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タイトル:作家&出版人育成マガジン『パウパウ』第121号  2010/02/11


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      作家&出版人育成マガジン『パウパウ』第121号
   2010年2月11日発行(不定期発行)(2000年3月7日創刊)
      発行元 出版人コム http://www.shuppanjin.com/
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[お知らせ]
 引き続きハイチ大地震被害のご支援をお願いします。
●アメリカのCNNのサイト
http://www.cnn.com/
●イギリス BBCの最新ニュース
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/default.stm
●BBCの救援金募集ページ
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/8460380.stm
●ニューヨークタイムズの最新情報
http://www.nytimes.com/pages/world/americas/index.html
●日本赤十字社がハイチ大地震の救援金を募集
http://www.jrc.or.jp/contribution/l3/Vcms3_00001446.html
●World Vision
http://www.worldvision.org/
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●巻頭言 ●                                     上ノ山明彦 
       「がんばれ」に代わる言葉と横綱の品格
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 元横綱朝青龍が引退するきっかけとなった暴行事件の原因は、被害者の
男性がかけた一声、「がんばってください」だったという。 
 この言葉は他人を応援するとき、誰もが何気なく使っている。私は昔か
らこの言葉に疑問を持っているので、娘を応援するときでも、あまり使わ
ないようにしている。
 応援する側にはまったく悪気はない。ただ素直に、相手を元気づけるた
めに、勝ってほしいという願いを込めて「がんばって!」という声援を送
る。相手が怠けているとか、力を出しきっていないとはまったく考えてい
ない。
 一方、「がんばれ」、「がんばって」と声援を受ける側の心情を考えて
みると、大半の人は、素直に「ああ、こんなに自分のことを応援してくれ
ている」と感激するだろう。
 だが、辛く苦しい状況に置かれている人にとっては、受け取り方が違っ
てくる。今必死に努力しているところへ「がんばって!」という声援が来
る。受けた側は「今精いっぱいがんばっているのに、努力が足りないとで
も言うのか」、あるいは「力を出しきっていないと言うのか」と感じるこ
とあるだろう。
 このあたりの声援する側と受ける側のギャップが、朝青龍の暴行事件の
きっかけになったのでないかと思う。
 実際のところ、学校では「がんばれ」という言葉は「もっと努力せよ」
という意味で使われることが多いのではないだろうか。
 結局のところ、「がんばれ」というのは、どんなにていねいに言おうと
も誤解を招く恐れや、逆効果になる恐れがあるということだ。事実、ハン
ディキャップを持つ人に対しては、この言葉は使うべきではないという声
がある。私もその意見に賛成だ。
 そこで、「がんばれ」に代わる言葉がないものかと考えたが、これがま
たむずかしい。みんなでいい案を考えて普及させたいものである。
 
 朝青龍の事件は、暴行問題だけで収まらなかった。相撲協会が問題にし
たのは、「横綱の品格」という問題だった。
 昔の大相撲は勧進相撲だった。神社仏閣の建設や修復と深くかかわって
いた。江戸時代まで現在の横綱という地位はなく、番付としては大関が最
高位だった。横綱は大関の中から優れた者に与えられる免許であり、名誉
職だった。横綱は神が憑いた人、「神の依り代」として崇められた。
 娯楽の少ない時代であるから、当時の相撲人気は今の何倍も高く、大関
たちは庶民から深く尊敬されていた。その辺のことは江戸時代の大関・雷
電を主人公にした飯嶋和一の時代小説「雷電本紀」(小学館)を読むとよく
わかる。
 真正面から勝負を挑み負け知らずの雷電は、庶民に愛されていた。子供
には無条件にやさしく、彼らからも愛されていた。庶民の間には「神の依
り代」である関取に抱かれた子供は、健康で強い人間に育つという信仰が
ある。そのため雷電が現れると子供を抱いた母親が行列をつくる。雷電は
嬉しそうに子供を抱き上げる。母親はその様子を満面の笑みで見つめる。
 相撲が国技と呼ばれているのは、単に日本生まれのスポーツだからでは
なく、今述べたような特別の要素があるからである。相撲協会が横綱に求
める「品格」というのは、かなり水準が高い。ほかのプロスポーツ選手も
世間や子供たちに対する影響力が強いから、尊敬される人格が求められて
いる。横綱の場合は、さらにその上のレベルが要求されているのだ。
 日本人の多くは、横綱の特別な位置づけについて感覚的に理解できると
思う。それを「時代遅れ」と思う人もいるだろう。それに賛同する否かは
別にして。外国人には、そういうことが感覚的に理解できないのだろう。
できないならできないで、理解しあうえる方法を考えるべきだろう。相撲
協会にはそういうところをもっと配慮してほしいところだ。
 とはいえ、外国からくるスポーツ選手には、日本の文化や慣習を尊重し
てほしいと思う。そういう姿勢がないと、外国人排除論が台頭してくる。
私は排除論には賛成しない(今回のテーマではないが、女性を土俵に上げ
ないという相撲協会の考え方についても賛成しない)。
 私は朝青龍問題に評価を下す気はさらさらない。言葉や文化に対しては
立場によって受け止め方が違う。そういうものにこだわる人間として、見
過ごすことができない問題だった。それを文芸作品で表現できればと思う。
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●エッセイ 江戸と現代の恋愛事情 ●           上ノ山明彦 
            身分を超えた愛の行方
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 江戸時代の人々と現代人の間には、どれほどの違いあるのだろう?私は
そんな素朴な疑問を持った。その違いという場合、人の価値観、慣習、仕
事、収入、服装、食べ物、住居、そして身分制度というものを考えなけれ
ばならない。
 こういうものを学者のように分析していっても、まったくおもしろくな
い。それにその手の本はたくさん出ている。
 そこでふと考えた。江戸時代の恋愛、結婚事情を探っていくことで、現
代人との違いと共通点浮かび上がってくるのではないか、と。このテーマ
は女性の関心が高い。という問題意識から、さっそく出発することにする。
 まず誰もが気になるのは、身分の壁だろう。江戸時代は士農工商という
身分制度があった。
 もし、武士が商人の娘、農民や職人の娘と恋に落ちたらどうなるのだろ
うか??二人の結婚は可能だったのだろうか?
 こういう組み合わせの場合、武士の方もまた条件によって違ってくる。
武士が嫡男つまり長男で後継ぎの場合と、それ以外の二男、三男などの場
合ではまったく事情が変わってくる。
 後継ぎではない男たちは「部屋住み」と呼ばれ、厄介もの扱いされる。
部屋住みの者たちは、養子の口を探すしか生きる道はない。見つからなけ
れば、一生厄介者としていきるしか術はない。彼らはいい家から声をかけ
てもらえるように、学問や武術を必死に学んだ。
 今回は武士の嫡男について話を進める。
 武士の嫡男と町人(商人、農民、職人)の娘が恋に落ちたとしよう。も
し武士の親・親戚も娘の親もたいへん理解があって、「いいよ」というこ
とになったとしよう。制度的には、武士と町民との婚姻は禁止されている
から、そのままで役所から許可が下りない。
 で、どうするか?これにも抜け道がある。まず娘をどこかの武家の養女
にする。これは形式的なことではあるが、娘に対する責任はずっとついて
回るから、親しい間柄か、どこかの武家にお金を積んで引き受けてもらう
ことになる。
 それから正式の手順を踏んで、めでたく結婚という運びになるわけだ。
これで身分的な問題は片付く。
 ところで江戸時代の婚姻は、家同士の結びつきである。現代と違って武
士の「○○家」には幕府や藩から地位が保証され、永代に亘って俸禄(何
石何俵で表される)が支給される。この家を守ることが当主や親族に取っ
てもっとも大切なことなのだ。当然だが、親同士が決めた縁組ですべてが
決められてしまう、ということのほうが多かったのだ。この点は抑えてお
こう。
 だから、身分を超えて二人が恋愛によって結ばれ、両家にも認められ、
めでたく婚姻を済ませ家庭を持つということは、非常にむずかしかったの
である。
 しかし、現代人と同じで「経済的身分差」は大きな壁となる。裕福な武
家と裕福な商家同士であれば、立ちはだかる壁は薄いものだろう。貧乏な
武家と裕福な商家ならば、より壁は薄くなるだろう。お金の力は強い。貧
乏な武家と貧乏な町人の家ならばどうだろうか?壁は厚くなると思うが、
なんとかなるのではないかと思う。
 非常に壁が厚くなるのは、それなりの家格の武家と貧しい庶民の家の場
合だ。昔の婚姻は家同士の結びつき基本だ。嫡男と娘がいかに愛し合って
いようと、武家側の親や親戚が猛反対するに違いない。婚姻によって家を
盛り立てていくきっかけにしたいという願いが周囲にあるからだ。そこに
悲恋が生まれる。
 猛反対を押し切って二人が一緒になる方法はあるだろうか?まず考える
のは駆け落ち。これは生活が成り立たないから難しい。
 次は心中。これは法律で禁止されていて、生き残った場合、市中にさら
し者にされたあげく、死ぬまで身分制の最下位つまり士農工商の下とされ
た身分に落とされた。親や親戚にも迷惑がかかる。
 生きて二人が一緒になるには、武士のほうが後継ぎの地位を捨てて浪人
するか、いっそのこと武士を辞めて町人になるかして、何らかの形で生計
を立てるしか道はなかった。手に職がない侍が職を得るのはむずかしい。
いずれにしても厳しい選択だ。
 一切のしがらみを捨てて愛する人と共に生きる道を選んだ武士は、かつ
てどれくらいいたことだろうか?予想に反して意外と多かったのではない
かと、私は考えている。その証拠はまだ持っていない。ただ「人間の本質
は昔も今もあまり変わっていない」という漠然とした根拠からそう考えて
いるだけである。そういう武士と娘の恋も時代小説の永遠のテーマである。
 では、「部屋住み」の男たちの恋愛はどうなるのだろうか?悲劇は倍加
する。その話は次号で。
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 編集発行人:上ノ山明彦
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