柔らかく心を癒すカオマル
「人生の真の味わいとは、すべてのことが常に順風満帆にはいかないということにある。雲ひとつない快晴の日もあれば、荒れ狂う雷雨の日もある。広くまっすぐな道を歩いていく日もあれば、悩みながら険しく曲がりくねった道を行く日もある。……体験せよ。すべてを体験すれば、一生を過ごしたかいがあるのだ。」――「自己啓発」の本によく見られる自信に溢れた言葉である。確かに、ある意味から言えば、人生でたった一つ変わらないことは、「変化する」ということなのかもしれない。
しかし世の中の多くの人が、偉大な人物のように人生を笑い飛ばして生きられるわけではない。人生で辛いこと、悩み、緊張、怒りなどに出会って、それを晴らすことができないときにはどうしたらいいだろうか?――バブルの時代には六本木に、鬱憤を晴らすために皿を割ることのできるレストランがあった。仕事や上司に対する不満でいっぱいのサラリーマンたちが夜になると集まって、大きな声で罵りながら、レストランで準備してくれた皿を床にたたきつけて割り、心のバランスを取り戻していたのである。
現代は「単純に破壊する」ことを推奨する時代ではなくなった。そこで、「CAO maru(カオマル)」のような新しい商品が多くの人々を捉え、人気者になっている。カオマルはポリウレタン樹脂で作られた、人の顔の形をした球状のグッズである。「ゲッ!」「ニッ!」「プー!」「ホッ!」の四種類があり、神経が張りつめたり、鬱々と悩んだり、腹が立ったりしたときに、カオマルを手の中でにぎっていると、その感触によって時の経つのも忘れてしまうような気持ちになる。また握りつぶされて変形した「顔」の中に、握力によって生みだされる変幻自在な表情を見ていると、いつのまにか緊張も解け、怒りも雲散霧消してしまうというわけだ。
箱を開けた瞬間に、そのなんとも言えない表情を見て、心の底から感嘆のため息が出る。白いカオマルも、ブラウンのカオマルも、手作りであるため、ニキビや吹き出物やそばかすができていることもあり、なんだかとてもリアルである。表情の違うカオマルを全部集めて、その日の気分に合わせて観察したり握り締めたりすれば、心を癒し、緊張をほぐす思いがけない効果があるかもしれない。本体はかなりの柔らかさで、思い切り投げても周りのものを壊す心配はない。(もっとも、やらない方がいいかもしれない。)
デザイナーは若い女性だと聞き、柔らかい感性と創意にうなずけるものがあった。カオマルに緊張を和らげる効果があるとか、人と人との交流を深めるなどと断言することはできないが、ただ一つ確かなことがある。それは、カオマルを握っていると誰でも、心の中にカオマルのための小さな場所を持つようになるということである。(姚遠執筆)
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