メルマガ:クリスタルノベル〜百合族
タイトル:クリスタルノベル〜百合族 Vol.019  2009.8.30  2009/08/29


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   ◇∞◆  クリスタルノベル〜百合族〜    ◇∞◆
    ◆∞◇      Vol.019  2009.8.30      ◆∞◇


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                    ◇∞◇ タイトル ◇∞◇ 
            
             ♪ − 星の降る夜空の向こう


 映画が終わり、私たちは席を立った。礼子は私の前をどんどん歩いていった。
別れ難く、かといって自分から誘いもかけづらく、礼子が映研部員と話をして
いる間、私はじりじりしながら待っていた。ようやく話し終えた礼子は私に気
づき、意外そうな顔をした。
「待ってたの?」
 その一言で心が決まった。さよなら、と言い捨てて階段を下りる私を礼子が
追ってきた。
「待ってよ、冗談だってば」
 声を背中に受けながら急いで下りていく。軽い足音がして、ぐいと腕が引か
れた。
「意地っぱり」
 礼子は笑った「どうせ一人なんだろ。私を待ってるなら待ってるって言えば
いいじゃん」
 反論できなかった。私が黙って睨みつけると、礼子は柔らかく言った。
「美紀」
 その声を聞いたとき、私の体から抵抗が抜けた。体が浮き上がるほどの嬉し
さが湧いた。同時に、体の中から得体の知れぬものが土壁に湿気が浸みるよう
にじわじわにじみ出す。身震いするような感覚。だが、私はそれを錯覚と感じ、
忘れた。
「行こう」
 笑いかける礼子の目に、思わず魅入られてしまうような美しい色が走って、
消えた。私の錯覚は礼子のその表情から生じたのかもしれない。
 翌日、香夏子に謝られた私は笑って許したが、どうやって時間をつぶしたか
については言わなかった。

 礼子はかなり頭がいい、と私は思う。話に引き込む能力があり、会話は刺激
的で、心地良く、別れるのがつらくてならなかった。会うたびに急激に心はほ
どけ、二人の話の内容はきわどい方向へ落ち込んでいった。
「あんた、目立つでしょ」
「そんなことないよ」
 私は軽く言ってコーヒーを啜る。
「礼子こそ目立ってるでしょ? 凄く綺麗だし。いじめとか、遭わない?」
 何の気なしに言った言葉だったが、口に出してからぎくりとした。可能性は
十分にある。後悔が顔に出たらしい。礼子は口を歪め、皮肉げな顔つきになっ
た。
「私に惚れてる子が学校にいるの。喋りのきつい、うるさい子でね、私に手出
すと彼女に何だかんだ言われるから、誰も私と話そうとしないの」
「じゃあ」
 思わず言葉が辛辣になる。
「その人に守ってもらってるんだ」
 礼子はちょっと驚いた顔をしたが、すぐ平然と答えた。
「そうかもしれない」
 その口調のあまりの不遜さに、私は目を見張った。




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  発行者      : 春野 水晶 

  * タイトル:『クリスタルノベル〜百合族〜』
  * 発行周期:不定期(週2回発行予定)

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