メルマガ:作家&出版人育成マガジン「パウパウ」
タイトル:パウパウ』第130号  2010/08/01


◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆
      作家&出版人育成マガジン『パウパウ』第130号
   2010年8月1日発行(不定期発行)(2000年3月7日創刊)
      編集・発行人 上ノ山明彦
◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆
<お知らせ>
7月より書評コーナーで名著の紹介に力をいれています。今回は、日本
の歴史と日本人について考える本を紹介しています。
http://www.shuppanjin.com/support.html
☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆
●巻頭言 ●   上ノ山明彦 
           絶望しない生き方
☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆
 つい最近2冊の本に感銘を受けた。『なぜ君は絶望と闘えたのか』(門
田隆将著)と『奇跡のリンゴ―「絶対不可能」を覆した農家・木村秋則の
記録』(石川拓治著) だ。後ほど書評コーナーでも紹介したいと思う。
 最初の本は、山口県光市母子殺害事件の被害者の夫・本村洋さんを取材
したものだ。怒りと絶望のどん底にあった本村さんが、司法のあり方を変
えていく大きな存在となるまでの闘いの歴史を痛切な臨場感をもって描き
出している。
 本書を読んで、本村さんの苦悩と闘い、司法の限界、被害者保護の問題、
拡がる支援の過程がよく理解できた。本書のタイトルにあるように、テー
マを事件そのものにではなく本村さんに置いたのは、著者の感性のすばら
しさだと思う。
 『奇跡のリンゴ』は、NHK特集で放送された木村秋則さんを取材した本だ。
無農薬でリンゴを栽培するという絶対不可能とされたことに挑戦し、約8
年かけてそれを成し遂げた人が、木村秋則さんである。
 その間、家族は貧乏のどん底にあり、本人も出口が見えない闇の中で苦
しみ、自殺寸前まで追い詰められる。死を決意した瞬間に見えてきた希望。
木村さんはなぜにそこまで無農薬のリンゴ栽培に固執したのか。奇跡を成
し遂げるとはどういうことなのか。深い感銘を受けた本である。
 2冊とも、「絶望するほど、君は取り組んだか?苦しんだか?」と、頭
をガツーンと叩かれたようなショックを受けた本である。
 さて、下記に挙げた2冊も、追い詰められた状況の中で、どう道を切り
開くべきかを教えてくれる名著である。ぜひ読んでいただきたい。
☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆
●あなたに伝えたい本
  『この命、義に捧ぐ -台湾を救った陸軍中将根本博の奇跡』
                     門田隆将、集英社
☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆
 1945(昭和20)年8月15日、天皇陛下による玉音放送が流れ、日本は第
二次世界大戦で無条件降伏しました。この放送はアジア各地に駐屯してい
た日本軍と民間人にも伝えられました。
 これは天皇陛下の命令です。何があっても逆らうことは許されません。
中国東北部(旧満州)に駐屯する関東軍は、ただちに武装解除を受け入れ、
ソ連軍の捕虜となりました。このときたくさんの日本人の悲劇が始まるの
ですが、まだ誰も知る由がありません。ただ一人の司令官を除いて。
 中国西北部(現在の内モンゴル)に駐屯する北支那方面軍司令官、根本
博中将はソ連軍の略奪、暴行などの行為を予測していました。残留する軍
人と民間人約30万人を無事日本に帰還させるにはどうしたらいいか。ソ連
軍からの武装解除要求にいかに対応したらよいか、苦悩の時間を過ごして
いました。
 根本が出した結論は、ソ連軍からの武装解除は拒否し、日本人を北京に
避難させ、そこで国民政府軍に降伏し、帰還させるというものでした。
 しかし、それは天皇の命令に背くものです。根本は自分一人ですべての
責任を背負い、死を持って償う覚悟も固めていました。
 そして実際、ソ連軍と戦いながら民間人を避難させ、軍隊の撤退も完了
させました。人的被害は最少で済みました。国民政府軍の蒋介石総統は、
温かい態度で日本人の帰還を支援してくれました。
 本書の主題はここから始まります。このときの蒋介石の恩義に報いたい
という一心が、その後の根本博を突き動かします。まもなく中国は、毛沢
東率いる共産党と蒋介石率いる国民党の内戦に突入します。蒋介石は台湾
に追い詰められ、敗北寸前となります。
 根本は支援者の協力を得て、密かに台湾に密入国します。それから先は、
本書で読んでいただきたいと思います。
 戦争で勝った国はすべてのことが正当化され、戦争犯罪行為さえも責任
は問われません。敗れた国は、すべてを悪と評価され、英雄的な行動も黙
殺されます。そこに自己否定も加わり、客観的な歴史評価はなされません。
まだまだそういう風潮が残っていると思います。
 根本博の行動は、中国政府や旧ソ連の人から見ると正反対の評価になる
ことでしょう。中華民国(台湾)政府でさえ公的な歴史に根本博の名前は
出てきません。戦争当事者たちが生きていて、その痛みがあるうちは、な
かなか真実は明らかにならないのです。そこに歴史の難しさがあります。
 しかしながら、私は一人の人間として、命を賭けて恩義に報いる道を選
んだ根本博の生き方に深い感銘を受けました。一人の日本人として、中国
からの帰還で果たした根本博中将の行動を誇りに思います。蒋介石をはじ
め多くの中国人に感謝したいと思います。
 また、本書の取材には膨大な時間と費用と労力がかかったことは歴然と
わかります。この偉業を成し遂げた作家、門田隆将にも深く感謝したいと
思います。(上ノ山明彦評)
☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆
●あなたに伝えたい本
         『お父やんとオジさん』 伊集院静  講談社
☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆
 伊集院静が自分の父と叔父の実話を元に書いた小説です。帯に「この
作品を書くために、ボクは作家になった」とあるように、著者の魂の叫び
が本書から聞こえてきます。
 1950年に勃発した朝鮮戦争について、私が学校で教えられたことは、第
二次世界大戦で疲弊していた日本経済が、朝鮮戦争の特需によっていっき
に復興したという手前勝手なものでした。政治的には、米ソの冷戦が始ま
り、それに共産主義国家となった中国が加わり、複雑な展開となったとい
う程度のことしか教えられませんでした。
 本書は、在日朝鮮人家族の目を通して、戦中戦後から朝鮮戦争に巻き込
まれていく家族や民族の苦悩が描かれています。朝鮮民族にとって、この
戦争は、悲惨なものとなりました。同胞同士が突然殺し合い、休戦後も深
い傷跡を残す結果となりました。
 本書はその様子を、ある家族の変転を通して、克明に描き出しています。
戦前と戦中に、日本で生活を確立しようと苦労する家族。戦後、理想の祖
国を求めて帰国する人々。そして内戦へ突入。
 その混乱の中、取り残された親族と、濡れ衣を着せられ避難生活を送る
義弟を救出するために、単身で朝鮮半島に乗り込む一家の主、「お父やん」
の戦い。その話はまるで映画を見るように劇的です。
 父の本当の姿を知らずに育った「私」は、跡を継ぐ、継がないという問
題をめぐって不仲となります。この話を関係者から聴いた後、「私」の父
を見る眼が変わります。そして帯に書いてある言葉となります。息子が父
親に対して抱く複雑な想いもまた鋭く伝わってくる本です。
本書は第二次世界大戦、朝鮮戦争を違った視点でとらえることができます。
その点からも日本人にとって非常にいい本だと思います。その意味は非常
に大きいと思 います。(上ノ山明彦評)
☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆
 編集後記
☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆
「早乙女貢記念 鎌倉文化サロン」(士魂の会主宰)の第1回講演会が、
鎌倉の早乙女邸で開かれた。趣旨は、「歴史・時代小説作家の故・早乙女
貢氏を顕彰する小規模の講演会を主とした催し」である。早乙女文学の最
大の功績は、敗者から見た歴史を描いたことだ。歴史は勝者の手で勝手に
塗りかえられたものが多く、都合の悪いことはすべて敗者の悪行とされて
しまう。これは日本だけでなく、世界の歴史を見てもわかる。真実の歴史
は、敗者からの視点でも見なければならない。早乙女文学はそのことを熱
く語っている。特に幕末の戦いは、勝った方が朝廷を敬い、負けた方がそ
れに逆らった賊軍という単純な構図ではなかった。そういう視点からの歴
史小説を切り開いた作家が早乙女貢氏なのである。この文化サロンは氏を
いろいろな方面から偲ぶ催しである。個人的には、氏の心の大きさに感銘
し、教えを請いたいと思っていた矢先、昨年12月、突然訃報を聞いた次第
である。悔やんでも悔やみきれない。HPはここ。
http://shikonkai.jp/index.html
(上)
☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆
◆◆◆◆◆◆◆インターネットもの書き塾 受講生募集中◆◆◆◆◆◆◆
◆  小説・童話・エッセイの入門からプロの手法まで習得できます ◆
◆  作品を書いたことがなくても3ヶ月間で完成         ◆
◆  実践的な教材とていねいな指導で確実に実力アップ      ◆
◆◆◆◆◆詳細はホームページで http://www.shuppanjin.com/ ◆◆◆◆
☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆
●メールマガジンを解除したい場合は、ご自分で登録サイトにいき手続
 きをしてください。
 Mailux[MM408ADB0E0E3A7]http://www.mailux.com/
 まぐまぐ[0000283181]http://www.mag2.com/
●i モード専用のHPは下記URLからどうぞ。
http://www.shuppanjin.com/i/
☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆
このメールマガジンを転送するのは自由ですが、記事の無断引用?転載
はお断りします。転載を希望される場合は発行者の承諾を得てください。

ブラウザの閉じるボタンで閉じてください。