時代の永遠の一瞬をとらえる
日本に住み始めてまだ3ヶ月の頃、カメラに夢中だった異国の青年は、ある情報を聞いて狂喜した。それは「O−product」発売のニュースであった。当時はカメラが急速に電子化した時代であり、新しいデザインを求め、伝統を軽視する風潮が日本全体を覆っていた。今でも「O−product」を初めて見た時に感じた感動と衝撃が、記憶の奥底に刻まれている。
「O−product」は、スマートなアルミニウムの本体に1920〜30年代の欧米の黄金時代のイメージを再現した、それまでにないカメラだった。外観デザインでは「円」と「四角形」を効果的に組み合わせ、古典的な風格を備えていたが、内部構造は当時においては非常に先進的で、オートフォーカス、自動巻上げ、セルフタイマーストロボなどの機能がついており、特に本体と調和した専用ストロボが着脱可能なのが、ファンたちを喜ばせた。
20年後の現在、代官山の、模型やキャラクターグッズでいっぱいの「Water Design Scope」のオフィスで、「O−product」のコンセプトデザイン(プロダクトデザインは山中俊治氏)を手がけた坂井直樹先生が語る創作の思想をうかがい、言葉では言い尽くせないほどの感動を味わった。「『機能から考えだされたデザインは美しい』というコピーをよく目にするが、僕は賛成しかねる。機能美の話は何度も言われ続けたし、ある程度の理はある。しかし、機能美論だけで世の中の美しいデザインのすべてを説明するには無理がある。」眼鏡の向こうでは叡智に満ちた瞳が輝いていた。
日産の「Be−1」で自動車の四角い形のボディーの流行を打ち破り、曲線とかわいらしいデザインの先鞭をつけた坂井先生は、その年にオリンパス創立70年記念のカメラをデザインする仕事を引き受けたとき、巷で売られているカメラがみな黒の合成樹脂製で、生産と販売には便利であるものの、ユーザーから見ると美しさに欠けていることを敏感に感じていた。そこで、このユニークな「O−product」が誕生することになったのである。
昔も今も「誰もやったことがないからこそ、やる価値がある。今、世の中に無いものを作ることにデザインの役割がある」と、坂井先生が考えている。「O−product」は2万台の限定製造で、特殊なルートを通じて日本、アメリカ、ヨーロッパで販売された。日本では一週間で売り切れたという。今でも、中古市場における人気では、不動の地位を占めている。このように実験的要素と遊び心に満ちたカメラは、その後は現れることがなかった。オリンパスの創立100年記念では、「O−product」を超える傑作が生み出されるだろうか。(姚遠執筆)
|