東京湾/夜間飛行
それは神秘的な夜だった。ビロードのような深い夜空には月の姿もなく、星の光も見られなかった。冷たく透き通った風がどっしりとした勝どき橋を吹きすぎて、果てしない夜のとばりの中に消えていった。はるかに見えるビル街の灯りが、眠らない都市の目のように、人間世界を窺っていた。さあ、この静かな夜に、手と手を取り合って翼を広げ、地上から空へとゆっくり浮かび上がり、鳥になって東京湾の夜間飛行を楽しもう。
眼下にとうとうと流れる隅田川。昼間には青空を反射する水面も、夜には舞い踊る黒いシルクの布と化している。水面に近づくと、魚たちが水面から跳ね上がり、水滴があなたの長いまつげにかかる。右には、昼間の喧騒の後に静寂を取り戻したばかりの月島商店街。あたりにはまだもんじゃ焼きの匂いがあふれているようだ。やや高度を上げて、視野を広げてみよう。左側のリバーシティ21と住友ツインビルを通過し、聖路加ビルの個性的なデザインの展望台を過ぎて、佃大橋へと向かう…。
それはロマンチックな夜だった。隅田川沿いの新しい遊歩道では恋人たちの甘いささやきが尽きることがない。欄干の上に一列に並んで羽毛に頭を埋めているのは、鳩だろうか?カモメだろうか?平和な夢の中でまどろんでいる。水面に映る灯りを眺めていると、霧の中の花を見るようにぼんやりとしている。清らかで温かい空気の中に、かすかな冒険と探検のスリルが潜んでいる。
優雅に弧を描いて飛び、晴海トリトンに向かう。ここはショッピングセンターと文化施設、居住空間が一体になった複合施設である。横断歩道のそばには、春になると華やかな姿を見せる八重桜があるが、今は枝の影だけが、遊覧船の停泊する川面に映っている。イルカのイルミネーションが暗闇の中に散見され、彼らはまるで自由にそれぞれの空を飛んでいるかのようだ。
それは温かな夜だった。夜風があなたの美しい髪をなで、私の心を浮き立たせた。私たちは暗い空の中で言葉もなく見つめあってうなずき、心は時空の束縛から解き放たれた。堂々とした晴海埠頭を越え、広々とした海面を越えると、突然天から四方に響き渡るこだまのような音に包まれた。――目の前に現れたのは、大きく広がる東京湾、そしてお台場と芝浦に通じる、誠実さと永遠の幸福のシンボルであるレインボーブリッジであった。
波に揺れる屋形船。ゆったりと流れる尺八の音。さあ、この橋の上に静かに降りていこう。そして、短い夜間飛行を幸せな気持ちで終わることにしよう。444個の赤、緑、白のイルミネーションが、東京湾の上空に、微かに光がさし始めた天幕の下に微かな余韻を与え、私たちを励ましてくれている…。 |