メルマガ:toxandoriaの日記
タイトル:【修正・補筆版】市民の厚生を見据えるEU、軍需利権へ媚びる日本/リスボン条約の核心は「貧困」の克服  2007/12/28


[希望のトポス]【修正・補筆版】市民の厚生を見据えるEU、軍需利権へ媚びる日本/リスボン条約の核心は「貧困」の克服
2007.12.28


<注記1>

当記事の内容は、いったんUPしたものですが、テーマである「貧困」について説明不足があったため部分的に補筆して再度UPしておきます。補筆したのは、下記の<注記2>と、末尾にある(最低賃金の引き上げに関する基本認識の変更=絶対的貧困拡大への歯止めとして重視)の二ヶ所です。


<注記2>EUにおける「貧困」についての理解

加盟国と移民流入の数が拡大するEUでは、「相対的貧困」(一領域内での格差拡大)のみならず、「絶対的貧困」(極貧層の存在)の救済が明確な課題として視野に入っており、その先駆的動向の在り処としてドイツを注視すべきである。


<注記3>お手数ですが、当記事の画像は下記URLでご覧ください。
http://d.hatena.ne.jp/toxandoria/20071227


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【画像0】What a Wonderful World - Louis Armstrong


[http://www.youtube.com/watch?v=vnRqYMTpXHc:movie]

【画像1】ミュンヘンの風景、4月(メモワール2007)


[f:id:toxandoria:20071227214541j:image]ほか


【画像2】ガルミッシュ・パルテンキルヒェンの風景、4月(メモワール2007)


[f:id:toxandoria:20071227215003j:image]ほか

【画像3】フュッセン・シュバンガウの風景、4月(メモワール2007)


[f:id:toxandoria:20071227215101j:image]ほか

【画像4】ローテンブルク・オプ・デア・タウバー の風景、4月(メモワール2007)


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【画像5】ハイデルベルクの風景、4月(メモワール2007)


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【画像6】ライン川クルーズの風景、4月(メモワール2007)


[f:id:toxandoria:20071227215720j:image]ほか


・・・以上の画像は、当記事の内容と直接の関係はありません。


・・・・・・・・・・・・・・


[グレシャムの法則から見える新自由“原理”主義の軽挙妄動]


下記『〜〜〜〜〜』の部分は[2006-07-25付toxandoriaの日記/ワーキング・プア社会を放置する「日本の政治権力者と御用学者の底なしの貧困」、http://d.hatena.ne.jp/toxandoria/20060725]の一部を再録したもの(部分的に加除・修正)です。


『 「悪貨は良貨を駆逐する」(グレシャムの法則)・・・これは、16世紀のイギリスの財政学者グレシャムがエリザベス1世に提出した意見書の中の言葉として有名です。「金の含有量が標準金貨より少ないものが悪貨ですが、それと比べて、良貨(標準金貨)は貯蔵されたり地金として転用されたりするため、結局、 “標準となる金貨”は、絶えず市場から姿を消す圧力に晒される」ということです。


少々その意味を援用すると、どうやらこの法則は人間の心にも当てはまるような気がします。例えば、「A 政治権力に安易に身を委ねる御用学者(特に科学者と経済学者の弊害が大きい)、B 直ぐ先制攻撃論に突っ走る政治家、C 支持率・視聴率になびくマスコミ人、D そして上辺の姿だけで政治家を支持しようとする国民、E 次々と妖しげなカルト宗教、偽装ビジネスなどが生まれるという傾向」云々と、事例を枚挙すると限りがありません。


この「人間にかかわる法則らしきもの」の根本にあるのは「自分の死(徹底的な敗北)に対する恐怖」だと思います。そして、特に「A」と「B」が直接的に被害が大きいという意味で危険性が高くなります。無論、ボディブローのような効き目があるので、「C」「D」「E」なども看過はできませんが・・・。この「自分の死(徹底的な敗北)に対する恐怖」(大いに気弱で臆病な心)は、とても大きな心理的パワーなので誰にとっても抗い難く、それ故にこそ、それはほんの些細な切欠で悪魔に身を委ねる原因と化してしまうようです。


特に、科学の世界で恐ろしい事例を垣間見せるのが「原子物理学」や「遺伝子組換技術」などの分野です。「原子物理学」の事例については、著書「『原発』革命」で古川和男・博士が指摘するとおりのこと(=より安全な原子力技術の可能性が特定の政治権力によって葬られたこと)であり、「遺伝子組換技術」については、例えば、いま日本の国家プロジェクトとして行われつつある“異種植物に由来する抗菌物質(ディフェンシン)をイネに組み込む研究”の事例があります。前者による地球上の危機の拡大は言うまでもありませんが、後者も、恐らくは日本人の食生活の根本に致命的な打撃を与える可能性があると思われます。


この分野に少しクビを突っ込んでみて感じたことは、結局、科学者の世界も一般国民と同様に「グレシャムの法則」に支配されているということです。ただ、厄介なことはあまりに彼らの棲む世界が専門化・タコ壷化しているため、殆んど“ド素人である他人”の介入する余地がないように見えることです。ただ、そこにあるのは「自分の死(徹底的な敗北)に対する恐怖」の裏返しである「おぞましくも、ひたすら我を張り合うだけの頭脳明晰な科学者たちの世界」です。


その一方で、最近の世界銀行の報告によると、世界人口の約半分にあたる30億人は “1日2ドル以下という極貧の生活”に喘いでいます。その約70%はBRICS諸国に集中しており(残りの約半数は“1日1ドル以下の極々貧”で、それはサハラ以南のアフリカ諸国に集中)、しかも、そのBRICS諸国では貧富差二極化の拡大傾向が急速に進んでいます。


どうやら、ワーキング・プア現象の広がりは日本だけの現象ではないようなので、世界規模の貧困拡大現象と連動する観点から見据える必要があるようです。そこに浮上するのが「小泉構造改革」(軽挙妄動的なトリクルダウン主義の導入)を後押しした「新自由“原理”主義思想」なる“カルト経済学の限界(=より厳密に言うならば、壁に突き当たった修正資本主義をブレークする手段としての“新自由主義思想の一定の役割”の限界を超えたことによる重篤な副作用)の問題”です。


日経ネット・ニュースなどによると、7月24日、世界貿易機関(WTO)に加盟する日米欧など主要6カ国・地域の閣僚会合は妥協点が見いだせず終了したようです。これで多角的通商交渉(ドーハ・ラウンド)の貿易自由化ルールを巡る交渉は決裂したことになりますが、この問題の根本には「新自由“原理”主義思想」(=トリクルダウン幻想、http://d.hatena.ne.jp/toxandoria/20060122)の限界ということが潜んでいます。しかも、世界の貧困拡大を制御するという大義から編み出された「スイス・フォーミュラによる関税賦課方式」と「UR方式」との対立などは、まさに“数理経済分野の専門家による神学論争状態”で肝心の「世界の貧困問題解決」からは遠ざかる一方です(関連参照/宮城大学教授・大泉一貫氏の論文、http://ohizumi.jp/tyosyo/tyosyo.htm)。  』

[一般市民の人権・厚生は二の次で、ブッシュ&米国軍需産業へ媚び続ける歴代・日本首相]


今、我われが特に忘れてならないのは『現在、OECD(経済協力開発機構)に加盟する先進二十四カ国の中で、日本は所得格差を示す「相対的貧困率」(所得二極分化の拡大傾向を示す指数/定義=可処分所得(等価換算)の中央値の半分の金額未満の所得しかない人口が全人口に占める比率/下記の<注記>を参照乞う)がアメリカに次いで二番目に高い』という驚くべき( or 悲しむべき?)現実です。この指数に関する専門家らの異論は色々とあるようですが、それはともかく、いやしくも先進国の一員を標榜する日本政府は、この現実を大いに恥ずべきだと思います。


<注記>経済協力開発機構(OECD)が2006年7月20日発表した「対日経済審査報告書」(参照、http://www.oecdtokyo2.org/pdf/theme_pdf/macroeconomics_pdf/20060720japansurvey.pdf)は日本の<所得格差の拡大>が経済成長に与える悪影響(その成長の中身の余りのアンバランスぶり)に懸念を示しており、特に所得が低い「相対的貧困層」の割合(2000年)は、OECD加盟国の中で日本が米国に次いで2番目に高く(最も高い米国13・7%、日本13・5%、次いでアイルランド11・9%)、非正社員の増加などがその背景にあると分析している。因みに、内閣府が12月26日に発表した国民経済計算によると(出典:読売ネットニュース、http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20071226it11.htm)、日本の国民1人当たり(名目)国内総生産(GDP/2006)は前年比4・0%減の3万4252ドル で経済協力開発機構(OECD)30か国の中で18位となり、フランス、ドイツ、カナダに抜かれ前年の15位から更に順位を下げた。


そして、過去に書いた下記の記事(★)での分析などを省みれば、現代日本の政治・経済システム(=歴代日本政府(小泉・安部・福田)の施策)が一般市民(一般の日本国民)のリアルな生活面へシッカリと目を向けて、その厚生(人間として生きることができる最低限の権利の保証/特に、経済権にスポットを当てた基本権に関わる施策)の充実・改善およびベルアップを目指しているとは、とても思われません。ズバリ言えば、経済協力開発機構(OECD)から、この余りにも異常な『奴隷工房型・経済社会化』の拡大傾向(上記の歴代日本政府の施策がもたらした)を指摘されたということです。従って、今や、この点の是正へ力点を置いた改善策への取り組みこそが政・財・官・学が総力を挙げて取り組むべき愁眉の重要課題であるはずです。


然るに、現実に行われているのは、例えば『キャノン(御手洗会長/日経連会長・兼務)=鹿島建設(ゼネコン/トップ企業)=大分県(知事/元通産・高級官僚)=政治家=学(専門コンサル)絡みの巨額使途不明・脱税事件』に見られるような“裏金づくり”に繋がる「ネコババ・スキャンダル」(参照、下記★★)か、あるいは米国ブッシュ政権&米国軍需産業へ媚びた国家予算の蕩尽(国民、市民の厚生など“屁の河童”の“戦争ゴッコ”のための壮大な無駄遣いと悪徳政治家&官僚の私服肥やし支援事業(埋蔵金を隠した特別会計など)/参照。下記★★★)ばかりです。このように私腹と仲間益を肥やしつつ労働者を使い捨てにするばかりという意味で、日本の経済界を代表する立場にある日本経団連も新自由“原理”主義の軽挙妄動を率先して繰り返すばかりとなっています。


更に驚くのは、最近の動きの中に、その仮想敵であるはずの北朝鮮(今や、その利害は日米・両政府と一致したのか?)までもが、ひたすら一般の日本国民を騙しつつ脅し続けるために、この「悪徳まみれの日米友好同盟」にタイミングよく加担している節さえ感じられ(半ば、石破・三白眼ゆえのトラウマかも?)ます(関連参照、下記ニュース記事◆)。これでは、日米軍需産業関連の「ネコババ・スキャンダル」が闇の中で一層はびこり、石破・防衛相のオドロおどろしい三白眼の淫靡(隠微?)な凄みがイヤ増すばかりです。


★2007-12-04付toxandoriaの日記/『国家的ネコババ』に煽られつつ右傾化してきた日本国民の悲劇の深層、http://d.hatena.ne.jp/toxandoria/20071204


★★2007-12-10付toxandoriaの日記/福田総理『あわわわわ〜!』の背後から続々と噴出する裏金づくり「闇の構図」、http://d.hatena.ne.jp/toxandoria/20071210


★★★2007-12-20付toxandoriaの日記/日本政府の「不都合な真実」を覆い隠す「海上迎撃ミサイル(SM3)成功=称賛」のニュース、http://d.hatena.ne.jp/toxandoria/20071220


★★★2007-12-08付toxandoriaの日記/福田総理が『あわわわわ〜!』で掻き消そうとする防衛疑獄と特別会計の闇の深さ、http://d.hatena.ne.jp/toxandoria/20071208


★★★2007-12-06付toxandoriaの日記/国家情報評価に透ける“日米軍事同盟”原理主義、http://d.hatena.ne.jp/toxandoria/20071206


◆『北朝鮮、海自のMD実験成功を論評 「分別ない妄動」』、http://www.asahi.com/international/update/1226/TKY200712260059.html


ところで、「悪貨に靡(なび)き易い人々の代表」として、上では主に科学者・数理経済学者を槍玉に挙げましたが、どうやらその他の専門家の方々、つまり多くの“政治学者・経済学者・ジャーナリスト・経営者”らも、実は「悪貨になびき易い人々」の仲間であったようです。それは、12月13日に調印された『リスボン条約(EU新基本条約)』という歴史的な偉業とも見なすべき“良き出来事”(=良貨)への日本での関心が余りにも小さ過ぎることに現れています。しかも、それは過半以上のマスメディアの報道姿勢(リスボン条約への無関心ぶり)に現れており、そのことは、この特筆すべきビッグニュースをまともに大きく取り上げたのが(今のところ知り得る限りのことではありますが・・・)日経・朝日の二紙だけであったと思われることに象徴されています。

[リスボン条約(EU新基本条約)の意義=民主主義の基盤たる相対的貧困の克服を目指す強い意志]


【画像7】リスボン条約調印式の風景(ウイキメディアより)


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(リスボン条約の骨子)


<注記>この概要は、日経・朝日の記事などを参考に纏めたもの。リスボン条約の詳細については下記URL■を参照。


■リスボン条約(英文)、http://www.consilium.europa.eu/igcpdf/en/07/cg00/cg00015.en07.pdf


[骨子]


(1)単一の国際法人格を賦与する。・・・国際法人格を有することで、EUとして条約を調印することができるようになった。


(2)EUの政策分野を拡大する。・・・2014年以降の欧州理事会における「特定多数決方式」(詳細は下記(4)を参照)で表決対象分野を拡大する。


(3)政策の一貫性を確保するため任期2年半のEU大統領(常任議長)を創設・・・加盟国の批准を経て、2009年1月1日の発効を予定する。このため、大統領は2008年秋を目処に選出する。


(4)EU外交・安全保障上級代表を設置・・・EU加盟各国の外交政策を統括する。


(5)加盟国数とEU総人口を基準とする特定多数決方式(Qualified Majority Voting/QMV)を2017年までに全面導入する。当面は、特定の法律制定のためにQMVを、それ以外は理事会加盟国の全会一致を用いる(参照、http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%89%B9%E5%AE%9A%E5%A4%9A%E6%95%B0%E6%B1%BA%E6%96%B9%E5%BC%8F)。


(6)欧州委員定数、欧州議会議席数を削減する。・・・欧州委員会委員の人数を削減する一環として共通外交・安全保障政策 (CFSP) 上級代表と欧州委員会対外関係・近隣政策担当委員の統合がなされて、表記の上級代表は欧州委員会の副委員長となり外交を一手に引き受ける。


(7)欧州基本権憲章は各国の法規定内で適用される(参照、下記の『関連資料』)。


『EU基本権憲章』、http://www.max.hi-ho.ne.jp/nvcc/FE5.HTM


『EU基本権憲章」の制定経過とその特徴』、http://www.max.hi-ho.ne.jp/nvcc/FE4.HTM


(6)旗・歌などEUの象徴に強く言及しない。・・・既に使われている欧州旗は条文からは除かれたものの今後もEUのシンボルとして使用されることになっており、欧州議会でもそのことは確認されている。ただ、それを掲げるか否かは各国の自由意志に任されることになる。

[今後の課題は批准と国民投票の動向]


(1)現時点でリスボン条約を国民投票にかけることが決まっているのはアイルランドだけ。EU支持の割合は約8割と高いが、2001年に「ニース条約」をいったん否決した実績がある。このため、EUは、市民の反発を抑える狙いからEU法令に違反した加盟国への制裁を緩めることを検討している。


(2)欧州大陸と異なるコモンローの伝統の国・イギリスの批准問題・・・国内にはメディアの一部などから国民投票を求める声もあるが、ブレアとその後任のブラウン首相は、リスボン条約ではEUとしての外交政策やコモン・ロー(基本権憲章がイギリスに対して法的効力を持たない、イギリス伝統の慣習法の内容)、社会政策、税法について「拒否権」が残ることから「コモンローに対するレッド・ライン」を越えていないとして国民投票の実施は必要ないと主張している。

(調印までに強いリーダーシップを見せた議長国ドイツ・メルケル首相)


【画像8】ドイツ、アンゲラ・メルケル首相(2007年6 月、欧州理事会で条約策定の仲介でリーダーシップを発揮/ウイキメディアより)


[f:id:toxandoria:20071227220339j:image]


2007 年6月21日に欧州理事会の会合がブラッセル(ブリュッセル)で行われ、ここでオランダとフランスの国民投票で拒絶された欧州憲法条約に代わり「新条約」を作成することが迅速に合意されました。それは、明らかにこの会合が議長国ドイツのアンゲラ・メルケル首相の議長としての強いリーダーシップによって運営された結果です。そして、他の様々な分野に関する議論は手早く行われ、その後の「新条約についての協議」が6月23日の午前5時まで熱心に続けられた結果、政府間協議(IGC)に付託する16ページにわたる文書の合意が纏まりました。


ドイツの後を受けて議長国となったポルトガル(ジョゼ・ソクラテス議長)は、このように用意周到なドイツの準備作業を土台として「欧州連合条約および欧州共同体設立条約を修正する条約草案」と題した「条約本体文書(145p)」と「12の付帯議定書(132p)」およびと「51の宣言書」を提示し、起草作業の開始点として欧州連合理事会のウェブサイト 上に公開することができました。


この準備段階での議長国ドイツ(メルケル首相)が強いリーダーシップを発揮した背景には「ドイツ流の“優れた妥協点”を導き出す政治能力」の存在があると思われます。ドイツ民主主義のスタートラインには、やはり「ワイマール憲法下での抜き差しならぬ過激な左右対立の間隙からナチズムが生まれてしまった」という痛い教訓があるようです。


ただ、このような意味での妥協の原則はドイツのように「絶対に偽装政治を許さぬ」という市民意識が定着していることが前提となります。現在の日本のように次から次へと偽装が暴露され続けて当然とする社会・政治環境では早計です。また、このような妥協の意識にとって大切なもう一つのポイントは「市民の健全な政治参加意識」が存在するということです。


現代日本のように、未だにかなり多くの人々が“金権選挙で妥協するのが民主主義”(=公正・公平・客観よりも身内や仲間内の利益の方を絶対的に優先すべきという意味での“広義の金権選挙意識”が重要)だと思い込んでいる有様では、このような意味での“ドイツ流の妥協点”を導き出す手法は、とうてい通用し得ないことです。別に言うならば、これは「自ら正しくモノごとを考えることができるようになる市民をつくるための教育の問題」でもあるのです。

(世界平和への最短距離=環境配慮型・持続的経済と相対的貧困の克服)


リスボン条約(EU新基本条約)の意義が民主主義の基盤たる「相対的貧困の克服」を目指す強い意志の存在だと見なすべき根拠は、主に次のような点にあります。


(1) 54か条からなる「EU基本権憲章」(表記[骨子]-(7)を参照)には、EU市民の政治・社会・経済に関する権利がうたわれています。そして、同憲章ではEUの規則や指令が、EUのすべての加盟国が批准している人権と基本的自由の保護のための条約に反してはならないとされています。


(2)より具体的に、この意味するところ(=EU市民にとっての具体的なメリット)を見ると次のようになります。[出典:庄司克宏著『欧州連合、統治の論理とゆくえ』(岩波新書)]


a  EU加盟諸国への旅行や移住が非常に容易になる。・・・域内国境管理が廃止され、パスポート・チェックや税関チェックが不要となり、一カ国で発行された運転免許証もすべての加盟国で有効になる。また、移住先の国での福祉などは、その国の国民と平等の待遇を受けることができる。移民政策の統一も検討される可能性がある。


b 加盟国の労働者の権利が手厚く保護される。・・・賃金やその他の待遇で男女間の平等が確保され、パートタイム労働者もフルタイム労働者と同一の権利を付与される。労働時間に関しては、すべての加盟国国民は、年間に少なくとも4週間の有給休暇が与えられる。出産育児休暇もEU全域で設定される。


c 域内市場での競争により、消費者としてのEU市民に恩恵がもたらされる。・・・今まででも航空運賃の低下、航空ルート数の増加、EU内国際電話料金の低下など様々な恩恵がもたらされた。


d EU全域で物やサービスの自由移動が達成されることにより価格が下がり、消費者の選択の幅が広がる一方で、「EUによる規制」で消費者は保護される。例えば、食品に使用される原料や添加物は遺伝子組み換え成分を含め、すべて記載されることになる。


この他に安全保障などの国際公共財の利益もありますが、一般市民は未だにEUがもたらす「利益と負担の収支」を実感する段階までは到達していないと思われます。例えば、GDPのEU平均を100としてEU域内の経済格差を見ると、最裕福なルクセンブルク(280)に対し最貧国ブルガリア(37)となります。このため、拡大EUに不安を覚える向きも存在しますが、EUはそのような不安を上回る利益をEU市民に対して着実にもたらしつつあると考えられます。


特に、2007年夏以降に急にクローズアップされたアメリカのサブプライム・ローン問題で浮上した「ドル凋落」(=果てしないドル不信の広がり)に対する「ユーロ優位」のリアルな構図が見えています。例えば、ユーロの採用によって次のようなメリットが生まれています)。[出典:倉都康行著『金融史がわかれば世界がわかる』(ちくま新書)]


●EU域内での為替リスクがなくなり、金利差と株価収益率の期待値だけを尺度とする資金運用が可能となる。・・・EU域内では為替変動という厄介なリスクなしで安定した投資行動が取れるようになる。


● ロンドンを中心とする欧州資本市場におけるユーロの利用頻度の急上昇が見られ、1999年のユーロ導入以降、ユーロ建ての債権発行が急増している。・・・ 2003年にはドルが1兆1695億ドルに対し、ユーロが1兆2891億ドルと逆転し、その後、その差が拡大している。


●アラブ産油国、インド、中国など北米・欧州以外の地域の資金調達者たちがドルよりもユーロを選び始めた。・・・2004年・第一四半期にはドルが339億ドル、ユーロが412億ドルと逆転しており、その後、この開きは拡大傾向を辿っている。


ごく大雑把な見方になりますが、およそ1980年代ころまでの国際金融の歴史では、実体経済の発展と金融市場規模の発展は、ほぼ歩調を同じくしてきたと見なせます。しかし、1990年代以降から現在に至るプロセスでは、両者の歩みは明らかに大きく乖離し始めました。それは、1980年代ころまでの貿易取引中心の時代の金融力の役割が主に貿易決済と短期金融市場でのファイナンスに限られていたからです。


しかし、1990年代以降の「資本取引中心の時代」(下記<注記>を参照)に入ると金融の内容が急速に多様化し始め、圧倒的な経済力を持つというだけでは、その覇権力が維持できなくなっています。当然ながら、現在の「ドル凋落」(2002年の高値時と比べたドルの下落率=対ユーロ“40%超”減、対円“20%”減/情報源: 2007.12.27付・朝日新聞)と「ユーロ優位」の状況は、このような金融ファイナンス内容の変化・多様化という世界的潮流の変化の中で見るべきです。


しかも、それだけではなく、やはりこのような金融パワーの動向を確実に見据えていた「EUの先進的構想力」の優越性の問題があると考えられます。一途なまでの健気さでピッタリとドルに寄り添ってきた(=実は、一般市民の人権・厚生は二の次で、ブッシュ&米国軍需産業へ媚び続けてきた)我が日本でも、漸く、財務省が「ドルが基軸通貨の座を失う可能性についての研究」に秘密裏に着手したという情報がありますが、「EUの先進的構想力」に比べれば時すでに遅しの感があります(情報源:2007.12.19付・日本経済新聞)。つまり、このような先見性にかかわるEUと日本の格差は余りにも歴然たるものがあります。


<注記>1990年代以降の資本取引における二つの方向である「ハンズオン型ファンド、ハンズオフ型ファンド」について


「ハンズオン型ファンド(Hands-on )」
:経営参画型の企業投資のことで、その参画の範囲はファイナンスの側面だけではなく経営ビジョンの構築ほか凡ゆる業務に及ぶ。(例)事業再生投資、プライベート・エクイティ(Private Equity/投資後に収益力を高めて上場・売却する)、M&A(Mergers and Acquisitions/事業買収・合併)、MBO(Management Buy-Out /従業員などによる経営権の買収)など


「ハンズオフ型ファンド(Hands-off)」
:様々な形での証券投資のこと/渦中の米国サブプライム・ローン(低格付個人に対する住宅融資債権の証券化)もここに入る。なお、サブプライム問題は、 2008年以降に貸付金利が急に上昇する条件のものが多いため、今後さらに悪化する恐れがある。このサブプライム・ローン問題は「相対的貧困の拡大」を犠牲にしてまで更なる消費(需要)を煽り続けるという、市場原理主義時代における「アメリカ型ビジネスモデルの病的な側面」(=詐欺的ポンジー金融の本性/ ネズミ講金融の本性)が露呈しています。


ともかくも、グローバル市場主義経済の流れが誰にも止められぬものである限り、絶えず「先見的構想力」を創造しながら、厳格な視点で地球環境へ配慮しつつ持続的経済の発展へ意欲的に取り組んでゆくというのが「EUの先進的構想力」の根本となっているようです。しかも、そこではアメリカのように「市場原理主義時代の暴れ馬」が疾走するがままに放任すれば、必然的にEU市民の基本的権利が脅かされるため、結果として「相対的貧困が拡大する」ことが大きなリスクとしてシッカリ視野に入っています。そのためにこそ、表記の『EU基本権憲章』が明確に位置づけられている訳であり、積極的・先見的な金融・経済政策とともに厳格な「EU規制」が工夫され続けている訳がここから読めるはずです。


そして、この地球上で急速に進みつつある「貧富差二極化の拡大傾向」(=相対的貧困の拡大傾向)を解決することこそが、世界平和への最短距離であることも「EUの先進的構想力」の視野に入っています。この点について、我われ日本人は軽視すべきでないと思われます。2年前のオランダとフランスの国民投票の結果によって拡大EU憲法が頓挫したとき、大方の日本の知識人たち(政治家・官僚・学者・メディア・経営者など)は、『EUは死んだ!』とほくそ笑んだはずです。しかし、今や、“市民参加型のEU構想の完成”は目前の圧倒的な現実となりつつあるのです。

[日本政府が標榜する価値観外交の二枚舌ぶり、日本に欠落する視点(対EU)]


(日本政府が標榜する価値観外交の二枚舌ぶり)


今まで見てきたことから、おそらくEU構想の根本には『現在の我われが在るのは過去の人々のおかげであるとともに、未来の人々の生存を保証するためでもある』という「正当な歴史観と倫理的な使命感」が根付いているのではないか、と思われます。無論、そこで特に大きな役割を担ったのが、先に見たとおり、改革条約づくりの準備段階でのアンゲラ・メルケル首相であり、メルケル首相が行動で示したのは「ナチス・ドイツ時代の戦争体験」から学び取った「世界平和実現への不退転の意志」と、それを具体化するための強いリーダーシップということです。より今風に言い換えるならば、それは『新自由“原理”主義の軽挙妄動の為すがままに政治・経済・金融を放任するならば、再びこの世界は戦争状態へ突入する』という真剣な危機意識です。


このようなドイツの政治家の先見的意志と比べると、我が日本政府の政治意識のお粗末さが際立ってきます。例えば、安部政権以降、日本政府は公式に「価値観外交」を対外的に標榜しています。この「価値観外交」の中身は“普遍的価値=自由、民主主義、基本的人権、法の支配、市場経済”ということであり、文字通りにこれを解釈するなら、それはそれで大変に結構なことです。ところが、お粗末なことにも安部・前総理ら日本を代表する政治家の方々の実際の脳髄の中身は”衣の下に鎧を身に着ける”というものであったのです。安部の「美しい国」の矛盾が綻びたことで、この実像(=アナクロな軍事国体論)が全世界へ向けて発信されてしまったのです。


現在の“あわわわ〜!”と訳が分からぬ言葉を多発する福田政権も”衣の下に鎧を身に着ける”という点では変わっていないと思われます。例えば、首相が謝罪したとはいうものの「薬害C型肝炎問題」では、なかなか“薬害を発生させた責任”をスンナリ認めようとはしていませんし、「沖縄戦の集団自決についての教科書記述問題」についても、結局は“軍の強制”のコトバは梃子でも書かせぬ意志を貫きました。やはり、これらに共通するのは「EUの根本理念」とは似て非なる、日本政府の「市民(国民)の上に立つ御上意識=戦争体験の反省がない非人権的意識」(←日本政府に対するアナクロな極右勢力の影響力が大きい)ということです。このような観点からすれば、現在の日本政府が標榜する「価値観外交」なるものは恐るべき二枚舌ということになります。

[EUに比べ、特に日本に欠落する視点の実例]


EUに比べて日本に欠落する視点ということになると切がありませんが、ここでは特に「格差拡大の是正に」かかわると思われる根本的課題を挙げておきます。


(人的資本形成の視点)


● 「拡大するばかりの格差」を是正するための根本として、人的資本形成の戦略を根本から練り直すべき。特に、モチベーションやコミュニケーション能力などを育む「義務教育に就学する前の段階」への投資が重要であり、この部分に対する日本の支出額は、先進国の中で最低水準[情報源:2007.12.18付・日本経済新聞]。


●例えば、イギリスのブレア政権(労働党)は「人間を社会正義を実現するための資本と見なす」ことを前提として教育改革に取り組み、結果として国全体の競争力強化を目指すため、幼少期の家庭環境の改善に取り組み一定の成果を上げている[出典:山口二郎著]『ブレア時代のイギリス(岩波新書)』。


(フレキシキュリティ=積極的労働市場政策の視点)


●日本社会に適応した「積極的労働市場政策」(デンマーク・モデル=フレキシキュリティ等を範とする)を具体化することが重要である。フレキシキュリティ(Flexiculity)は「Flexibility」と「Security」から創られた新しいコトバで、今やEU(欧州連合)における雇用問題に関する議論では無視できない重要な概念となっている。


●具体的には、1993年からデンマークで取り組みが行われた「労働市場改革=積極的労働市場政策」(デンマーク・モデル)に対する呼び名として使われてきた。それはグローバル市場原理主義のネガティヴな部分(副作用)を緩和・抑制する一方で、積極的にグローバリズムのアクティヴな部分(経済活性化への刺激となる点)を生かそうとする試みと見做すことができる。


●その最も肝要なポイントは、「単なる雇用創出の掛け声ではなく、政治・行政・アカデミズム及び企業が責任を持ち適切な政策を実施してこそ、新しい雇用が生まれる労働市場環境が確保できる」という認識。別に言うなら、例えば安易で無責任な「社会的排除」(Social Excluion/英国ブレア政権は、このマイナス面が世代間に引き継がれると認識して「社会的包摂」(Social Inclusion)を対策として打ち出し、それはブラウン政権へ引き継がれている)は、却って遥かに高い費用となって社会システム全体と行政・企業側へ伸し掛かってくると理解すること。

(最低賃金の引き上げに関する基本認識の変更=絶対的貧困拡大への歯止めとして重視)


● 現行の最低賃金(東京)の時給739円(全国平均は時給687円)は、イギリスで言えば「16歳〜17歳の最若年労働者」に適用される水準であり、これは余りにも低すぎる。世界第二位の経済大国を誇るには、余りにもお粗末すぎる。因みに、イギリスの最低賃金は時給1250円。


●ドイツは労使間の信頼に基づいた緊密な協力で賃金を決定するという伝統があったため最低賃金制は存在しない。しかし、ドイツ統一後に数百万人の低賃金の労働者が労働市場に加わり賃金にかかわる絶対的な不平等が拡大してきた。このため、現在は最低賃金制導入の是非が議論されている。


●つまり、極貧移民層の拡大が見られるドイツでは、相対的貧困率への目配りだけでは不十分なので絶対的貧困拡大への歯止めとして最低賃金引き上げの重要性が再確認されつつある。また、EU域内にもブルガリア(既述)のような最貧国との絶対的格差の問題が存在する。このため、ドイツの最低賃金引き上げの動向は、 EU全体の問題として再認識される可能性がある。


●言うまでもないことだが、最低賃金の引き上げは日常的にギリギリの生活を送る貧困層へカネが渡るため直ぐに消費拡大へ結びつき、内需拡大の大きな助けとなる。逆に富裕層の賃金が上がっても、それは預貯金か投資へ流れる可能性が大きく内需拡大への貢献はあまり期待できない。無論、このような観点だけでなく、最低賃金の引き上げの問題は「人的資本形成」と「フレキシキュリティ」(積極的労働市場政策)の観点をも併せて考慮すべき問題である。

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