東京では常に中国映画を上映している小さな映画館は存在するが、正直に言えば、ごく少数の熱狂的な中国映画ファンを除くと、大部分の日本人にとって「中国映画」に対する知識は、笑いを誘うカンフー映画などの表面的なレベルにとどまっている。「初恋の来た道」の情感溢れる農村風景も、「レッド・クリフ」のスペクタクルも、ブルース・リーの武術やジャッキー・チェンのギャグにはかなわない。
だが、保存があまり行き届いていない20世紀の中国のサイレント映画が、現代の日本人青年の心を強く惹きつけた。片岡さんは大量の史料を読み、素材映像の中国語や英語の字幕に基づいて、人々を満足させられる脚本を執筆した。中国語がまったくわからない彼は、まず辞書を使って英語の字幕を日本語に訳し、日本語と類似した漢字を拾って状況を推測し、解説を作り上げた。
片岡さんが最も好きな中国人スターは、29本のサイレント映画に出演し、わずか25歳で大きな圧力のために「人の言葉はおそろしい」という言葉を残してこの世を去った阮玲玉である。片岡さんは、彼女の温かくまっすぐな性格や、清純で清らかな心や、美しく上品な演技を高く評価している。片岡さんが阮玲玉の映画を解説すると、その適切な表現、美しい文体による比喩、そしてめりはりのきいた抑揚によって、すべての聴衆が映画に引きこまれていく。
最近、中国で流行しているカフェ文化について、中国でも欧米風のライフスタイルが味わえるということへの興味だけでなく、片岡さんは、無声映画の上映があるのか、観客に時代背景とストーリーを説明する解説者はいるのかということにたいへん興味を持っている。日本の戦後世代にとっても、弁士の解説によって無声映画を鑑賞する機会は非常に得がたいものであるが、自分の若い力で20世紀の日本や異国の文化と人生を演じると共に解説することを使命と感じている一人の日本人青年は、現代の中国にも自分と同じ仕事をする人々がいることを、そして彼らと語り合えることを期待しているのだ。
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「活動写真弁士」たちは自分たちのたゆまぬ努力によって、まったく新しい芸人の世界を作り出している。彼らが監督の作った映画作品を新たに注釈することで、その映画はもはやその当時の映画ではなく、解説もただの解説ではなくなるのだ。このような意義深い映像と音声の結合は、片岡一郎さんやその他の弁士たちを通じて、我々に歴史を理解させ、過去の時間の中に多くの発想を、そして自分自身を発見させてくれるのである。(取材協力:河上晃一郎、写真提供:片岡一郎) |