ヨーロッパ紀行の本の中で、こんな一節を読んだことがある。
スコットランドのエジンバラでは、公園や駅、あるいは街のあちこちに、誰でも休息できるベンチが置かれている。これらのベンチには銅プレートがついていて、「ハリー・スミスを記念して、その妻マーガレットより。すべての人がここで休んで満足してくれますように。」「ルーシー・ハット教授(1985年7月1日没)を偲んで、エジンバラ芸術学院音楽学部寄贈」「親愛なる夫のコンガリン・ジョンをしのび。彼はかつてここで幸せな時間を過ごして、彼は深くこの都市を心から愛します。」など、寄贈者のメッセージが刻まれている。
エジンバラのベンチは、声なき声で、個人への思いを社会全体への愛に転換している。通りすがりの人が偶然ここで休息すれば、身体を休めるだけでなく、心の底にある人生への愛や思いが呼び起こされるのだ。
それと似たものを、去年の年末、東京都立の公園で見つけた。そこには、「思い出ベンチ」が設置されていたのだ。ベンチには銅プレートがはめ込まれ、このように刻まれている。「私達を魅了し続ける愛すべき張国栄の音楽と映画、人生のすべてに、感謝をこめて。Leslie Cheung Fans」
日本のレスリーファン120人がお金を出し合って、緑陰の下に静かに設置したこのベンチがこれから迎えるのは、仲のよい恋人たちだろうか?それともおなかの中の赤ちゃんを待っている母親だろうか?昼休みにつかの間の休憩を取るサラリーマンだろうか?帰る家を持たないホームレスの人だろうか?それはわからないけれど、ここが優しく心地よい場所で、静かに安らげる港であることは間違いない。なぜなら、ここに集められているのは、国境を越え、時間を越えた深い真実の愛なのだから……。 |