都会の中の心のオアシス
職場から近い山手通り沿いに、開店したばかりのラーメン屋「麺屋宗&SOU」があり、いつもたくさんの客でにぎわっている。店の前にできた長い列が道行く人々の目を引くだけでなく、窓からは店内の洗練された内装や家具を見ることができる。この店では日本の工業デザイン界の巨匠である柳宗理氏がデザインした家具や食器が使われており、看板の上にある「宗」の文字にもスタイリッシュな気分が感じられる。
柳宗理氏と言えば、年配の方はあの眼光鋭いまとめない髪型の姿を思い浮かべるだろうし、若い方でも、あまり日本的ではないこの名前をどこかで見たことがあると思われるだろう。1900年代の半ば以降、文具や家具から高速道路の標識やオリンピックの聖火台まで、たくさんの傑作を作り出して多くの賞を獲得した氏の作品は、世界各地の美術館に収蔵されている。見たところはシンプルなのに人を引きつける、半世紀にわたるこれらの作品には、氏の「True beauty is not made, it is born naturally」(本当の美は作られるものではなく、自然に生まれるものである)というデザイン哲学が込められている。
一生に一度は使ってみたいのが、「バタフライ・スツール」と名づけられた椅子である。合板の三次元曲げ加工技術を用いて作られたこの美しいフォルムは、蝶が羽ばたくような柔らかくて緩やかな曲線を描き出し、左右対称で、結合部も無駄なく緩やかな流れを作り出している。昔からの日本人の美意識を受け継ぎながら、西洋の現代的な素材を融合して、「バタフライ・スツール」は、他にはないすばらしい作品となっている。
柳氏がデザインする家庭用品は、どれも含蓄のある美を備えており、自然な形で家庭生活に溶け込んでいる。彼は民間芸術から美の源泉をくみ取って、「近代化」の真の意味を考え、作品をシンプルにしながら決して単調にはせず、特に「手」を使ってデザインすることにこだわっており、設計図を描かずに1〜2年かけて実物大の石膏模型を直接製作する。「手で感じれば、手の中に答がある」というのが氏の考え方なのだ。
1957年にミラノ・トリエンナーレで金賞を受賞してから半世紀経った今、「バタフライ・スツール」の光沢のある座面に触れていると、まったく同じ形の左右の部分が軸芯を中心に対称に連結され、座席の下だけをボルトとバーで固定しているこの椅子に込められた、デザイナーのシンプルで優雅な構想の味わいが、歳月を経て少しずつ滲み出してきているように感じられる。
「麺屋宗&SOU」では、「女性が一人でも安心して食事ができる」という雰囲気と、カフェのような気軽な気分と、さらに夜には「一杯傾ける」ことのできる温かい店を目指している。柳宗理氏のデザインがあるべき場所を得て、喧騒の都会の中に心休まるオアシスを作り出しているのである。(姚遠執筆)
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