音楽と魂のハーモニーを聞く
元気いっぱいだった大学時代、テレサ・テンが歌う「星 Star」の寂しさと芯の強さが、懸命に学んでいた私の心の琴線に触れた。20年前、夕陽が西に傾いた黄昏時に初めて異郷の土を踏んだあの頃、山口百恵の「いい日旅立ち」の歌声が流れていた。24時間チャリティ番組「愛は地球を救う」の製作現場では、黄色の服を着た人々が舞台の上でも下でもいっせいに腕を振りながら「サライ」を歌っていた。・・・懐かしい思い出の数々が、はるか昔のこととなった今、私の目の前には、白いものの混じった髪と、薄い眼鏡の奥に輝く瞳、上品な口ひげ、そして優しく微笑むその顔に浮かんだえくぼ・・・そこにすわっているのは、その感動的な歌によって私の人生を変えてくれた恩師、「谷村新司」という美しい名前の持ち主である。
谷村さんの歌は、さまざまに名前を変えて世界の人々に歌われ(華人のスターがカバーしたものだけで50曲以上ある)、そのうっとりするようなメロディと深い意味を持つ歌詞が織り成す「谷村新司の世界」は、世代を超えて老若男女の心を包み込んでいる。約400曲の歌を作り、個人コンサートを4000回近く行い、その今までにない歌の世界によって彼は知らない人のないスーパーミュージシャンとなった。最近は、音楽グループ「アリス」でツアーを行う合間を縫って、処女小説を書き上げる一方、日本列島各地で「ココロの学校」を開くことによって、悩みを持つ人々にまるでおいしい「ココロのスープ」を届けている。サイトの「フォトダイアリー」にある、携帯で撮影された笑顔を見ていると、今年還暦になる彼の旺盛な生命力に感嘆させられる。
谷村さんは温厚で優しい人生の先輩であり、日中友好を熱心に説く使者でもある。28年前に北京の工人体育館で行われた初めての「Hand in Hand 北京」コンサートで、中国と離れることのできない縁を結んだ。その後、日中間を頻繁に往復し、「中日携手・世紀同行」(日中が手を携えて新しい世紀を共に歩む)、「中日青少年国際交流音楽会」、「抵制非典・支援中国」(SARSを阻止し中国を支援する)などのイベントによって、たくさんの孤独な心を温めてきた。また、未来のミュージシャンを育成するために、五年前から毎月1週間上海に飛び、音楽学院教授としての重責も果たしている。
偶然にも、中国国内最大のネットワークメディアの委託を受け、谷村さんと直接お会いするという幸福な時間を持ち、20年来最大の願いが実現できた。感激で興奮した気持ちを抑えて、できる限り冷静に質問をしながら、谷村さんの優しく丁寧な教えを聞いているうちに、私の心の深いところで小さな願望が湧き上がってきた。
すると、まるでそれを察したかのように、インタビューが終わったとき、谷村さんはその歌声と同じように心引かれる語り口で私の心にしみいるような言葉を語ってくれた。「地球は今、人と人との交流を大切にすべき時代に入っています。人と人との心が通じれば、国境はなくなります。軽々しく、どの国がどうだというような断定はすべきでなく、誰々が住んでいるからその場所が好きだというふうに言うべきなのです」・・・――何と広くこだわりのない「国際人」の心だろうか!谷村さんは、その豊富な経歴と人生経験によって、65万の在日華人、すなわち日中両国の複雑な関係の激流の中で浮き沈み、漂う者たちに、くじけずに努力し、がんばり続けるという心を与えてくれるのだ。(姚遠執筆・堀部浩義撮影)
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