2008年9月26日 特別増刊(第23号)
現代の都市が活力を備えているかどうかは、往々にしてファッションからその一端がうかがえる。「東京発!日本ファッションウィーク(JFW)」の前身は、20年もの歴史を持つ「東京コレクション」だ。2005年から毎年2回開催され、3年の努力を経て、パリ、ミラノ、ニューヨーク、ロンドンと肩を並べる世界5大コレクションの一つとなった。メイン会場は六本木の東京ミッドタウンで、その他、ラフォーレミュージアム、原宿のクエストホールなどに分かれる。37のブランドがその艶やかさを競い、間近で見る観衆の五感を刺激する。ファッションショーのほかにも、9つのブランドによる「デザイナー合同展示会」や「新人デザイナーファッション大賞」などのイベントが行われた。(取材、執筆:劉詩音、姚遠)
Mintdesigns

前回のショーでは気球や裂いた新聞紙でモデルの髪を飾ったデザイナーの勝井北斗と八木奈央。二人がこのショーでモデルの頭部をどう飾るのかが発表前から関心を集めていた。今回の会場は屋外で、ランウェイにはプリント柄の透明な雨傘を並べている。そこにモデルたちはなんと木製の恐竜の模型を頭につけて登場した!テーマは「Death Pop」だ。

秋冬のクラシックなスタイルを残しつつ、細長いI字型のストライプもいぜんとして新しい季節のテーマとなっている。ドレープの処理や細部の装飾がファッションの重点なのは変わらないが、秋冬モデルより軽くて躍動感にあふれている。素材には雨傘と同じエコ素材を使用しており、小型の連続模様のプリントが中心。透明なプリントのロングシャツには幅の広いストライプのミニスカート、細かい模様のワンピースには大きな柄の短いジャケットといった、さまざまな効果的な組み合わせが、抑えの効いた甘さや可愛らしさを表現している。

翡翠

デザイナーの伊藤弘子は、今回も会場を新宿高島屋の広場に設け、「physical」をテーマに決めた。

ショーが始まると、まるで肋骨をモデルにしたようなファッションには、宗教的で神聖な雰囲気が漂う。後半に入ると「翡翠」ではおなじみの身体にぴったりしたジャケットが登場する。今回のジャケットには黒のナイロン素材を使用し、留め金や引き紐の末端など細部への処理が目を引く。さらにライト・ベージュの小さい襟のジャケットに、腰から放射状に広がるドレープスカートを組み合わせたり、肩にかけた長袖ニットジャケットを黒いシルクのパンツに加えたりすることで、雰囲気のある大人のムードとほのかな色彩を基調とした布本来の性質を活かしたデザインに仕上がっている。

AGURI SAGIMORI

デザイナーの鷺森アグリは、今回、女性的なものと男性的なものを共存させたスタイルを作り出し、女性の礼儀正しい品格を表すのと同時に、非常にセクシーに仕上げている。
 
素材には、軽く透明な生地を使っているので、綿のような膨張感がなく、渓流のように滑らかだ。尖った白襟の長いブラウスをライトグレーのオーガンジーの超ミニスカートに組み合わせ、オーガンジーで胸元から腰のラインにかけて層のはっきりしたドレープを重ねる。また、背中側はフリンジのようにひざまで垂らし、I字型のラインの完璧性を保っている。これらの美しいラインは、まるで何かを語っているかのように饒舌といえる。そして、色彩は寡黙とはいえ、華やかな黒、白、グレー、ライト・ベージュを用いている。禁欲的で素朴でありながら、しっかり計算された裁断と色彩が、細かい装飾をさらにすばらしいものに完成させている。

ato

atoのファッションは、日本のデザインとしては珍しく、セクシーさを前面に出している。今回、デザイナーの松本与は、今まで一貫して用いてきた黒の基調を打ち破ることで、観衆を大いに驚かせた。シンプルかつ地味で高貴なスタイルに皆が飽きて「美しく華麗なスタイルに戻るのも悪くない」と思った絶妙のタイミングに、松本与はそのスタイルを大胆に打ち出した。

赤、黄、青、緑、ピンクなどの原色を惜しみなく重ねて使用し、自由な雰囲気にあふれるのと共に、独特の感性を持っている。前の季節のスポーティなスタイルは持ち続けながらも、全体に楽しくて鮮やかな感覚がある。ピンクの幾何学模様の足元を絞ったパンツには黄色のベストを合わせ、胸元には紫色のフリルをあしらう。シルバーの細いパンツには黒い襟高のぴったりしたシャツを合わせ、上着のすそと黄色のシルクの布が重なり合い、斜めの線がウエストを引きたてて、非常にセクシーだ。

matohu

デザイナーの堀畑裕之と関口真希子は、日本独特の美意識をデザインコンセプトとして、ファッションを単に着るものとしてだけでなく、美意識を養うものとして強調している。

今回は「辻が花」をテーマとし、淡い色のシルクに、桜色、若草色、空色などの透明感のあるパステル調の模様をプリント。桔梗、浜千鳥、朝顔の葉、変わり水玉などの図案を用いている。大人の女性のブランドであるmatohuはロングスカートが多く、すそが変化に富むフレアスカートや、縦横のストライプが大胆に組み合わさったタイトなロングスカートなど、現代工業の製作技術とデザイナーの芸術の感性との結合が、絵巻のように目の前に展開され、日本の自然の草花や伝統的な花の模様の美しさを感じることができる。

SOMARTA

SOMARTAのファッションショーを見ると、女性の内面、つまり内心の深いところにある子どものような天真爛漫さと、自然にあふれ出す妖艶さが交錯するのを見ているような気分になる。

デザイナーの廣川玉枝が特許を持つ無縫製素材は、皮膚のように体に密着して自信とセクシーさを表すが、大きく膨らんだスカートは、我々を少女の心に引き戻し、まるで空を飛ぶように両者の間を自由に行き来させられる。これらの作品が、今回のテーマ「EVOLUTION-BODY」を表現し尽している。色彩面には、白から黒、ピンクからブルー・パープルへの変化に未来のイメージが感じられ、美の宇宙に陶酔させられる。


Mercibeaucoup

デザイナーの宇津木えりは「水」をテーマとし、会場の入口でMercibeaucoupと書かれたミネラルウォーターのペットボトルを配布。さらに若いモデルを起用して、音楽も若々しくリラックスしたものを選んだ。
 
チェック、ストライプ、ポップなプリント、ジーンズなどのソフトな素材を混合して使用することで、色鉛筆で描いたような楽しいファッションになっている。腰高のラインでバランスをとり、白い幅広の革ベルト、赤白青のクラシックなナイロンベルト、可愛いコットンのポンポンを使ったベルト、ちょっとセクシーな細紐ベルトなどがそれぞれ腰のラインにあしらわれている。あふれるような色彩をきっちり抑えてまとめ、その自由奔放さに目を奪われるMercibeaucoupのファッションを未熟にならないように仕上げている。

Ne-net

デザイナーの高島一精は、2005年にNe−netを生み出した。Ne−netとはフランス語の「生まれる」という言葉に由来し、拘束されないスタイルと、身に付けて快適な素材を強調しており、日本の新しい世代の若者たちに支持されている。
 
今回のテーマは「てんごくみたい、じごくみたい」。モデルたちのふわふわとしたボリューム感のある髪型と個性的なボディペインティングが、開始と同時に観客の心をしっかりとつかんだ。500枚以上の細かな布地を丁寧に繋ぎ合わせたドレス、ギンガムの平織り布のすそにひだをつけて、色彩のグラデーションを活用したドレス、小動物の形をしたバッグの組み合わせなどが、とてもよくマッチしている。さらに、ロングスカートの下に見え隠れする編み上げ靴が、夢のように自由自在なカントリースタイルをかもし出す。

KAMISHIMA CHINAMI

デザイナーのカミシマチナミは、1989年にファッション界の門を叩いた。
 
今年のテーマは「Welcome Rain」。服の色彩は、熱帯の大草原から着想したと思わせる濃厚な色が多く、中でも鮮やかな湖のブルー、安定感のあるサハラ・ベージュ、象牙色などの印象が強い。動物の毛を連想させるシルバーのミニスカートに金属のアクセサリーを組み合わせ、魚のウロコのような黒のワンピースの肩には黒の毛皮で装飾をほどこす。さらに、その間に鮮やかなブルーを挟んで、スカートのウエストには黒の細い革ベルトをつけ、それをすそまで垂らしている。まるで自然と共に歩んでいるかのようで、優雅な中にも野生的な美しさが満ちている。ショーを通して、服装の組合せや、デザイナーの色彩に対する鋭敏な感性と天才的な色使いが、観衆を大いに楽しませてくれた。

zechia

カメラマンたちのシャッターの音は、ブランドの人気のバロメーターといえる。モデルが宇宙模様が描かれたブルーのシフォンのロングブラウスを着て、同じ柄のワンピースを着た少女の手を取って緑の芝生の舞台に登場したとき、場内に鳴り響いたシャッター音はさらに大きな歓声によってかき消された。しかも、ダウンジャケット型の巨大な帽子が頭の上に無造作に載せられている。今回のテーマは「WOMAN IS LadyBird」だ。
 
脚まで届くブルーのコットンワンピースには、大面積のレンガ色や緑色の不規則な小花模様がプリントされている。さらにその中には細かいアイボリーの模様が散りばめられ、まるで海底の花園を散歩する人魚姫を連想させる。このような童話のような美しいファッションの中に、親近感を感じさせるジーンズの服が、時おり挿入される。デザイナーのLICAとNAKAは、アフタヌーンティーのような優雅で温かい演出を行っている。

G.V.G.V.

デザイナーのMUGは、中性的、あるいはやや男性的なデザインを女性ファッションに取り込むことが得意で、袖口や腰などの細部に女性的な美しさを表現している。

今回の発表会では、上品なスーツを中心としている。透明な素材の使用と、80年代スタイルのラインを強調することによって、豪華でセクシーな雰囲気を作り出している。さらに、民族調の素材による装飾がいくらか加えられ、ファッションに原始的な感覚を与えている。局部の鮮やかな色彩と黒い輪郭のぶつかり合い、肌の色に近いライト・ベージュの活用、そしてモデルたちの輝く化粧が、未来への意識と原始的な直観を完全に調和させ、斬新なスタイル美を作り出している。会場には恵比寿ガーデンプレイスを選び、各界の有名人も多数訪れて、たいへんにぎやかだった。

HIROKO KOSHINO

1984年に上海で開催した個人ファッションショーによって、デザイナーのHIROKO KOSHINOは中国でも広く知られている。今回のテーマは「抱擁のカンテ」。ショーにはセレブや女性政治家らが多く見受けられ、多くが彼女の顧客でもある。これらの美しい服をまとった観客たちが、HIROKO KOSHINOのショーを舞踏会のように華やかなものにしていた。
 
依然として、精巧で気迫のあるレディのためのファッションが主役だ。そこに南欧の雰囲気と物語性あふれる演出が加わり、自由で変化のある曲線、互いに拘束し合うらせん模様、幾何学模様、水墨画、オーガンジー、シルク、刺しゅうなどが華やかに登場し、想像力あふれる高級な衣服になっている。最後は、スペインの闘牛士のような洗練されたラインの紫の一体型パンツルックが登場し、ヨーロッパ刺しゅうと金色の首飾りが加わって、完成度の高い裁断と考え尽くされた素材のもたらす安定感、窒息するほどの美しさに、会場の興奮は頂点に達した。

JFWの期間、東京ミッドタウンを歩くと、アトリウムで、ちょっと珍しい「デニムの再生」という展覧会が行われていた。大型織機でデニムを織るときに出る不要な部分を使って、自転車や睡蓮の池などの芸術作品に加工する、その創意に大いに感心させられた。振り返ってみれば、今回のMintdesignsのエコ素材のレインコートや雨傘、Mercibeaucoupのテーマである「水」、Ne-netのカントリースタイル、KAMISHIMA CHINAMIの「Welcome Rain」などは、どれも環境を愛する心に満ちあふれている。時代は常に進歩し、ファッションも急速に発展している。数年後に改めて今回のJFWのすばらしさを振り返ったとき、これらのファッションと環境保護の「初めての親密な接触」を思い出して、心の中で微笑むことができたなら、そのことこそが今回のファッションウィークの最大の収穫ではないだろうか。

Japan Fashion Week in TOKYO 2008 http://www.jfw.jp/ (日、英)
 
まぐまぐ(HTML・TEXT)、melma(HTML)、E-Magazine(HTML)、 メルマガ天国(HTML)、
MailuX(HTML)、Yahoo!メルマガ(HTML・TEXT)、 MAG Bee(HTML)、 カプライト(TEXT)、
めろんぱん(TEXT)、 マガジンライフ(TEXT)、RSSmag(RSS)