受験生たちに捧げる物語
祖国の新聞や雑誌、あるいはサイトなどが、「高考(大学受験)」という目を引くテーマでいっぱいになっているのを見て、957万人の90年代生まれの子どもたちが、約30年前に自分自身も経験した人生の試練――全国統一大学考試を経験しているのだということに気がついた。「テストひとつで一生が決まる」と言われ、将来の運命が決定されるこの2、3日間は、多くの人々の心を落ち着かない気持ちにさせる。その時ふと私の心に、この日本で、ある吹雪の夜に、一人の受験生と母親に起こった非凡な物語が浮かんだ。
1月17日の入学試験を受けるために、前の晩に電車の中で車中泊しなければならなかった受験生の瑠美子さんとお母さんは、16日に家を出て新幹線に乗り、深夜に新潟県の長岡駅に着いた。ところが、乗り換える予定だった夜行列車は大雪のために運休になってしまう。長岡駅のホームで、両手で顔を覆って泣く瑠美子さんにお母さんは呟いた。「ヒッチハイクしよう。」
歩道の積雪は150センチもあり、彼らは深い轍のついた車道をただ歩くしかなかった。オレンジ色の傘を広げ、上下に激しく振っても、車は次々に通り過ぎていく。吹雪はますます激しくなり、数メートル先を歩く母親の姿もぼんやりとしか見えない。2時間ほど歩くと、ガソリンスタンドに辿り着いた。たった1台止まっていた大型トラックの運転手にお願いすると、彼は答えた。「金沢までならいいよ。」
瑠美子さんが目覚めた時、夜はすでに明け、もうすぐ金沢というところまで来ていた。運転手は言った。「よし、輪島まで行っちゃる。」トラックは次々と他の車を追い抜き、集合時間の10分前に試験場に到着した。運転手は「がんばれ」とだけ言って、連絡先も告げずに去っていった。
偶然にも、入学試験の作文のテーマは、「わたしが感動したこと」だった。400字詰めの原稿用紙に、瑠美子さんは深夜のヒッチハイクの体験と、母親への感謝の気持ちをつづった。3日後、家に合格通知が届いた。学校側の尽力により、ついに親切な運転手と連絡を取ることができた。運転手は瑠美子さんの合格を心から喜び、「ああ、良かった」と言ってくれた。
これは共同通信社が今年の2月に発表したニュースである。5月に日本新聞協会が行なった「HAPPYNEWS」で、この「ヒッチハイクで春をつかむ」が大賞を獲得した。この短いニュースを読んで、私と同じように感動の涙を流した人はきっと多いだろう。入学試験の経験者として、この小さな心温まる物語を中国語に翻訳するとともに、試験場で頑張る受験生たち、そして試験場の外で黙って彼らを見守るご両親、ご祖父母へ捧げたい。(姚遠執筆)
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