メルマガ:作家&出版人育成マガジン「パウパウ」
タイトル:『パウパウ』第133号  2010/09/12


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      作家&出版人育成マガジン『パウパウ』第133号
   2010年9月12日発行(不定期発行)(2000年3月7日創刊)
      編集・発行人 上ノ山明彦
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<お知らせ>
●日本ペンクラブ主催で国際ペン大会が開催されます。
 事前登録で参加できます。詳しくはここで。
●書評コーナー「あなたに伝えたい本」を更新しています。
http://www.shuppanjin.com/support.html
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●あなたに伝えたい本
   『田舎力』、金丸弘美 日本放送出版協会
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 久しぶりに日本の将来に明るい材料を見た思いがしました。2009年8月
に発行された比較的新しい本です。著者の金丸氏は、総務省地域力創造ア
ドバイザー、農林水産省ブランド化支援事業プロデューサーとして活躍す
るジャーナリストです。
 昔から田舎は産業も仕事もなく生活できない。都会へ出ていくしかない、
と考えられてきました。 
 ところが、そういう見方はもう時代遅れです。いまや田舎は自然に恵ま
れたのどかな環境という枠を超えています。自然の恵みを生かした形での
ビジネスが、日本中の人々の心をとらえ、地元の雇用を増やし、地方が文
化とビジネスの発信地となりつつあります。 
 著者は、日本全国を旅し、その先進的な成功例を紹介しています。 
 そこに共通しているのは、単に地場産業を振興させただけではなく、地
域住民が自分の頭で企画を練り、商品開発から宣伝販売までを行い、最終
的には消費者に直接商品を届けるビジネスを作り上げ、自己完結している
ことです。 
 消費者に直接商品を届けるビジネスとは、市場での販売や通販はもちろ
ん、直営レストランやショップで料理や商品を提供する、体験教室で自然
や商品と触れ合ってもらう、短期滞在して実生活を体験してもらう、といっ
た形でのビジネスです。 
 すべてが地元住民の手で管理運営されていますう。そこに大資本が入り
込む余地はないので、自然が壊されることも、住民の生活が壊されること
もありません。 
 私がもっとも感激したのは、こういう田舎再興の動きが、昨今の田舎ブ
ームよりもはるか昔に着手され、そこから地道に積み上げられてきたとこ
ろです。窮地に追い込まれた地元の人々が、長期的な視点で地域の活性化
を考えました。地域と住民にとって何が一番必要か。それを追求してきた
結果が、今の豊かな田舎につながっています。 
 こうした田舎の豊かな暮らしに憧れ、都会の若者が田舎へ就職する例も
増えています。 
 日本中の田舎がそのすばらしさを見直し、経済的にも自立するようにな
れば、自然と日本全体の再興が成されるでしょう。そういう希望が湧いて
くる本です。 
 若い人たちにぜひ読んでほしい本です。
(上ノ山明彦評)
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●あなたに伝えたい本
   『寡黙なる巨人』、多田富雄 集英社
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 もしあなたがある日突然倒れ、目が覚めたら言葉を発することも体を動
かすこともできなくなっていたら、どうしますか。
 実際にそういう経験をした人がいます。この本の著者、多田富雄です。
この人は世界的な免疫学者であり、芸術にも造詣が深く、新作能の作者で
もあります。 2001年の5月、著者は旅行先の金沢で、突然倒れてしまいま
した。脳梗塞です。救急車で搬送され、即入院。数日後、意識がはっきり
したときには、声が出ず、右半身が麻痺していることがわかりました。そ
れだけではありません。舌と喉も麻痺していました。唾を飲み込むことが
できず、水も飲めません。痰が絡んでも、咳払いができないので、窒息し
てしまう危険がありました。寝たきりのまま、地獄の闘病生活が始まりま
した。
 絶望のどん底で、著者は死を考えます。それを思いとどまらせたのは、
妻の献身的な看護と子供たちや友人たちの励ましでした。著者はかすかに
生きる希望を持ち、リハビリを決意します。少しでも以前の体の機能を回
復しようと決意しました。ふだんの生活の苦悩に加え、リハビリの苦闘が
始まります。ほんの少しずつでしたが、介助なしで歩くことができるよう
になりました。数年で150メートルほど歩けるようになりました。
 ところが、著者に再び不幸が降りかかってきます。ちょうど4年後、前
立腺ガンが見つかったのです。手術と抗ガン治療のため、再び歩くことは
できなくなってしまいました。
 著者はその後もずっと重度の障害で、物が自由に食べられない、水が飲
めない、言葉が話せない、歩けないという生活が続きました。そういう中
でも、ワープロとパソコンを覚え、文章を書くことによって生きる希望を
持ち続けることができました。発行された本の一つが、エッセイを集めた
本書になります。
  著者は病気の苦しみの中で、健康的なときより生きている実感がある
と語ります。例えば、口からパという音を発する喜び、カツサンドを一切
れ食べる喜びです。「そうやって、些細なことに泣き笑いしていると、昔
健康なころ無意識に暮らしていたころと比べて、今のほうがもっと生きて
いるという実感を持っていることに気付く」(本書、117頁)。
 絶望の中から立ち上がり、強い意志でリハビリに立ち向かい、豊かな感
性でエッセイを書いている著者の境地の高さには、ただ敬服するばかりで
す。
  残念なことに、著者は2010年4月、前立腺癌による癌性胸膜炎のため
亡くなりました。享年76歳でした。ご冥福をお祈りしたいと思います。
 本書はいろいろな問題を私たちに投げかけています。生きるということ
はどういうことか、希望とは、喜びとは何か。重度障害者の医療はどうあ
るべきか。特にリハビリに対する医療制度はどうあるべきか、等々。
 私はかつて強烈なめまいで倒れたことがあります。そのとき、「これは
脳梗塞にやられた。これで死ぬだろう」と観念しました。実際は三半規管
の異常によるめまいでしたが、いつなんどき脳梗塞で倒れてもおかしくな
い年齢にあります。それを考えるとき、多田富雄の境地には圧倒される思
いです。中高年の方と医療関係者にはぜひ読んでいただきたい本です。
(上ノ山明彦評)
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●ベストセラー分析● 上ノ山明彦
  コミック 『ワンピース』、『ナルト』
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 子供の頃からマンガ好きの私は、中年になってもマンガを読んでいる。
中には眉をひそめる方も多いかと思うが、日本のマンガは重要な文化の一
つだと思っている。いまや世界の宮崎駿も、かつては徳間書店の雑誌「ア
ニメージュ」で書いた「風の谷のナウシカ」が人気となって世に出るきっ
かけとなったものである。ジブリのプロデューサー鈴木敏夫も、当時この
雑誌で編集を担当していた。ファンから「映画化してほしい」という熱烈
な手紙が編集部に殺到したので、当時の社長に話をもちかけたところ、す
ぐに許可が出て、「風の谷のナウシカ」の製作に取りかかったという経緯
がある。
 御伽草子以来の日本のマンガ文化がなければ、世界の宮崎駿も生まれて
いないのではないだろうか。私はそう思っている。
 膨大な作品の中には、当然ろくでもないものも多い。そういうものは無
視するとしても、考えさせられる作品が少なからずあるのも事実だ。ここ
で取り上げた『ワンピース』、『ナルト』もその一つだ。両方とも、単行
本の発行部数は累計で1億部を超えている。文芸やビジネスの版元から見
ると、天文学的数字だ。それくらい若者に受けている。ファンに中には女
性も多い。
 両方を読んで、共通しているのは「強い絆で結ばれた仲間意識」である。
私は現代の若者を分析するキーワードは「仲間」であると考えている。そ
こから派生するプラスの言葉は、友情、連帯感、協力、喜びの分かち合い。
マイナスの言葉、つまり現代の若者は最も恐れる言葉は、仲間はずれ、孤
独、友達がいないこと、となる。
 このことを考えたとき、友達がいないことがわかるので大学の食堂で一
人で食べたくない、ひどい場合はトイレで食べる(便所めし)、という現
象が理解できる。
 また、ケータイで頻繁にメールを交換したり、すぐ返事を返さないと友
達関係が壊れたり、わいわいと集まるが本音で語り合うどころか気を使っ
て疲れてしまうという行動が理解できる。
 「強い仲間意識」はコミックの世界では常識となっているようで、他の
作品でもそのコンセプトは取り込まれている。当分の間、売れるポイント
はこれになるだろう。
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●連載エッセイ ●   上ノ山明彦 
          江戸の恋 第8回  職人の恋(3)
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 前回からの続きです。親方の下で職人の修行を積んでいる身分の男とし
ては、好きな相手に思いを打ち明けることさえも簡単なことではありませ
ん。親方や周りからの非難、相手の迷惑、相手の周りからの非難を覚悟し
なければなりません。親方から放り出されるかもしれません。さあ、三治
はその思いをどうするのでしょうか。
 字数の制約がありますので、続きはホームページに掲載しました。ご一
読ください。
http://www.shuppanjin.com/edojidai/essay/edoessay11.html
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 編集後記
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 我々はみんな納税者である。職に就いていない子供も学生も、少なくと
も消費税は払っている。だから国民全員が納税者である。我々は自分のお
金がたとえ1円でもむだになれば怒るか口惜しがる。ところが税金として
国預けたはずのお金がむだに使われても、盗まれても、反応が鈍いのはな
ぜだろう。欧米では税金のむだ遣いがわかると、地区選出議員の事務所の
電話がパンクするくらい殺到するという。それくらい我々も電話やメール
で意思表示する必要があると思う。国の財政が不足だから消費税のアップ
をという議論は、本当の解決にはならない。10%に上げても、またむだ遣
いが繰り返され、また財政不足になり、また同じ論議になるだろう。そう
ならないためには、個人でできる形での意思表示が必要だと思う。
 話は変わり、国際ペン大会には、私も事務局のお手伝いで参加する予定
です。当日、いい男が荷物を持ってウロチョロしていたら私かもしれませ
ん(笑い)。大会にぜひご参加ください。(上)
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