世界に進出する「料亭」
日本の高級料理というと、和食に詳しい人なら「料亭」という言葉を思い出すだろう。一般庶民にはちょっと足を踏み入れにくい料亭の中でも、最も有名なのが「吉兆グループ」である。吉兆は1930年の創立で、当時はわずか9平方メートルの店舗だったが、移転、大空襲、戦後の再建を経て、現在では京都、大阪、東京、神戸などの主要な大都市に多くの支店を持つグループ企業となっている。
料亭で出される料理の多くは、日本の伝統的宮廷料理、貴族が楽しんだ本膳料理、そして江戸時代に確立した一般民衆の宴会料理である。吉兆では、日本の茶席料理である茶懐石の深い影響を受けつつ、この三大料理を融合し、メニューの組み合わせや部屋の雰囲気、部屋に置く装飾品などにも気を配り、食事をするお客様によって部屋のしつらえも変えている。吉兆の各店舗は、一貫して政府首脳や要人を接待する料亭なのである。
さて、ミシュランの三つ星シェフである徳岡邦夫さんがプロデュースする店が、今月23日にシンガポールに開店することになった。徳岡さんは1960年大阪生まれ。吉兆の創始者である伝説的人物、湯木貞一氏の孫に当たる。高校を卒業し、僧侶としての修行を積んだ後、湯木門下に入り、東京と大阪の吉兆で修行を重ねてから、京都の吉兆に入った。
徳岡さんは父親の徳岡孝二氏の厳しい指導を受け、1995年から京都吉兆嵐山本店の料理長として第一線で活躍している。2004年と2006年には、スローフード協会が主催する味覚の博覧会で日本を代表して料理を披露し、大きな反響を得た。また、「世界料理サミット2009 TOKYO TASTE」では、料理に対する独創的な考え方と高い技術によって、世界の注目を集めた。
徳岡さんは、京都の老舗における「一見さん(なじみではない客)お断り」という伝統的なしきたりを打ち破った。また、より多くの人々に吉兆の料理を知ってもらうため、シンガポール店で使用する素材は、日本の伝統的な食材にこだわらない。こうして国際的な視点からも日本料理を見直そうとしており、日本料理の世界に新風を巻き起こすことになるかも知れない。
また、丹念に考えられた料理だけでなく、三人の日本の芸術家が、徳岡さんの提案する江戸期に流行した「琳派」をインテリアのテーマとして、和紙、土壁、盆栽、苔などを使って、日本の伝統美をモダンに表現する。日本の食材と伝統的な調理法、そして日本風のもてなしの心が、異国シンガポールでどのように受け入れられるか、大いに期待したいものだ。(ff執筆)
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