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タイトル:[芸術の価値]フラ・アンジェリコの崇高美が照射する「日本に残るナチス的な病理」  2008/02/06


[芸術の価値]フラ・アンジェリコの崇高美が照射する「日本に残るナチス的な病理」
2008.2.6


<注記>お手数ですが、当記事の画像は下記URLでご覧ください。
http://d.hatena.ne.jp/toxandoria/20080206


【画像】


フラ・アンジェリコ(Fra Angelico/1387-1455)
[f:id:toxandoria:20080206080033j:image]
『受胎告知』 1430年代後半フレスコ画サンマルコ修道院フィレンツェ
「The Annunciation 」late 1430s fresco 150×180cm Museo di San Marco 、Florence


Il Cantar Lontano a Milano. Basilica di San Lorenzo
[http://www.youtube.com/watch?v=C5kFxYZe6yk:movie]


フラ・フィリッポ・リッピ(Fra Filippo Lippi/1406-1469)に劣らずイタリアの初期ルネサンスで重要な画家、フラ・アンジェリコはリッピより20歳年長でした。フィレンツェの北郊フィエーゾレのドミニコ会修道院の修道士であるアンジェリコの作品はいずれも宗教画で、その画面は彼が涙を流しながら描いたと伝えられるほど深く敬虔な信仰心にあふれ、こよなく美しく天上的な清らかさが満ちています。


[f:id:toxandoria:20080206104239j:image]アンジェリコの絵の特徴は、ブルネレスキが原理を発見しマザッチオが初めて絵画に応用した「線遠近法」で画面を堅牢・明快に構築すること、また、濃淡がない光度の強い薔薇色と金色の色彩を好んで使っていることにあります。


[f:id:toxandoria:20080206104842j:image:right]サンマルコ修道院のフレスコ画『受胎告知』の聖母マリアは、受胎を告げる天使の声を率直に聞いて、今まさに平和な心と喜びの気持ちが溢れ出ようとしてい ます。このアンジェリコの『受胎告知』は、“現実”の「神の奇跡」(miracle)を描いており、それを見た者の信仰心は限りなく高められます。それは、言葉よ りも眼の作用を重んじた、この時代の宗教画の役割を最も見事に果たした絵画の一つです(言葉よりもイメージ表象の方が多くを語り、一般の人々に対して 大きな影響力があるということは、情報化社会の現代でも言えることですが・・・)


この絵が描かれた頃は、ジャンヌ・ダルクの出現で「英仏百年戦争」が終りに近づき、ポルトガルのエンリケ航海王子により大航海時代の扉が開かれた時代です。また、ヨーロッパの中央部ではネーデルランド〜ルクセンブルグ〜フランス辺りを支配したブルゴーニュ公国を中心に共通の宮廷文化が広 がった時代でもありました。


[f:id:toxandoria:20080206113053j:image:right]また、14世紀後半から15世紀初めにかけて、ネーデルランドのミニアチュア(写本の彩色画)の影響を受けた「国際ゴシック様 式」と呼ばれる細密で装飾的な絵画様式が生まれていました。


アンジェリコの『受胎告知』には、繊細な“色彩と線の美意識”で描かれた静寂で清澄な空気が、そして庭の草花、柵の向こうの木々の茂み、天使ガブリエ ルの羽根などの細密な描写のなかに、ピサネッロら北イタリアで活躍した「国際ゴシック様式」の画家たちの影響が見られます。


初期イタリア・ルネサンス(初期 フィレンツェ派)を代表しながらも、フラ・アンジェリコは、このような北方(ネーデルランド)絵画との接点が見られるという意味でも重要な画家の一人です。


・・・・・以下、本文=[2008-02-03付toxandoriaの日記:悲しい色やね/地域住民の苦悩を操作するまで“ナチズム化”した自公政権の堕落と狡猾、http://d.hatena.ne.jp/toxandoria/20080203]に対するコメント&レスの転載・・・・・ 


はじめまして。argonと申します。


toxandoriaさまの政治的見識もさることながら、美術史的、音楽史的教養の広さ、深さにかねてから刮目しながら拝読させていただいておりました。


[f:id:toxandoria:20080206113521j:image:left]今回の絵画『受胎告知』を拝見し、ついコメントを差し上げたくなりました。といってもここに掲げられたFrancesco del Cossa(参照、http://d.hatena.ne.jp/toxandoria/20080203) というようなマニアックな画家のものでなく、つとに名高いフラ・アンジェリコのものについてなのですが。


釈迦に説法のようなものなのでしょうが、イギリスにジョン・ファウルズ(John Fowles、1926〜2005)という美術史にとても造詣の深い作家がいます。映画化された『コレクター』(ウィリアム・ワイラー監督、テレンス・ス タンプ、サマンサ・エッガー出演)や『フランス軍中尉の女』(カレル・ライス監督、メリル・ストリープ、ジェレミー・アイアンズ出演、脚本はなんとハロル ド・ピンター)などでも知られていますが、なんといっても『魔術師(The Magus)』(ガイ・グリーン監督、マイケル・ケイン、アンソニー・クイン、キャンディス・バーゲン、アンナ・カリーナ出演)が、最高傑作であると私などは思っています(この映画のDVDを英国から取り寄せて鑑賞しましたが、映画そのものの出来としては残念ながらまこと観るに堪えないシロモノでしたが)。


[f:id:toxandoria:20080206115950j:image:right]主人公はギリシャの小島に英語教師として赴任してきた英国人なのですが、その島全体が、かつてナチスに協力したという噂のあるコン チスという男によって隠然と支配されていたのです。コンチスは途方もない美術史的教養と深甚な哲学的思考、そしてオクスフォード出の主人公を手玉に取るほ どのレトリックの使い手で、この男が自分のために作らせた山荘に、フラ・アンジェリコの『受胎告知』に描かれたものをそっくりそのまま再現したポーティコ がついていたのでした。


後にも先にも、これほどの視覚的、絵画的衝撃を与えられた小説はありませんでした。


[f:id:toxandoria:20080206110135j:image:left]この小説の中 に、主人公がノルウェーの森である神秘体験をするくだりがあり、ビートルズ(というよりジョン・レノン)の『ノルウェーの森』は、この小説からヒントを得 たのではないかなどと私は勘ぐっているのですが(あるいは逆かも。どちらも1965年に発表されています)、いずれにせよ、村上春樹の小説の地下水脈には ジョン・ファウルズが流れているだろうことは疑いのないところです。


ノーベル文学賞を得てからファウルズは歿するだろうと私は予想していたのですが、残念ながらそうはならず、むしろ村上の方が、彼の年齢からしてこれから受賞する可能性をいわれたりもしていますが、私としてはあまり釈然としない話です。


argonさま、コメントありがとうございます。


[f:id:toxandoria:20080206121433j:image:left]映画化されたジョン・ファウルズの『コレクター』は観ていませんが、『フランス軍中尉の女』は大変に強い印象が残っています。もっとも、これもメリル・ストリープ(とても好きな女優さんです)の演技に感動したためですが・・・。


[f:id:toxandoria:20080206120647j:image:right]ご紹介いただいた『魔術師』のストーリーから、なんとなくウンベルト・エーコの『薔薇の名前』を連想してしまいました。ぜひとも原作を読んでみたいと思います。この映画は“観るに堪えないシロモノ”とのことですが、ピーター・グリーナウエイ監督(参照、http://d.hatena.ne.jp/toxandoria/20060115)なら、どうだったでしょうか?


[f:id:toxandoria:20080206081049j:image:left]ピーター・グリーナウエイといえば、2006年に海外で公開された映画『レンブラントの夜警』が日本で未公開なのが残念に思っているところです。


もう十年ほど前のイタリア旅行で、サンマルコ修道院の階段を上り、その正面の壁に、憧れていたフラ・アンジェリコの『受胎告知』を初めてこの眼で観たときの感動が忘れられません。大分前に別のHP(現在、壊れて休止状態)でフラ・アンジェリコ『受胎告知』について書いた内容を上に画像を付けて転記しておきましたので、ご笑覧ください。


[f:id:toxandoria:20080206082014j:image:left][http://www.youtube.com/watch?v=n_2PEWX_h-M:movie]


また、フラ・アンジェリコの絵をとても効果的に使っていた映画『太陽がいっぱい』(ルネ・クレマン監督/アラン・ドロン主演、モーリス・ロネ、マリー・ラフォレ共演)を思い出しました。そのイタリアらしい(フランス映画ですが・・・)映像美の魅惑的な場面が忘れられません。


[f:id:toxandoria:20080206081544j:image:right]『魔術師』の登場人物コンチスからナチス・ドイツの国民啓蒙・宣伝省大臣ゲッペルス(プロパガンダの天才)を連想してしまいました。周知のとおり、ハイデルベルク大学で文学博士号を得たインテリであったゲッペルスは、青春時代における厳しい挫折経験から、知遇を得たヒトラーの下でファナティックで特異な美意識の中にのめり込んだようです。


[f:id:toxandoria:20080206105517j:image:left]そして、例えばその“成果”の一つが「退廃芸術展」(参照、http://d.hatena.ne.jp/toxandoria/20070418)であり、あるいはユダヤ人の追放(特に芸術分野から始まった!)であり、あるいはナチスの映画制作独占などによる芸術・文化全般の国家独占体制の完成です。


ここでは、やはりhttp://d.hatena.ne.jp/toxandoria/20080203でも取り上げた「センチメントの問題」が繋がってくるような気がしております。天上的なものと悪魔的なものは、やはり紙一重なのだろうかと思います。が、未だその機序については十分に理解ができておりません。なお、「アートと社会」というブログ・テーマを掲げた訳も、実はこの辺りにあります。


<注記>sentiment(独Gefuehl)について、http://d.hatena.ne.jp/toxandoria/20080203より転記
sentiment(独Gefuehl)は「理性ではなく感情に影響されつつ揺れ動く思考・判断、つまり苦悩や喜怒哀楽の中で堅実に生き抜く国民一般の日常生活における心情」の意味。なお、ドイツ語のfuehlenには「感じる、触れる、美化する」などの意味があり、同じくfuehrenには「連れてゆく、先頭に立つ」の意味がある。また、der Fuehrer(総統)はナチス指導者としてのヒトラーの称号。


[f:id:toxandoria:20080206111148j:image:left]それから、argonさまの「ノルウエーの森」についての連想の広がりに大変興味が湧いています。イギリスの作家カズオ・イシグロ原作の映画『日の名残』(ジェームズ・アイヴォリー監督)、米国籍ながらイギリスを舞台にした映画づくりにこだわるジェームズ・アイヴォリーの『眺めのいい部屋』、『ハワーズエンド』、『上海の伯爵夫人』なども印象に残っています。


これらの原作と映画には、直接的なモチーフとはなっていないものの、どうも考古学、歴史、美術史(美学)などの気配が充満しているようであり、その奥底には、ケルト的古層のイメージのようなものが染み込んでいるのではないかと空想しております。また、それは現代のEU(欧州連合)という独特のポリアーキー型統治システムの基盤イメージに繋がるものがあるのではないか、とも思っています。


いずれにしても、下のニュース(◆)に見られるような「ナチス的なもの」を欧州(ヨーロッパ諸国)は、とっくに卒業していると思われます。これは自国民らに対するDV(Domestic Violence)のような感覚ではないかと思います。ジョージ・ソロスの指摘もこの辺にあるようです(参照、http://d.hatena.ne.jp/toxandoria/20080203)。


Dalida and Alain Delon - Paroles Paroles
[http://www.youtube.com/watch?v=avUC5gMDTKQ:movie]


『太陽の季節』の芥川賞作家・石原慎太郎は、いつまで経っても“障子紙を突き破った自己の屹立したマッチョ・パワー”(=“かつての美しい国”へ向けられた“追憶のカルト”の象徴/参照、http://d.hatena.ne.jp/toxandoria/20070514、http://d.hatena.ne.jp/toxandoria/20061106)に自惚れているように見えてしまいます。コミュニケーション・ギャップのレベルで、今の日本は間違いなく“世界の孤児”となりつつあります。そして、いつまでも、このような“考古学的検証にこそ値する人物(現代日本のゲッペルス?)を首長に据えている東京都民”は大いに恥ずべきだと思います。

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