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タイトル:作家&出版人育成マガジン「パウパウ」第113号  2009/04/28


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      作家&出版人育成マガジン『パウパウ』第113号
   2009年4月28日発行(不定期発行)(2000年3月7日創刊)
      発行元 出版人コム http://www.shuppanjin.com/
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[お知らせ] 今号と次号は時代小説特集です。増野英和報告の岳真也氏
講演の内容は、貴重な話が凝縮されていますので、繰り返し読んでいた
だきたいと思います。
 次号は早急に出す予定ですが、そこでは上ノ山明彦のエッセイで「時
代小説の楽しみ方」について語る予定です。
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●巻頭言 今時代小説が面白い● 上ノ山明彦
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 時代小説は歴史的事実にこだわらない小説である。「史実ではないが、
その時代にきっとこういうことがあったであろう」というリアリティを
持った小説である。だから時代考証はしっかりしていなければならない
し、登場人物にもストーリーにもリアリティが求められる。史実にこだ
わらない分、よりデフォルメしてストーリーを展開し、人物を描写する
ことができる。
 一方、歴史小説は史実にこだわる小説である。作家は現代に残ってい
る証拠をつなぎ合わせて解釈し、当時の世界を小説として再現する。証
拠があるとはいえ、その解釈の仕方は無限にある。それゆえ、誰が何を
書いても、必ずその批判は出てくる。
 史実という一種の縛りがない分、時代小説は自由に世界を創り上げる
ことができる。かといってでたらめな世界ではない。いかにもそういう
ことがありうるフィクションの世界なのである。
 読者は現代社会と重ね合わせていろいろなことを読み取ることができ
る。そこに今再び時代小説の人気が高まっている最大の理由があると思
う。
 書き手から見ると、時代小説へのアプローチの仕方は何通りもある。
 現代人の日常感覚でも理解できるように昔の時代を描くという方法は、
もっとも読者のニーズに合い、人気が出る方法だと思う。
 一方、できるかぎり当時の人々の人生観、価値観、視点に迫りながら
様々な人間の葛藤、愛憎、闘いを描く、つまり当時の人間になって世界
を見るというアプローチにある。その手の作家は非常に少ない。一部の
人には強く支持されるが、幅広い層に人気があるわけではない。
 いずれにしてもそれぞれの作家のこだわりの問題であって、良いとか
悪いとか批評されるべきものではない。私はそのこだわりを楽しみたい
と思っている。
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●増野英和●
 岳真也氏講演会・参加報告「なぜ時代小説が売れるのか」 
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 私は、4月12日に杉並区民センターカレッジで開かれた「なぜ、いま時
代小説が売れるのか 〜虫の目で見る歴史観という〜」という作家・岳真
也氏の講演会に参加してきました。
 講演の話は、時代小説を書き始めたきっかけや、歴史小説と時代小説の
違い、売れる作家の秘密、これからの時代小説とはなにかなど非常に興味
深いものでした。
 講演で、岳真也氏は自分の経歴を次のように紹介していました。
1、時代物を書き始めるまで
 純文学、旅行作家からの転身、そのきっかけ。
 最初に書いたのは実録風の歴史小説「河井継之助」・・・平成7年
 19歳の大学生の時に遠藤周作先生に見出され三田文学を受賞したことが
きっかけで小説家の道へ進むが、その後は借金生活となり生活苦から離婚
を経験。この経験談を小説化し最初のヒットとなる。その後数回各賞の候
補にあるが一度も受賞したことはがない。
 しかし、それが文体を硬直させることなく、自由に書けることになった
と考えると良かったかもしれない。純文学に特化した作品は今では続かな
かったのではないか?また、歴史にこだわると評論家からの攻撃を受け書
けなくなったのではないかなど、様々なことを考える」と話されました。
私は、小説家が売れない頃の話をいくつか見聞きしたことがありますが、
講演を聞いてみて売れないのではなく、作者が読ませようとしていないの
ではないかと感じました。岳真也氏はその点に注目し読者を意識した小説
家ではないかと思いました。
 さらに、岳真也氏は「自分自身の文体としては、歴史背景は十分に調べ
ます。そして、より詳しいものが無いものを書くということにしています。
ですから、「私は小説家であって歴史研究家ではありません」と話されま
した。その通りだと思います。読者は歴史小説・時代小説を読みたいので
あって歴史研究書を読みたいわけではないのです。非常にわかりやすい言
葉でした。

2、ベストセラーを体験
 「河井継之助」の後に平成10年「吉良の言い分」が上下巻で10万部7刷
  しかし、当初の出版社はそれ以外のヒットがなく倒産したそうです。
出版社の苦悩は続くものだと思います。
 岳氏によるとその当時は、朝日新聞「人」に取り上げられたり、大河ド
ラマで大学の先輩石坂浩二が吉良役を演じ、取材もあったので、タイミン
グがよかったといってましたが、これも時代に合った選択、読者の読みた
い心理とあっていたのでしょう。
 講演では、「私は、歴史は好きですから良く調べます、そこから人物や
背景を推理し小説にしていきます。よって、事実でないものもはたくさん
ありますし、むしろそちらのほうが多いかも知れません。ただし史実にのっ
とった上で、想像を膨らますことが大事です。"かも知れない"、と思える
ように書くことが必要です。そういう点から、私は歴史上の悪役・敗者の
言い分けが好きなのです」。この視点は、興味があり説得力がありました。
 人の善悪は誰が決めるのか、なぜそうなったのか?その背景に読者の想
像力が加わることで、さらに作品を高める効果があると思いました。まさ
に、読者が待っていた視点だったのでしょう。
 講演は進み、尊敬する作家、作品の話がありました。

3、司馬遼太郎から藤沢周平そして池波正太郎へ
 小説家として影響を受けたのは、最初は司馬遼太郎さんだったそうです。
意外と普通だなと思いました。何処に惹かれたのかというと、鳥瞰図的な
描き方は取り上げる題材によって、動きを捉えるのに参考になったとのこ
とです。皆感じることは同じだなと思いましたが、こういう話が続きまし
た。
 「坂本竜馬などは司馬さんが書いたことにより、注目された人ではない
かなと思う。また、司馬さんは坂本を書きながら、土方を書いたりしてい
ますので人物の動きをよく捕らえていると思います」。そういうことを感
じたそうです。私は、両作品を読みましたが、きちんと対比して書かれて
いることは気付きませんでした。

 次に、藤沢周平さんについて話されました。「私小説に近いのではない
かと思う。身近にいる人を時代を変えながら、歴史人物へオーバーラップ
させ”こんな感じだったかも”をよく使っています。ですから、素材はす
ごく身近にいると思います。そのようにして読むと面白いです」。
 そんなことを話してくれました。これから、読む姿勢が変わるような話
です。

 そして、最後の人が池波正太郎でした。岳氏は、「私が最も好きで、尊
敬している作家。時代背景、人物を司馬さんとは対極に虫の視点で捕らえ
た書き方をする人」であると言ってました。
 「ですから、好き嫌いは出ますが玄人好みのこだわりというものを持って
いる」とも言ってます。
 そして、文章解説では、講演の副タイトルにある話をされました。
 「例えば、食材を説明する際も食べ方や食べた後の感想まで、細かく書
くものですから、私はよく読んだ後に無性に食べたくなった。・・」
 また、「読み手をひきつける人情・温情・正義などを巧みに使う」とい
うことでした。私は、作家の技術的なことはわかりませんが、このように
解説されるとよくわかります。
 しかし、岳氏は3氏が活躍できた時代背景について話を続けました。
「ただ、今挙げた3氏は時代に恵まれたこともあると思う」という話でした。
恵まれた時代、「その当時作家の王道という、雑誌連載・単行本・文庫本
の流れがあり作家も鍛えられたということ」だそうです。「現在では雑誌
連載は壊滅的です」。よって、今の若い人作家からすると「あんたの時代
は良かった」ということかもしれない。そういう話が印象に残りました。
 そして、講演は今売れている作家の秘密について話が進みました。

4、佐伯泰英の人気の秘密
 3年前にドイツからの帰りに機内で隣にいた人が歴史小説が好きだと聞き、
誰の作品を読んでいるかを尋ねたら、その答えが佐伯さんであったそうで
す。岳氏はそれまで、佐伯泰英という名前を知らず驚いたそうです。そこ
で、何がいいのかを聞いてみて、「1文庫本であること、2スピード感、
3郷愁を呼ぶ作風、4後引く面白さらしい」と聞き、作品を読んだそうです

 そうすると、「確かに今の時代にあったもので面白いし、人情物の典型
である長屋文化を扱っている点がいいと思います。古き日本の文化として
のものを大事にしているのは、読み手の本質である日本人の文化を知って
いると感じました」。これが、佐伯人気の秘密であると分析していました。
説得力があり、納得しました。
 ここで、講演は作家・作品の裏話になりました。好奇心をかきたてる内
容でした。

★まだまだ話は続きます。残りは次のURLでお楽しみください。
<夢幻流もの書き道場>
○今回の記事、増野英和著「岳真也氏講演会・参加報告」を掲載。
http://www.shuppanjin.com/mugen/mugen.html
http://www.shuppanjin.com/mugen/mugenryu106.html
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●ホームページ更新予告●
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<時代小説書き下ろし 連載開始予告>
 新しい試みとして、江戸を舞台にした時代小説を連載すると同時に、
並行して、時代小説をより深く理解するためのエッセイを掲載すること
にしました。詳細は次号で。ご期待ください。
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 編集後記
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 映画「レッドクリフ PartII」が注目を浴びている。私も昔から「三
国志」ファンである。これに加えて「史記」「水滸伝」を読むと、人間
がいかに同じことを繰り返しているかと考えさせられる。欲に絡む戦争、
一般大衆からの略奪、王室と官僚の腐敗、権力闘争、そしてその繰り返
し。人間て、ホントニ愚かだなあ。はい、私もその一人です(かみのやま)
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 編集発行人:上ノ山明彦  発行社:出版人コム
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