幸福を伝えるクリップ
1990年2月、ノルウェーの首都オスロの郊外に、5メートルの高さのステンレス製のゼムクリップの記念碑が建てられた。これは、1899年にゼムクリップを発明したことで人々の生活を大きく変えた数学者、ヨハン・バーラーを記念したものである。ゼムクリップは日常生活で普通に使われている道具だが、これのおかげでたくさんの書類をまとめることができ、散乱したり積み上げられたりした紙の山から必要な書類を探し出すという苦労から我々は解放されたといえる。
この小さなクリップは、百年あまりの間、あまり形を変えていない。その構造の巧みさに驚く一方で、多くのデザイナーは新しいクリップを作り出したいという衝動を持ち続けてきた。これまでには、MIDORIが発売したかわいい動物やクリスマスツリーの形のクリップなどが話題になった。だが、かわいいと評判にはなったものの、何かもの足りなさを感じたことはいなめない。
「number clip」が「コクヨデザインアワード」の優秀賞を獲得したのは偶然ではない。このクリップで紙を挟んだ瞬間、一つ一つの数字が目の前に浮き出してくる。ただの細い針金を湾曲させただけのものが、「紙をとじる」機能と「順番をつける」機能の両方を備えているのだ。「記号を還元し、優しく、わかりやすく、そしてデザインによって人を幸せにする」という信条を持って、アイ・デザインのプロダクトデザイナーであり、女子美術大学で教鞭をとる乙部博則さんは小さなクリップに斬新な価値を与えているのだ。
取っ手がついているというだけで、コーヒーカップは大きな価値を持つ。数字自体はその意味を示す存在でしかないが、一本の針金で洗練された字体を表現することによって、素朴なクリップを無限に発展させることができる。また、クリップに数字の機能を持たせることによって使い手が自由に空間を処理できるようになる。そして、数字自体のかわいらしさや機能美などの本来的な要素がクリップの作用と絶妙に組み合わせられている。デザイナーの巧みさと創意には心から感嘆せざるを得ない。
「デザインは色や形ではなく、人を幸福にすることです。新しい機能、新しい材料……それらを日常生活に密接に関連させることが、デザインの仕事なのです。」乙部さんはこのように学生に教えている。「number clip」は「記号になる」「順序を知らせる」「優先順位を明確にする」などの様々な使用者の必要に応え、使用者に言葉にならない満足感と幸福感を与えてくれる。これこそ発明者のデザインコンセプトを正確に反映したものと言えるだろう。(姚遠執筆)
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