぼすだ
けでなく、この世界において、あらゆる次元の「正直者」を駆逐し「裏切
り者」をはびこらせることとなる。究極的には、TPPに象徴される過剰な
自由貿易は、世界中の人々を不幸の淵に突き落とし、世界そのものを亡ぼ
す危険性を秘めている。これこそ自由貿易に潜む「不道徳さ」の本質だ。

だから「自由貿易はとにかく善きことなのだ」などという陳腐で軽薄な思
いこみや「平成の開国」などという(菅総理および多くの民主・自民党議
員らの)空々しい勇ましさなるものは「不道徳の極み」と唾棄すべきもの
と見定めるべきだ。日本の存続のみならず、この世界の存続そのもののた
めにも我々は「個体間競争と集団間競争の間の適切なバランス」ひいては
「適度な自由貿易と保護貿易のバランス」を考え続けなければならない。

伊藤光晴氏(京都大学名誉教授)・・・原文はコチラ⇒
http://bit.ly/hmqDOa

『TPP参加は誤り 日本の米作・畜産は規模拡大政策では存立し得ない』

耕作規模の広さだけが競争力ではない。タイの米作がアメリカのそれに競
争できるのは労務費の安さである。だが農業所得の向上を政策目標とする
ならば、所得の向上とともに、やがて競争力は失われてゆくことになる。
もしも、こうした自然条件などの違いを無視して、市場競争にゆだねたな
らば、条件の劣る地域は、産業として成り立たなくなるのが当然である。

確かに、経済合理性を重視し、現実の国際政治を無視すれば、競争劣位の
農業を縮小して、優位の産業に特化するのもひとつの政策である。しかし
、基本的な食糧を生産していない大国が存在しうるかどうかは−−レアア
ースについての中国の輸出制限が大問題になっている時、また弱肉強食下
の国際政治の下で−−明白であろう。現実の国際政治を考えると、経済効
果性をこえ、農業の存立をはからなければならない。

ここで現実にたちかえれば、2つのことに注意を向けざるをえない。第1
は、アメリカを含め、強力な農業基盤を持っている国ですら、農業保護の
政策がうたれていることである。かつて書いたように、恵まれた自然条件
のうえに、輸出支援の政府補助を受けたアメリカの綿花が、額に汗して働
くインド、エジプト、ブラジルの綿花に競争を挑んでいくのである。

ウルグアイ・ラウンドでの米欧の対立が、この輸出をめぐる補助政策にあ
ったことは、忘れてはならない。こうしたことにくらべるならば、自国農
業を保護する日本の政策は、2次、3次の問題にすぎない。

第2は、アメリカの政策である。アメリカは、戦後世界の貿易ルールを決
めるガット(関税及び貿易に関する一般協定)を作った国である。にもか
かわらず批准せず、他国にはガットの規定に従うことを求め、自らがガッ
ト違反で攻撃されると、批准していないというダブルスタンダードで逃れ、
農産物についてはガット25条のウェーバー条項(自由化義務の免除)を
55年に取得し、自らは輸入農産物の制限措置をとった。

だが、アメリカが国際競争において強者の地位から落ちるにつれて、アメ
リカは、内国民待遇の原則を相互主義に変えだした。日本はアメリカにな
らい、農産物の関税を下げるべきである、等々である。

そして、ガットに代わるWTO(世界貿易機関)が交叉的報復措置を認め
ると、ガットとは反対に、アメリカ議会は直ちに批准した。農業分野での
保護主義が相手国にあれば、工業製品分野で報復を行うことができる。こ
れが交叉的報復措置であり、これがアメリカの経済外交の武器となると考
えたからである。わが国の財界は、これに怯え、農業を犠牲にする道を選
びだしたのである。

2010年11月の上旬から横浜で開かれた環太平洋経済連携協定(TP
P)の会議である。TPPはまず4カ国(シンガポール、チリ、ニュージ
ーランド、ブルネイ)で発足し、ついで参加を表明したのは、アメリカ、
オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシアで、日本は協議を開始し、
中国、カナダ、フィリピンが会議に参加予定と報じられた。本当に中国が
加わるかどうかはわからない。

対米対等外交を主張する政治家ならば、東アジア共同体を選ぶだろう。
こと農業についてみれば、零細農という点で日本と同じ中国があり、その
うえでの協調政策が考えられることになろう。他方、TPPは、オース

トラリア、ニュージーランド、カナダ、アメリカという畜産国、大農法の
農産物輸出国が並んでおり、その発端は農業と関係のないシンガポールが
主導したのである。しかもそれはすべての関税引き下げ、いや全廃をはか
ろうというものなのである。零細農をかかえる中国がTPPに加わるはず
がない。

日本への工業製品の輸入はほとんど無税である。関税全廃でも怖いものな
しであろう。他方、相手国の全廃は望むところ。日本経団連がTPP参加
に全面的賛成の理由である。だが農業は関税で生きつづけている。米、肉、
乳製品等である。どうなるのか。

菅首相は、突如、外国に向かって、日本は第2の開国であるとして、TP
Pへの参加、つまり関税引き下げを宣言した。突如という点で、参議院選
時の消費税引き上げ宣言と同じである。菅内閣による「新成長戦略」が、
経団連の意向を受けた経済産業省的発想であったように、これも同省の発
想であろう。特定官庁の考えに、他省が反対しないようにする手段が、政
治主導の名の下で閣議決定するという手法であることも、同様である。日
本農業はどうなるのか。

農家・農業対策を別にうつと菅首相はいう。泥縄で「農業構造改革推進本
部」を作り、農政を改善するのだ、と。新聞報道によれば、それは生産性
の向上、規模拡大である。農水省は、民主党の主張である戸別所得補償方
式(平均価格と平均コストの差を補償するというもの−−これは国際ルー
ルで認められている)を前面に出したうえで、菅首相におもねり、専業農
家中心の規模の拡大をこれに加えている。

ウルグアイ・ラウンド農業合意の時、自民党はこうした専業農家の規模拡
大という考えで6兆円を投じたが、効果なく、受益者は農家ではなく、主
として建設業者だった。自民党の石破茂政調会長は、民主党の戸別所得補
償方式に反対することを明言し、あいかわらず従来の路線である専業農家
支援強化の政策を主張している(『朝日新聞』10年11月11日付)。

私は11月のはじめ、宮城県の大崎市の、文字どおり米どころの農村を見
ることができた。見渡すかぎりの水田−−そこで説明をしてくれた農業耕
作のリーダーが、5町歩(約5ヘクタール)の米を作る兼業農家だった。
米作5町歩ではやっていけません、という答えなのである。私がこの地で
知った米作専業農家は、約10町歩を耕す人1人であった。専業米作者が
どれだけいるのか。

日本が構造改善で規模を拡大しても、前述したアメリカの米作とは競争に
ならない。自然的条件の差はいかんともしがたいのである。土地制約性の
ない農業ならば問題はない。現在日本の鶏卵の小売値は、中国より安いの
である。土地制約性を無視し、構造改善とか、生産性を上げるとかいう考
えは、現実の政策としては力を持たないのである。

専業農家比率が高いのは、果樹、野菜を除けば畜産である。もし関税が全
廃されたなら、日本の畜産は崩壊するだろう。商品として残るのは、米に
しろ肉にしろ、高品質のものと、果物・野菜栽培農家であろう。

規制緩和し、農業以外からの参入によって日本農業を再生する、と口にす
る人もいる。例外的な野菜栽培工場を除くならば、それは画に描いた餅で
ある。歴史をみれば、かつて農業も工業のように大型機械化し、資本主義
化が進むと考えた時期もアメリカにはあった。しかしアメリカの歴史が示
したのは、最適なのは、大型家族農経営だということであった。資本主義
的経営が根づかなかったのは、自然を相手にする農業の特質ゆえである。

政策のひとつとしては、経済産業省や経団連の主張のように、農業を海外
との自由な競争にゆだね、崩壊するものは崩壊させ、日本の産業を比較優
位に移すこともありうる。だが、国際政治の現実においては、ある程度の
食糧の自給がないならば、対抗力を失い、他国に従属せざるを得なくなる。
シンガポールのような農業がなきに等しい国に、大国は存在しないのであ
る。TPPを主導したのは、このシンガポールであることを忘れてはなら
ない。

農業保護を行っていない先進国はない。国際政治の現実をみれば、農業保
護政策は行われなければならない。問題はその内容である。戸別所得補償
方式は、その成否を決める実施方法に難しさがある。加えて参議院での少
数与党の現状では、それが賛成を得ることは難しい。いや、TPPそれ自
身が議会を通らないだろう。

問題なのは、時間をかけて国内農業を戸別所得補償で整備し、これを定着
させ、そのうえでTPPへの参加を表明するのではなく、突然第2の開国
を口にし、これから国内農業政策をさぐるという菅首相の政治手法である。
それは、矛をまじえた後にあわてて鎧を着ようというようなものである。
このような首相の下では政権交代のメリットは生まれず、次の選挙で民主
党は大敗するに違いない。

前述した11月の宮城県訪問で、私は地元のおいしいご飯をいただいた。
その米は、市価(60キロ=1万3000円)より高い2万400円で、
鳴子温泉のホテルや仙台駅の駅弁屋が契約して買いとっているという。し
かも生産費と価格との差は、地元の農業振興の資金にしている。私はこれ
を国内フェアトレードと呼んだ。

日本の農業関係者は、日本の政治家には期待できないかもしれないこと
を覚悟し、自分たちで自らを守る体制を作らなければならない。生産者と
消費者を縦につなぐ組織の構築である。

ガルブレイスは、経済の調整メカニズムに競争を加え、「対抗力
(countervailing power)」を対置した。市場原理
主義にもとづく競争原理に対して、対抗力による国内フェアトレードであ
る。そしてそれは、やがて拡大され、アメリカの市場原理主義に対抗する、
国際的ルールになっていかなければならない。(2010年12月13日)

【エピローグ動画】Martha Argerich Chopin Piano Concerto 

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